人口減に負けない、世界に「日本」売り込むJリーグ海外戦略

「KEIO Sports X」報告(1)

2016/11/07 00:00

久我 智也

 創設から20年以上が経ったJリーグ。英パフォームグループと2017年から10年間、総額2100億円にものぼる放映権契約を結び、今、世界に打って出ようとしている。ただし、Jリーグの世界進出は今に始まったことではなく、数年前から積極的な海外展開を行っている。「地域密着」を理念に掲げるJリーグが海外展開を強化する理由は何か、実際にどのような効果が得られているのか。Jリーグ国際部部長の山下修作氏が、慶應義塾大学大学院システムデザイン・マネジメント研究科(SDM)が主催したスポーツ産業カンファレンス「KEIO Sports X」(2016年10月11日)で語った、Jリーグの海外戦略を2回に渡って談話形式でお伝えする。

試合以外も楽しめるJリーグの魅力

Jリーグ国際部部長の山下修作氏。大学卒業後、リクルートに入社して営業や編集、Webメディアのプロモーション等に携わる。退職後、2005年よりJリーグ公認サイト「J’s GOAL」の運営やJリーグのWebプロモーション事業に従事し、2015年4月よりJリーグ国際部にて海外戦略を担当している
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 かつて日本でサッカーは不人気のスポーツでした。観客はとても少なく、選手たちがプレーするのはボロボロの芝生の上。代表チームも弱く、ワールドカップ(W杯)出場なんて夢のまた夢と言われていました。

 そんな状況の中、川淵三郎さん(現日本バスケットボール協会 エグゼクティブアドバイザー)たちが「日本をW杯に出す」「そのためにはプロ化しなくてはならない」と訴え、実際にプロ化を果たしました。当時は99.9%の人がプロ化しても絶対にうまくいかないと考えていたでしょう。しかし10クラブ8府県からスタートしたJリーグは、それから23年が経ち、現在では53クラブ38都道府県に拡大し、日本全国に広がっています。当初の目標通り、日本代表も強くなり、W杯には5大会、オリンピックには6大会連続で出場しています。

 日本代表が強くなったのは、Jリーグが生まれたからこそだと言えます。ではそのJリーグの魅力はどんなところにあるのか。私は、Jリーグが世界に誇れるものがいくつもあると考えています。

 その最たるものが、年齢や性別を超えて楽しめるということです。今、Jリーグの観客層の50%ほどがファミリー層で男女比は男性60%、女性が40%という割合です。「サッカーのサポーター」と聞くと「ゴール裏で叫んでいる男の人たち」というイメージを抱くかもしれませんが、実際にはもっと多様な属性の人が見に来ているのです。彼ら、彼女らは、試合を見に来るだけではなく、「1日中楽しめるレジャー」としての価値をJリーグに見いだしています。

 そうした価値を感じてもらっている要因の1つがマスコットです。ヨーロッパのリーグのマスコットはあまり可愛くないのですが(笑)、Jリーグの各クラブのマスコットはとても可愛らしく、芸達者で、子供にも人気があります。運営側には試合の勝敗はコントロールできませんが、マスコットと触れ合うことで楽しさを与えることはコントロールできます。マスコットのクオリティーを保ち、魅力を感じてもらうことで「試合には負けたけど、子供がマスコットと触れ合って楽しかったからまた来たい」と思ってもらい、試合とは別の楽しさを与えることができるのです。

 また、グルメが充実していることも老若男女に人気の要因です。最近のJリーグは試合会場がグルメイベントのようになっていて、ホームチームがある地域の名物グルメが充実しています。食事が充実すると、地元の人たちはもちろん、アウェイから来る人たちも楽しむことができますし、その地域に対する理解も深まります。リーグとしても「スタジアムグルメ」の充実を促す企画を行っており、そのベストイレブンを発表するというような取り組みも行っています。

Jリーグがプレミアリーグに勝っているもの

 このように、試合以外の楽しさも充実しているということが、Jリーグが世界に誇れるものです。さらに、「日本において」という前提をつけた上での話になりますが、世界で最も人気のあるイングランドのプレミアリーグにも勝っているものがあります。それは日本人のアイデンティティを刺激するということです。

 例えばモンテディオ山形というチームが2008年に初めてJ1に昇格を決めた時、中年の男性が人目をはばからずに泣いていました。2015年、アビスパ福岡というチームが5年ぶりにJ1に昇格した際には、ゴール裏で小学1年生ぐらいの女の子が涙を流して喜んでいました。それぐらいの年齢の子が悲しくて泣く、悔しくて泣くことはあるでしょうが、嬉しくて涙を流すことはなかなかないでしょう。

 彼らがどれだけサッカーが好きでも、テレビでマンチェスター・ユナイテッドやFCバルセロナの試合を見てそこまで感情移入して号泣するということはないと思います。山形や福岡という、自分のアイデンティティがある地域のクラブだからこそ、涙を流すことができるのです。

