「コントロール可能」なことだけに専念する

JFAにおける打ち手が見えたのには、須原さんがこれまで経営者として活躍されてきたことが背景にあるのかと思います。これまでのビジネスキャリアの中で印象に残っていることを教えてください。

須原 私の人生を変えたのはGABAでの経験です。2004年に英会話学校のGABAの副社長兼COOに就任し、2006年にはマザーズに上場させました。当時はまさに飛ぶ鳥を落とす勢いで、上場直後には24万円の株価がつくまでになりました。しかし様々な要因によって、それからわずか2年で株価は2万円まで下がり、青天の霹靂のごとく解任をされることになりました。私としては「自分だけが悪いのではない」「あいつだって悪いじゃないか」と、まさに自棄のやん八のような状態でした。

 その後、転職の誘いもいただいていたのですが、仕事への意欲が起きなかったので少しゆっくり過ごそうと思っていました。ただ時間を持て余していたので、GABAでの経験を本にまとめようと考えたんです。結果的に解任されましたが、ファイナンスやアカウンティング、マーケティングなどで色々な取り組みやチャレンジを実行しており、それらをケーススタディとともに見せていくと面白い教材になるだろうと考えました。そして、単行本で300ページほどの文章を一気に書き上げたのですが、読み直してみるとどうにもつまらないんです(笑)。なぜなのかを考えてみると、「あいつが悪い」「こいつが悪い」と書いているものの、その要因は私自身が間違った意思決定を下していたり、下手なマネジメントをしていたことだったと気づいたんです。

 その時、「キャリアというものは与えていただくものであって、自分でコントロールできるものではない」ということにも気が付きました。それまでは何らかの目標に対して逆算してスケジュールをつくり、いつまでにこれを達成するというように突き進んでいたのですが、自分がこうありたいと思っても、それは自分ではコントロール不能なことなんです。そして、与えられた環境の中で100%の力を出し切ることこそがプロフェッショナルだということを理解したんです。GABAを解雇されたことによる代償は大きかったですが、その後、いい意味で生き方が楽になりましたし、ビジネスでも結果を出せるようになっていきました。

自分ではコントロール不能なものがあると気づいたことが大きかったということですね。

須原 ええ。ですから、その後はコントロール可能なことに専念するようにしています。一方で、コントロール不能なことであっても、何が起きているのかをできる限り正確に理解し、それを受け入れることが重要です。

 例えばJFAの場合、日本代表のチケットを買ってもらえるかどうかは、最終的にお客様が決めることなので我々にはコントロールできません。ただ、買ってもらう前の段階として興味を持ってもらうためには何が大切かを考え、深掘りし、仮説を立てて実行し、その結果を検証して次に活かすというプロセスはコントロール可能です。結果の部分はコントロール不能ですからそこに一喜一憂してはいけません。事実をしっかりと受け入れた上で、その上で次はどうするかというコントロール可能なところに専念しなくてはならないのです。

 これは一般企業にも言えることだと思います。例えば上司と部下の関係で言うと、部下というのはコントロール不能なものです。上司や会社が、インセンティブなどを用いることで部下のモチベーションをコントロールできるという考えを目にすることがありますが、あれは愚の骨頂だと思います。部下のモチベーションを上げるのは部下自身であり、上司や会社がコントロールできるものではないんです。部下をコントロールできると思っている時点で、そのマネジメントは破綻しています。

 その逆に、上司や会社は、部下や社員のモチベーションを下げることに関しては天才的にうまいです(笑)。ですから、上司や会社ができるコントロールというのは「モチベーションを下げることをやめる」ということです。そのために目的を明確にする、的確な指示を出す、適切なサポートを入れるといった行為を行わなくてはならないのです。