卓球で沖縄変える、沖縄から卓球変える Tリーグ琉球の挑戦

琉球アスティーダ 代表取締役 早川周作氏インタビュー(前編)

2018/11/12 05:00

久我智也=ライター

 近年目覚ましい躍進を遂げている日本卓球界。これまで以上の競技の発展、そして2020年東京オリンピックでの世界一の奪還を目標に、2018年10月24日、日本初のプロ卓球リーグ「Tリーグ」が開幕した。初年度にTリーグに参加するのは男女各4チーム。その多くが大企業からの支援を受けるチーム、あるいは大都市に拠点を置くチームだが、その中で異彩を放っているチームがある。沖縄県に拠点を置く「琉球アスティーダ」だ。元々日本卓球リーグに所属し、リーグ屈指の人気チームであった同チームだが、なぜこの度Tリーグに参戦を果たしたのか。代表取締役の早川周作氏に狙いを聞いた。(聞き手:上野直彦=スポーツジャーナリスト、久我智也)

琉球アスティーダに所属する、世界ランキング10位(2018年11月時点)の丹羽孝希選手(写真:琉球アスティーダ)
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30分で代表就任を即決

 早川さんはこれまでビジネスの世界で活躍されてきたわけですが、2018年3月に琉球アスティーダの代表に就任されました。その背景を教えてください。

早川 私は2011年3月の東日本大震災の後に沖縄県に移住しました。沖縄では様々なビジネスに携わり、琉球大学でも教鞭をとっています。そうした中で貧富の格差が大きいことなど、沖縄の現実を知り、「沖縄のために自分に何かできることはないか」と常々考えていました。

早川周作氏。1976年生まれ、秋田県出身。SHGホールディングス代表取締役、琉球アスティーダスポーツクラブ代表取締役、南青山リーダーズ取締役など。大学受験直前に家業が倒産し、父親が蒸発するが、新聞配達などのアルバイトをして学費を作り、明治大学法学部に進学。大学在学中に学生起業家として数多くの起業の経営に参画。その後、羽田孜元首相の秘書を務め、28歳の時に国政選挙に出馬。東日本大震災後には沖縄に移住し、数々の企業の取締役や顧問などを務め、業種業界を超えた幅広い分野で活躍している。2018年3月に琉球アスティーダスポーツクラブ株式会社代表取締役に就任(写真:久我智也)
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 そんなとき、現在Tリーグチェアマンを務める松下浩二さんと出会い、「卓球は5歳から始めて、そこまでお金をかけなくとも、15歳でオリンピックのメダルを獲得できるチャンスのあるスポーツ」ということを言われたんです。そこに関わることは、まさに自分がやりたいことであり、自分にしかできない仕事だと感じ、お話を聞いて30分ほどで琉球アスティーダの代表になることを引き受けました。

 常々地域のために行動しようと考えていたとはいえ、即決だったのですね。

早川 私は「光の当て方を変える」ことがすごく好きなんです。私自身、19歳の時に父が会社を潰して蒸発し、新聞配達をしながら夜間学校に通い、23歳の頃に起業しました。その後、羽田孜元首相の秘書をやり、衆議院選挙にも出馬しました。こうした行動は「強い地域・強い者のためではなく、弱い地域・弱い者のために社会基盤を働かせなくてはならない」という考えに則ってのもので、そのために都度、光の当て方を変え続けてきたのです。松下さんからいただいたお話は、スポーツビジネスを通して光の当て方を変えるものでした。

リーグ構造に感じるいびつさ

 2018年3月からTリーグに携わり半年以上が過ぎました(取材日:2018年10月15日)。現時点で感じているTリーグの課題を教えてください。

早川 地域とスポーツに対する考え方については、今の段階では私とは乖離があると感じています。例えば男子の開幕戦は、木下マイスター東京(東京都)対T.T彩たま(さいたま市)という関東勢同士の対戦でした。でも本来、プロスポーツは地域で盛り上がらないといけないものですよね。開幕戦という注目が集まる試合で沖縄や岡山のチームを出さず、関東勢同士のカードを持ってくるというのは、言い方は悪いですが、センスがないなと感じました。Bリーグの場合、アルバルク東京対琉球ゴールデンキングスという、東京対地方の対決で非常に盛り上がりました。あの盛り上がりが今につながっている部分は少なからずあるのではないでしょうか。

