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人口減に負けない、世界に「日本」売り込むJリーグ海外戦略

「KEIO Sports X」報告(1)

2016/11/07 00:00

久我 智也

 例えばモンテディオ山形というチームが2008年に初めてJ1に昇格を決めた時、中年の男性が人目をはばからずに泣いていました。2015年、アビスパ福岡というチームが5年ぶりにJ1に昇格した際には、ゴール裏で小学1年生ぐらいの女の子が涙を流して喜んでいました。それぐらいの年齢の子が悲しくて泣く、悔しくて泣くことはあるでしょうが、嬉しくて涙を流すことはなかなかないでしょう。

 彼らがどれだけサッカーが好きでも、テレビでマンチェスター・ユナイテッドやFCバルセロナの試合を見てそこまで感情移入して号泣するということはないと思います。山形や福岡という、自分のアイデンティティがある地域のクラブだからこそ、涙を流すことができるのです。

人口減少社会で抱える危機感

 では、Jリーグは現在どのような状況にあるのでしょうか。

 2015年度のJリーグの収入は130億円(主に放映権料とスポンサー料)でした。J1、J2、J3の各クラブの総収入は875億円で、リーグ収入と合算すると1000億円ほどになります。年間入場者数はJ1、J2、J3を合わせて延べ1004万人で、2015年に初めて1000万人を超えました。

1試合あたりの平均入場者数を見てみると、J1では1万7000人ほど。プロ野球の場合、1試合平均の入場者数が3万人前後なので、人数だけを考えるとまだまだ敵いません。ただ、この1万7000人という数字は、有名なアーティストが横浜アリーナなどでコンサートをしたときに入るのと同等の数なのです。有名アーティストは2週間に1回ものペースで地方には来てくれませんが、J1のチームがある地方では、隔週でこれだけの人が集まるイベントが開催されているのです。もちろんこの数をさらに伸ばしていかなくてはなりませんが、1万人を超えるイベントを定常的に開催していることは評価に値すると言えるでしょう。

 こうした市場規模や平均観客数は、少し前まではアジアでもダントツのトップでした。現在、市場規模は中国のリーグに抜かれてしまいましたが、それでもアジアの中では上位に位置しています。

 ではJリーグは安泰なのかというと、決してそうとは言えません。1993年のスタートから20年以上が経ち、日本全国にJリーグを広げることは一定の成功を収めたものの、これから先の日本は少子高齢化が進み、人口は減っていきます。そのような背景の中、これまでと同様、地方にクラブを作り続けるというビジネスモデルを進めていくだけでは、さらなる発展はないという危惧を感じていました。

発展のカギは海外にあり

 私がそんな危機感を抱いたのは2010年頃のことです。当時私は、Jリーグ公認ファンサイトである「J’s GOAL」の運営やJリーグのWebプロモーションを担当しており、リーグ全体の方向性を考えるような立場にはありませんでしたが、勝手に危機感を抱いていたのです(笑)。

 当時のJリーグの収益源はスポンサー料と放映権料の2つです。しかし国内経済の先細りが予想される中にあって、新たなビジネスモデルを構築し、第3の収益源を作る必要性を感じていました。そこで着目したのが、当時は取り組めていなかった海外展開です。海外にこそ、Jリーグの発展のカギがあると考えたのです。

 2010年頃のJリーグはアジアではトップの規模を誇っていましたが、世界に目を向けてみると、ヨーロッパのリーグはJリーグとは比べものにならないほど大規模なものでした。特にプレミアリーグの市場規模は2500億円で、Jリーグの20倍以上の数字です。この2500億円という数字は、国内だけではなく、世界中をマーケットとして捉え、世界中に放映権を売ることで達成されています。

2010年時点でのアジアとヨーロッパリーグの市場規模。当時日本はアジアで群を抜く市場規模であったが、ヨーロッパのリーグとは比較にならない数字であった
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 実際、2500億円のうち1300億円は海外に対する放映権料となっています。その1300億円の70%ほど、約600~700億円は、アジアからの放映権収入となっています。さらにプレミアリーグをはじめ、ヨーロッパのクラブのスポンサーとなっているアジア企業も多くあります。放映権料とスポンサー料を合わせると毎年2000億円以上ものお金が、アジアからヨーロッパに出て行っているのです。