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スポーツとイノベーション

スポーツビジネス、「新たな体験価値」創出に不可欠なもの

「スポーツビジネス創造塾 第2期」報告:ワークショップ編(その2)

2018/10/02 05:00

久我智也=ライター

 スポーツ業界に吹く追い風を生かし、新たなスポーツビジネスの創造を目指す人々が集った「スポーツビジネス創造塾 第2期」(主催:日経BP総研 未来ラボ)。2018年5月に、4日間に渡って開催されたこの塾では、スポーツビジネスの最前線で活躍する有識者の講演や、参加者同士が議論を交わしながらスポーツビジネスプランを考えるワークショップなど、受講生に刺激を与え続けるプログラムが用意された。

 中でも大いに盛り上がりを見せたのが、3日目に実施されたフィールドワークである。実際にスポーツビジネスの現場に足を運ぶことで、スポーツをビジネスとして成立させるために必要なものを学び、新たなスポーツビジネスを創造するためのヒントを得る。そのために訪れたのは、プロ野球・横浜DeNAベイスターズが運営する「THE BAYS(ザ・ベイス)」だ。フィールドワークとワークショップ後には同球団の公式戦も観戦。「スポーツ×まちづくり」というテーマにおける国内の先進事例に直に触れ、受講生はどのような気づきを得たのだろうか。4日目に実施されたビジネスプランの発表の模様と合わせてレポートする。
スポーツビジネス創造塾3日目、フィールドワーク訪問地「THE BAYS」の前に集った受講生。

現場で「楽しむ」ことがアイデアを深める

 この日、THE BAYSなどのツアーガイドを務めたのはスポーツマーケティングラボラトリー 執行役員の石井宏司氏。スポーツを活用したさまざまな社会課題の解決を支援する同氏は、冒頭で次のように述べた。

THE BAYSのシェアオフィスの共用スペース。イノベーションの創出を目指す場として、定期的にワークショップやイベントなども開催している。

石井 「今日は“思いっきり楽しむ”ことがテーマです。スポーツビジネスは、少なからずエンターテインメントの要素を持ち、人の心を豊かにするビジネスです。皆さん自身の心が豊かにならないと、いいビジネスはつくれません。楽しむ中から生まれてくるアイデアが、成功するサービスにつながると思います。今日の体験を通じて、ワークショップで議論した内容を、いったん壊してみてください。それが自分たちのアイデアを一歩先に進めることにつながってくるでしょう」

 それぞれがこの言葉を胸に刻み込み、THE BAYSでのフィールドワークがスタートした。

 THE BAYSは、2017年3月に、横浜DeNAベイスターズが横浜・関内地区にオープンした複合施設だ。野球のテイストを加えたライフスタイルショップに加え、フィットネススタジオやカフェ、さらにはクリエーターや企業が入居できるシェアオフィスなどを併設。一般的なシェアオフィスと異なるのは、入居する個人・企業がいずれも主に「スポーツ」に関連したテーマに取り組んでいる点だ。ベイスターズのスタッフなども含めて定期的にワークショップやイベントなどを実施し、横浜の地から新たなスポーツ、新たなスポーツビジネスを生み出そうとしている。

 受講生は、球団スタッフの案内を受けて施設を巡り、時には目を輝かせ、時にはビジネスのヒントを得ようとスタッフに質問を浴びせ、大いに刺激を受けながらスポーツビジネスの現場に触れている様子だった。

「不」の解消がビジネスチャンスを生む

 1時間ほどのフィールドワークを終え、一行は横浜開港記念館に移動し、講演とワークショップに臨んだ。まずは石井氏が登壇し、「ビジネスのポイントは『不』の解消にあり」と題したオリエンテーションを実施し、ビジネス構築のためのヒントを提示した。

 個人消費の停滞が叫ばれていた2010年前後、スポーツや音楽フェスなどの盛り上がりを見て「人の感情を揺れ動かすビジネスが、これからの日本経済には必要なのではないか」と考えた石井氏。それからスポーツビジネスに携わるようになった同氏は、「不」を解消することにこそビジネスチャンスが存在すると話した。

石井 「人は、不便や不自由、不都合、不利益といったあらゆる『不』を嫌うものです。そして、『欲望』『欲求』といったものが潜在的な市場、つまりなんらかの障害があってビジネスになっていない領域の『不』を取り除くことができれば、大きな市場になることがあるのです」

 例えば、「する」スポーツでは、スポーツをするための空間や時間、ともにプレーする仲間がいないといった理由でスポーツに取り組めないという「不」がある。「見る」スポーツでは、特にマイナー競技におけるチケットの買い方が分からないなど、情報提供に関する「不」が存在する。その逆に、スポーツを活用することで一般企業が持つ「不」を解消することも、ビジネスチャンスにつながると石井氏は話す。

石井 「例えば自社ブランドの価値を上げるため、研究開発を推進するため、高齢化社員を元気にするためにスポーツクラブと連携をするといったことが考えられます。こうした世の中にある数多くある不便や不満、不自由を解決することが、スポーツビジネスを創出することにつながっていくのです」

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