 その他にも不明確な部分や、構造自体がいびつに感じる部分はあります。例えば運営にまつわる権利的な面、収入的な面です。最初の1年はリーグが興行権を持つので、チケット収入はチームではなくリーグに付きます。ある程度の分配金はもらえるという話ですが・・・。

 それから放映権についても、当初はリーグ側が交渉をしていくことで話が進んでいたのですが、開幕直前になって各チームが行うことになりました。またグッズ収入の何%かはリーグに収めることになります。そういったことをするのは、リーグにお金がないからなんです。しかし我々としても、丹羽孝希選手や江宏傑(ジャン ホン ジェ)選手を始め、オリンピックを目指している中で貴重な時間を割いてアスティーダのために戦ってくれる選手たち、そしてチームを守っていかなくてはなりません。だから、リーグ側の課題は感じながらも、独自に前進して行こうと考えています。

 チケット収入がリーグに付くとなると、チームとしてはどうやって利益を得ていくのでしょうか。

早川 スポンサーとグッズ収入、加えて独自の売上があります。アスティーダの場合は卓球バルです。その名の通り卓球を楽しみながら飲食できるお店で、県内に数店舗構えています。1店舗あたりのひと月の売上は1回の興行と同じくらいの収入になるので、これがメインになってきます。加えて、今後は卓球教室も始めようと考えているので、これも貴重な収入源になっていくでしょう。

試合結果よりファンと地域に愛されるチーム作り

「独自に前進する」という点では、琉球アスティーダは競輪競技の銀メダリスト・長塚智広氏や、ハンドボール元日本代表の東俊介氏、tsumiki証券の仲木威雄氏や弁護士の五十部紀英氏など、他競技、他業界の人々が役員に名を連ねているのが特徴的です。

早川 卓球は卓球、野球は野球というように固定化された枠組みで物事を考えるのは好きではありません。競輪には競輪の良いところ、悪いところがあるでしょうし、ハンドボールも同様です。そういったところを学びたいと考え、長塚さんや東さんに入っていただいています。

 東さんは競技の枠に囚われず、スポーツ界全体に非常に広い人脈を持たれているので、その点でもご協力いただきたいと考えています。私はこれまでスポーツビジネスに携わって来た人間ではありませんし、人脈があるわけでもない。ある問題に行き当たったとき、私の力では解決するのに1時間かかることが、東さんにスポーツ関係の方をご紹介いただければ5分で終わるということもあるかもしれません。そういったように、スポーツ業界の人脈を広げ仕事を効率化していく上で、彼のような人間的魅力に溢れた方に入っていただけたことは非常に大きいと感じています。

 また、過去のスポーツ界はスポーツだけをやってきた方が経営するケースが多かったですが、これからのスポーツビジネスはそれではいけません。金融やコンプライアンスの知識を持って経営していかなくてはなりませんから、仲木さんや五十部さんなどにもご協力いただいています。私はこのビジネスを持続可能なものにすることを前提にしていますので、こうした各種専門家の力をお借りしているのです。

そういった中で、初年度のチーム目標をどのように設定しているのでしょうか。

早川 当然、優勝して初代王者を目指すことは1つの大きな目標に掲げています。ただ、私自身は実は成績にそこまでこだわっていません。プロスポーツは、優勝するチームがもうかり、人気があるかと言ったら、決してそうではないと思っています。それよりも、ファンから、地域から応援され、愛されるチームづくりが大切だと思っています。ですから、試合に来場した方に楽しんでいただき、応援したくなり、愛したくなるようなチームを作っていく。そしてファンと共に、地域と成長していくチームを作っていくことを目標としています。

 そのためには、卓球を「観るスポーツ」として確立させる取り組みが必要になりますが、どういった施策をお考えでしょうか。

早川 私は東京ドームの年間シートを保有しています。だた私の場合、東京ドームに野球を観に行くというよりも、あの空間を味わいに行っています。独特の雰囲気があり、飲食を楽しんでリラックスする、そして野球を観る。そう考えると、卓球というコンテンツだけで人を呼ぶことには限界があるので、楽しめる空間づくりをすることが非常に重要だと考えています。