人口減少社会で抱える危機感

 では、Jリーグは現在どのような状況にあるのでしょうか。

 2015年度のJリーグの収入は130億円(主に放映権料とスポンサー料)でした。J1、J2、J3の各クラブの総収入は875億円で、リーグ収入と合算すると1000億円ほどになります。年間入場者数はJ1、J2、J3を合わせて延べ1004万人で、2015年に初めて1000万人を超えました。

1試合あたりの平均入場者数を見てみると、J1では1万7000人ほど。プロ野球の場合、1試合平均の入場者数が3万人前後なので、人数だけを考えるとまだまだ敵いません。ただ、この1万7000人という数字は、有名なアーティストが横浜アリーナなどでコンサートをしたときに入るのと同等の数なのです。有名アーティストは2週間に1回ものペースで地方には来てくれませんが、J1のチームがある地方では、隔週でこれだけの人が集まるイベントが開催されているのです。もちろんこの数をさらに伸ばしていかなくてはなりませんが、1万人を超えるイベントを定常的に開催していることは評価に値すると言えるでしょう。

 こうした市場規模や平均観客数は、少し前まではアジアでもダントツのトップでした。現在、市場規模は中国のリーグに抜かれてしまいましたが、それでもアジアの中では上位に位置しています。

 ではJリーグは安泰なのかというと、決してそうとは言えません。1993年のスタートから20年以上が経ち、日本全国にJリーグを広げることは一定の成功を収めたものの、これから先の日本は少子高齢化が進み、人口は減っていきます。そのような背景の中、これまでと同様、地方にクラブを作り続けるというビジネスモデルを進めていくだけでは、さらなる発展はないという危惧を感じていました。

発展のカギは海外にあり

 私がそんな危機感を抱いたのは2010年頃のことです。当時私は、Jリーグ公認ファンサイトである「J’s GOAL」の運営やJリーグのWebプロモーションを担当しており、リーグ全体の方向性を考えるような立場にはありませんでしたが、勝手に危機感を抱いていたのです(笑)。

 当時のJリーグの収益源はスポンサー料と放映権料の2つです。しかし国内経済の先細りが予想される中にあって、新たなビジネスモデルを構築し、第3の収益源を作る必要性を感じていました。そこで着目したのが、当時は取り組めていなかった海外展開です。海外にこそ、Jリーグの発展のカギがあると考えたのです。

 2010年頃のJリーグはアジアではトップの規模を誇っていましたが、世界に目を向けてみると、ヨーロッパのリーグはJリーグとは比べものにならないほど大規模なものでした。特にプレミアリーグの市場規模は2500億円で、Jリーグの20倍以上の数字です。この2500億円という数字は、国内だけではなく、世界中をマーケットとして捉え、世界中に放映権を売ることで達成されています。

2010年時点でのアジアとヨーロッパリーグの市場規模。当時日本はアジアで群を抜く市場規模であったが、ヨーロッパのリーグとは比較にならない数字であった
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 実際、2500億円のうち1300億円は海外に対する放映権料となっています。その1300億円の70%ほど、約600~700億円は、アジアからの放映権収入となっています。さらにプレミアリーグをはじめ、ヨーロッパのクラブのスポンサーとなっているアジア企業も多くあります。放映権料とスポンサー料を合わせると毎年2000億円以上ものお金が、アジアからヨーロッパに出て行っているのです。

 アジアにはサッカーに使われるお金はたくさんあるのに、それがアジアのためには使われていないという状況を見て、そのお金をJリーグで獲得できないかと考えました。2000億円のうちの10%でもJリーグに入ってくるような仕組みを構築できれば、我々が求めている第3の収益の柱を作ることができるのですから。

「弱かった」「歴史が浅い」「アジアにいる」という “強み”

 では、アジアのお金をJリーグに取り込むためにはどうすればいいか。それを考えるために、まずJリーグの強みについて見つめ直しました。私が考えるJリーグの強みとは、「弱かった」「歴史が浅い」「アジアにいる」という3つです。「それは強みではなく、むしろ弱みなのではないか」と感じる方もいるでしょう。しかしこれこそが、Jリーグにアジアマネーを取り入れるための重要なキーワードなのです。

 はじめにお話したように、かつて日本のサッカーはとても弱かった。韓国や中国どころか、東南アジアの国にもなかなか勝つことができませんでした。しかしJリーグを作ったことで急速に成長し、今ではW杯の常連国になりました。こんなにも急速に成長を遂げた国は、世界を見ても日本だけです。ですから、逆の視点で言うと、我々は弱く歴史が浅かったからこそ、短期間で強くなるノウハウを持っているということです。

 さらに日本は、経済成長を続けるアジアの一国です。同じアジアの一員だからこそ、アジアの人々に対して「共に成長していきましょう」というメッセージを発することができるのです。

 だからJリーグは、同じアジアの国々に対して「短期間で強くなるためのノウハウ」を売り込んでいくことで、アジアからヨーロッパに流れるお金の一部を取り込むことを目指しました。1つの国から3億円ぐらいを売り上げ、それを10カ国に展開すれば30億円になります。リーグ全体の売上を120億円から150億円に伸ばすことを目指し、アジア展開をスタートしていきました。(談)