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スポーツとイノベーション

鍵はスポーツの「活用」 求む、価値をお金に変える人材

「"SPORTS X"Conference 2018」報告(3)

2018/10/15 05:00

浅野智恵美=ライター

 「スポーツの本質は勝ち負けだけでは語れません。大事なのはゲームそのものの品質や、ゲームがもたらす派生的な価値。これをどう捉えるかにつきます」――。

 2018年8月2~3日に開催されたスポーツ産業の総合カンファレンス「KEIO SDM "SPORTS X"Conference 2018」(主催:慶応義塾大学大学院SDM研究科)で講演したスポーツマーケティングラボラトリー代表取締役の荒木重雄氏は、スポーツビジネスを成功させるためにはスポーツの本質・価値を理解することが重要とのメッセージを投げかけた。「スポーツ産業成長の本質を探る 〜ポスト2020に向けていまからすべきこと〜」と題した講演内容を紹介する。

スポーツマーケティングラボラトリー代表取締役の荒木重雄氏
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オリンピックを“手段”に、どう使うのか

 スポーツ市場の規模は2015年時点で5.5兆円。政府はそれを2020年までに10兆円、2025年までに15兆円に拡大することを目指すとしている。「一般的な会社を例に見ても、7年間で3倍の売上げを達成することは大変なこと。ましてや出来たばかりの産業ではなく、何十年、あるいは100年以上も続く産業であるから容易ではない」と荒木氏は言う。

荒木氏 「BtoC、BtoBtoCなどは企業のビジネスでよく使われる言葉ですが、スポーツも同じです。“S(Sports)×BtoC”、あるいは“S×BtoBtoC”、スポーツ自体には商品がありません。あらゆるスポーツ産業を一つひとつ因数分解すると、スポーツだけで成り立っているものはなく、全てBやCによって構成されている。目に見えない価値を掛け合わせています」

 「スポーツは“する・見る・支える”とよく言われていますが、これでは目標とする3倍にはたどり着けないでしょう。これからキーワードになるのが“する・見る・活用”です。活用とは、使うというだけではなく“使われる”も含みます。もしスポーツ×ビジネス を主語にしたならば、スポーツ側はどうやって使ってもらうか、またはビジネス側はどうやって使うのか。鍵となるのはスポーツ人材です。人材といっても、単純に優秀な人材を集めれば良いという訳ではありません」(同氏)

荒木氏 「最近、スポーツ業界は2020年の東京オリンピックに向けて盛り上がっていますが、これを違う視点で見ることが必要です。1964年に東京オリンピックがありましたが、このとき我々の先輩方は東京オリンピックをどう活用したのか。決してオリンピック自体を“目的”にはしていなかったように見受けられます。オリンピックを“手段”にしたことによって、今我々が当たり前のように接している首都高速道路や新幹線、カラーテレビ、冷凍食品の技術など、さまざまな社会インフラが整ってきました」

 オリンピック自体をどう活かすではなく、手段として“その後の日本の社会にどう活かせるか”という視点が1964年の時点であったという。それが変化したのが1984年の“商業五輪”と呼ばれるロサンゼルスオリンピックだ。

荒木氏 「ロサンゼルスオリンピックまでとの違いは、オリンピック自体が目的化されたこと。オリンピックで民間のお金を活用し、オリンピックそのものがひとつの“商品”として成り立つことを証明しました。一つの興行をやるときにはチケッティング・放映権・スポンサーシップ・ライセンス、この4つの事業の柱をどう最大化させるか。さまざまなものを駆使しながら、一つひとつの柱を拡大していこうという発想が起きました。今でも日本のスポーツ業界はこのモデルをひとつの教科書として活用しています。これがスポーツ興行自体を目的とした発想です」

1964年はオリンピックを手段にしたが、1984年は「目的」にした
(図:スポーツマーケティングラボラトリー)
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 2年後には東京オリンピックが開催される。荒木氏はオリンピックというイベントの成功を考えることは大前提として、今考えるべき課題は「東京オリンピックを手段としてどう使うのか、何をやるのか」だと述べる。

荒木氏 「これだけ成熟した社会になり、オリンピックがなければ出来ないことを見つけるのはなかなか難しい。ただ、ひとつのテーマとしては、政府が掲げているように“ポスト2020をどうするか”です。ハード面のレガシー、ソフト面のレガシーがあるとして、東京オリンピックを活用してスポーツ産業そのものをどう成長させるのか。オリンピックを使ってどこまでスポーツ産業の活性化ができるかが今の問題です」