 例えばエンターテイメントの部分では、沖縄で人気のお笑い芸人の方や有名なMCの方、地元大学のフラダンスチームなどを呼んで盛り上げますし、グルメの部分では肉フェス的なイベントを開催していくことも検討しています。その他にも、卓球と関連した婚活イベントなども実施したいと考えています。

 このように、楽しい体験、美味しいもの、新しい出会いを提供できる空間をつくっていき、来場者を増やす。そのうえで卓球の試合を観てもらい、スポーツとしての魅力も広げていく流れをつくっていきたいと考えています。

  観戦体験の向上のためには、アリーナやテクノロジーへの取り組みも大切なものとなります。

早川  アリーナについては、中城のアリーナ構想が気になっているところです。これは2016年に議会承認が下りているものなのですが、県北部、東部、中部からもアクセスしやすい位置にあり、駐車場やショッピングモールもあるので、実現すれば面白いなと思っています。

 もちろんテクノロジーにも興味を持っています。例えば、トッププレーヤーの試合を見ていても「素人でも打てそうなボールをなぜ返せないんだろう」と感じることがあると思いますが、あれは、ボールにすごい回転がかかっているからなんです。そういった回転数を測れる技術を導入したり、VR(仮想現実)を活用して擬似的に選手と対戦できるようなアプリを作り、ファンの方に楽しんでもらう。このように、テクノロジーを使って卓球選手の凄さを伝えていきたいと考えています。

業界の「タブー」を壊したい

 そうした循環や施策ができると、卓球というスポーツの価値も拡大し、Tリーグが掲げる「卓球関連の職域拡大とセカンドキャリアの創出」「卓球産業の拡大」といった理念の実現につながる気がします。こうした理念についてはどうお考えでしょうか。

早川 スポーツ選手が引退後に起業をしても稼げないことが多くあります。失礼な言い方になってしまうかもしれませんが、それはスポーツしかやってきていないからです。もちろん、色々なものを犠牲にしてスポーツに打ち込んできたことはリスペクトすべきですし、もっと認められていいことだと思っています。しかし、引退後のことを考えると、現役時代からビジネス的な感覚を持たせること、経営感覚を養うことは非常に重要です。

「業界のタブーを壊したい」と言う早川氏(写真:久我智也)
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 アスティーダでは、選手たちに対して引退後もしっかりとご飯が食べられるように教育をしていきたい。そして、チームが運営する卓球バルや卓球教室のフランチャイズを任せるといったことを考えています。一方、スポーツで名を成した選手の中には人の下で働くことを嫌がるケースもあると思いますので、そういった場合には起業のサポートもしていきます。そういう仕組みや受け皿を増やすことで、セカンドキャリアの創出をしていきたいですね。

 もう1つ重要なことだと考えているのが、選手の年俸に関する情報を公表していくことです。例えば我々は、丹羽選手に対して1日の試合に出場することで100万円を、勝利給としては30万円を出します(金額はいずれも推定)。なぜプロ野球選手があれだけ球児たちの憧れの的になるかと言ったら、高年俸がもらえるからですよね。

 同じように、敢えてTリーグの選手たちの収入を発表していくことで、卓球に夢を持ってほしいんです。そうすれば子供たちも練習を頑張るでしょうし、卓球に対する考え方も変わってくるでしょう。

 もちろんお金がすべてではありませんが、スポーツ業界はそういったお金の部分を隠しがちなので、そのタブーを壊し、現実を知ってもらうことが重要だと思います。

 ところで、アスティーダとしては現在どのような課題を抱えているのでしょうか。

早川 率直に言うと課題はありません。というのも、我々はベンチャーとしてやってきた経験があるので、課題を課題と思わない習慣が身についています。もちろん解決すべきことはありますが、それは決して解決できないものではなく、やるべきことが明確になっています。あれもできる、これもできるという考えの方が強いですね。今は歴史を変える仕事をしているわけなので、課題とは感じずに、前へ前へと進んでいる状況です。

(後編へ続く)