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スポーツとイノベーション

「異業種×スポーツ」が、新たなビジネスを創造する

「スポーツビジネス創造塾 第2期」報告:ワークショップ編(その1)

2018/09/10 05:00

久我智也=ライター

実現可能性が低いアイデアにこそチャンスあり

 この日に参加者たちが取り組んだのは「ゴールを決めてアイデアを創出する」ことだ。そのために、まずは「スポーツに関する問い」を立てることに取り組んだ。

神武:「例えば、まちづくりについてのアイデアを考える際には、まずは『街が抱える社会課題を逆に資源に変えて、地域活性化につなげるにはどうすればいいか?』『地域の多様性を生かして、他の地域ではできないユニークな子育てができないか?』といったように、目標とするテーマの周辺にある『?』を考える。これは、課題と実現したい未来を形にしていくために重要なプロセスです」

「ワールドシフト」のフォーマット。2009年に開催された「ブタペストクラブ」で生まれたフレームワークで、今ある課題とそれを解決した未来をシンプルに表現できるため、現在では一般的なワークショップでも用いられている

 受講生は、チームの中で問いを出し合い、課題と実現したい未来について議論を進めた。最終的には、課題と実現したい未来を「ワールドシフト」というフォーマットに落とし込んでいく。

 これは、世界的な金融危機や経済危機、環境問題といった社会課題に対応するために、世界賢人会議「ブタペストクラブ」で発案されたもので、「ある課題を持った世界」を、「どのような方法でシフトさせ」「どういった世界へ」変えていきたいかということを文字やイラストで可視化し、社会に拡散していくためのフレームワークである。このとき大切なのは、実現可能性や、実現したときのインパクトを考慮しながら検討していくことだという。

神武 「生み出したアイデアそれぞれについて、実現可能性はどの程度ありそうか、そのためのリスクは何か。また、アイデアが実現すると課題解決に対してどれだけのインパクトを与えられそうか、ということをチームで議論してください。一見、『社会的インパクトが大きくて実現可能性が高いアイデア』が良いようにも思えますが、そういった内容はよくあるアイデアになりがちでもあります。そのため、『インパクトは大きいけれど実現可能性が低いアイデア』や『実現可能性は高いけれどインパクトが小さいアイデア』の実現可能性やインパクトを高める工夫を考えていくことに、ビジネスチャンスが眠っていることも多いのです」

 こうした神武氏のアドバイスを受け、受講生はスポーツビジネスを取り巻く環境を進化させるための議論を深めていった。

異業種だからこそ生み出された新しいアイデアのタネ

 初日の最後には、各チームが議論した課題と、それを解決するために考え出したアイデアを他のチームとシェアした。

 例えば、「スポーツ×まちづくり」をテーマに取り組んだ、あるチームは「スポーツによる地方創生は、本当に関係者をハッピーにするのか?」という問いから議論をスタートしたという。IT系のベンチャー企業を経営するチームメンバーは、次のように話した。

「“地方創生”は、政府や東京のような都会が用いる言葉で、その定義は曖昧なことが少なくありません。そのような状況で『スポーツ×地方創生』のイベントなどを催しても、本当に地域にメリットをもたらせるのか分からないし、たとえ効果があっても一過性で終わってしまう可能性が高い。『では、どうするか』という議論はこれからですが、いわゆる一般的な『スポーツ』のイメージにこだわるのではなく、例えば、人手が足りない地域で田植え競争のようなイベントを開く。この競争もスポーツとして捉えれば、その地域に明確なメリットを提供できます。そうした発想が必要ではないかと考えています」

グループごとに付箋にアイデアを書き連ね、そのアイデアを分類し、煮詰めていった。

 また「スポーツ×ヘルスケア」をテーマに選んだ別のチームは、「子どもの運動能力の低下」という社会課題と、「子どもたちが本当にやりたいことをやれていないから、運動能力の低下が起こっているのではないか?」という問いを考えた。その上で、「スポーツなど、子供たちがやりたいことをやれない世界」から、「やりたいことをやれる世界」にシフトしていくためのアイデアを議論していた。大手化学製品メーカーから参加したチームメンバーは、こう説明する。

「子どもの運動能力を伸ばすためには、決められたスポーツをさせるだけではなく、遊びも含め、運動には多様な選択肢があることを子供たちに教え、その中で子どもたち自身が本当に楽しいと思える運動をさせる方が効果的ではないでしょうか。それを実現するアイデアとして、例えば、脳波計を備えた帽子を開発し、それをかぶりながら運動や遊びをしてもらいます。そして子どもたちが“楽しい”と感じたデータを蓄積し、その親にデータを提供するという取り組みはできないかと考えました。そうした仕組みで子どもが本当に楽しいと思える運動を可視化できれば、運動能力の向上につながるのではないかと思うのです」

 短い時間で荒削りな面はあったものの、各チームではさまざまな意見が出され、初対面とは思えない活発な議論が繰り広げられた。神武氏が「短時間の中でも面白いアイデアが出てきており、スポーツビジネスに対する参加者の熱意が伝わってきた」と評価したように、他のチームも自分たちの興味とスポーツをうまく掛け合わせ、既存の製品やサービスにはないようなユニークなアイデアを披露していった。異なる業界に属する受講生が集まる多様性があったからこそ、硬軟織り交ぜたさまざまなアイデアのタネが生まれたのだろう。