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スポーツとイノベーション

スポーツ産業の拡大、その中核は「スポーツ×ヘルスケア」

「スポーツビジネス創造塾 第2期」報告:講演編(その3)

2018/09/14 05:00

久我智也=ライター

 IT(情報技術)との結び付きが急速に進んでいるスポーツビジネス。そこで耳目を集めるのは、エンターテインメントやマーケティング、競技力の向上といった分野である。だが、IT化によって、さらに大きな市場になる可能性を秘めた分野がある。「スポーツ×ヘルスケア」分野だ。

 実は、この分野ではIT化が立ち遅れている。例えば、アスリートのコンディショニング管理。スポーツという市場の根幹であるアスリートの健康管理のデジタル化は進んでいない。ただ、逆の視点から見てみると、「スポーツ×ヘルスケア」には大きなビジネスチャンスが眠っていると言えそうだ。

 2018年5月に、4日間にわたって開催された「スポーツビジネス創造塾 第2期」(主催:日経BP総研 未来ラボ)では、スポーツ×ヘルスケアの分野でさまざまなビジネスに取り組んでいる馬渕浩幸氏(aiwell 代表取締役)が登壇。「スポーツデータ×ヘルスケア、ICTで結びつく新ビジネス」と題して、スポーツ×ヘルスケア分野の現状と、この分野で新しいビジネスを生み出すためのヒントを語った。その講演の一部をレポートする。
「スポーツビジネス創造塾 第2期」の様子

スポーツ×ヘルスケア、IT化の遅れは国家的課題に

 今からほぼ10年前、2009年にアスリートのコンディショニングやフィジカルデータを管理するクラウドサービス、アスリートのパフォーマンス最大化を支援するアプリなどを開発するCLIMB Factoryを立ち上げ、いち早く「スポーツ×ヘルスケア」の分野に参入した馬渕浩幸氏。同氏はスポーツ×ヘルスケア分野の現状を次のように話す。

馬渕 浩幸(まぶち・ひろゆき)氏
aiwell 代表取締役。大学卒業後、外資系企業で勤務。2007年、振動マシーン“パワープレート”日本総代理店プロティア・ジャパンに入社し、「PowerPlate」の日本立ち上げを企画。2009年にスポーツマーケティング・マネジメント会社のCLIMB Factoryを設立し、2017年10月に該当事業をエムティーアイに譲渡。2018年1月よりヘルスケア市場などのライフレコーディング(ログ)と東工大の最先端技術AIプロテオミクスの実用化に向けたaiwell(旧CF Partners)を設立し、現在に至る。

馬渕 「今、スポーツではさまざまな面でIT化が進んでいますが、ヘルスケアやけがの管理に関するデータは、アナログで管理していることが多い状況です。プロスポーツチームであっても、特に選手のけがの情報などは特定のスタッフが属人的に管理していることが多く、他のスタッフと共有しているケースは少ない。ですから、管理するスタッフがチームから離れると情報が受け継がれない可能性が高いのです」

 プロ野球やJリーグ、ラグビー、バスケットボール、バレーボールの合計20チームを対象にしたアンケートでは、多くのチームが「チケット販売」や「競技結果」といった、マーケティングや競技力の強化を目的としたIT技術の導入には「積極的に実施している」と回答した。

 一方で、「ヘルスケア」や「受傷管理」については「改善の余地がある」と回答したクラブがほとんどだったという。プロや実業団でこの結果であれば、アマチュアや学校の部活動レベルでは推して知るべしだろう。

 スポーツ×ヘルスケアの分野でIT化が遅れていることに、馬渕氏は強い問題意識を抱いている。

馬渕 「スポーツ庁は『東京オリンピック・パラリンピックなどに向けて競技力の向上を図る』『子どもの体力の向上』『学校体育・運動部活動の充実』といったことを掲げていますが、その中でITというキーワードはあまり出てきません。『スポーツ立国の実現』というキーワードだけが独り歩きしていると感じています」

スポーツ市場拡大のカギはIoT活用とヘルスケアにあり

 馬渕氏は、スポーツ×ヘルスケア分野でのIT化が遅れているという思いから、コンディションや食事、けが・病気といったヘルスケアにまつわる情報を一元管理できるスマートフォンアプリ「Atleta」の開発など、この分野でのビジネス創造に邁進してきた。こうした取り組みが「2025年までに日本のスポーツ産業を15.2兆円まで拡大する」という政府の目標を後押しすると同氏は見ている。

馬渕 「経産省とスポーツ庁の試算では、2012年時点のスポーツ市場規模は5.5兆円で、その中でIoT活用が占める金額はゼロでした。この分野は2020年に5000億円規模に、2025年に1.1兆円規模に成長すると試算されています。これは、ペットビジネスなどと同程度の規模となります。この試算のように、必ずスポーツにおけるIoT活用は大きくなると思っています」

 馬渕氏の言葉を逆から考えれば、2025年に日本のスポーツ産業が目標とする15兆円規模に到達するには、未開発の領域だったIoT活用の成長がカギとなっているということでもある。そして、この中でもスポーツとヘルスケアの結びつきが持つ意味は、ビジネス的にも大きいと言えそうだ。

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