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スポーツとイノベーション

これからのスポーツビジネス、カギは「人材・体験・創造性」

「スポーツビジネス創造塾 第2期」報告:講演編(その1)

2018/09/07 05:00

久我智也=ライター

 来年に迫ったラグビーワールドカップ(W杯)、2020年の東京オリンピック・パラリンピック、2021年のワールドマスターズゲームズ2021関西と、スポーツの国際メガイベントが続く日本。メガスポーツイベントを契機に成長が期待される国内のスポーツビジネスは、否が応でもグローバル化の波にさらされることになるだろう。

 これから3年間、そしてさらにその先までスポーツビジネスの盛り上がりを継続するにはどうすべきか。講師と受講者が一緒になって変革期にあるスポーツビジネスについて議論する。その場をつくることを目的に、2018年5月、4日間にわたって開催した「スポーツビジネス創造塾 第2期」(主催:日経BP総研 未来ラボ)では、初日に「スポーツ×グローバル」をテーマにしたセッションを用意し、2人のキーパーソンが講演した。

 登壇したのは、日本スポーツ振興センター(JSC) ハイパフォーマンス戦略部部長の久木留毅氏(国立スポーツ科学センター(JISS) 副センター長/専修大学教授)と、米GMRマーケティングの斎藤聡氏(ディレクター、オリンピックプランニング&アクティベーション)である。世界と相対し、世界でスポーツに関わる両氏による講演の一部をお届けする。
2018年5月に開催された「スポーツビジネス創造塾 第2期」の様子。

「進化と深化」が進むハイパフォーマンススポーツ

 スポーツビジネス創造塾の初日にまず登壇したのは、専修大学教授で日本スポーツ振興センター(JSC) ハイパフォーマンス戦略部長などを務める久木留毅氏。オリンピックや世界選手権などでメダル獲得を目指すハイパフォーマンススポーツ分野をけん引する人物だ。講演では、ハイパフォーマンススポーツの現状や課題、今後のビジネスとの関わりについて紹介した。

 一般にはあまり馴染みのないハイパフォーマンススポーツという言葉を、久木留氏は「国際競技力強化における持続的な卓越性の追求」と定義している。

久木留 毅(くきどめ・たけし)氏
日本スポーツ振興センター ハイパフォーマンス戦略部部長/国立スポーツ科学センター 副センター長/専修大学 教授。専修大学卒業、筑波大学大学院体育研究科修了(体育学修士、スポーツ医学博士)、法政大学大学院政策科学専攻修了(政策科学修士)、英国ラフバラ大学客員研究員。日本レスリング協会特定理事、元ナショナルチームコーチ、テクニカルディレクターなどを歴任。2015年10月から日本スポーツ振興センターに在籍出向中。

 国際競技大会で自国の選手がメダルを獲得できるように国際競技力を持続的に伸ばし、他国よりも卓越したアスリートを生み出し続ける。このために、JSCハイパフォーマンスセンター(HPSC)では、才能ある若手アスリートの発掘や、見い出したアスリートたちの能力を伸ばす研究開発事業に取り組んでいる。

 久木留氏は、世界の潮流として「現在のハイパフォーマンススポーツ分野では、競技の『進化と深化』が勢い良く進んでいる」と分析する。

久木留 「今、多くの競技で高度化と高速化が、これまでにない勢いで進んでいます。アスリートは試合だけではなく、練習でも常に最大限の力を発揮しなければなりません。その分、アスリートの身体には高強度の負荷がかかるようになっています。これに対応するため、選手へのサポートや、選手が使うマテリアル(用具)などをより高品質にすることが求められています」

 日進月歩の勢いで変化するハイパフォーマンススポーツ分野では、世界各国が時にしのぎを削り、時に手を取り合って国際競技力の強化に取り組んでいる。そこで一歩抜きん出るためにどうするか。久木留氏は、「財源の確保」を大きな今後の課題と指摘した。

久木留 「競技の進化と深化に対応していくためには、スポーツ医科学やサイエンステクノロジーを駆使してシステムやプログラム、マテリアルを開発していくことが重要です。これを実現するには、HPSCのようなハイパフォーマンススポーツに関わる機関が自己財源を持つ、あるいは企業からの投資を得られるようにすることがカギとなります。さらに、今後の日本スポーツ界を変えていく上では、ファンドをつくっていくということも必要になってくるでしょう」

「ハイパフォーマンス×ビジネス」、3つのキーワード

 財源の確保という課題を解決する策の1つは、ハイパフォーマンススポーツのビジネス化である。その際のキーワードは大きく3つある。「人材」「マテリアル」「コンディショニング」だ。

 このうち人材については、スポーツ以外の他分野からの人材の流入が重要と久木留氏は見る。

久木留 「スポーツの世界では、まだまだフルタイムで働いているスタッフの数が少ない。私自身、過去にレスリングのナショナルチームのコーチを務めていましたが、大学教員としての仕事と並行して携わっていました。日本のスポーツは、ボランティア精神に支えられている部分があるんです。最近では、スポーツ以外の分野から人材が流入してくるようになりました。それを受け入れるだけの体制を整備し切れていないという現実はありますが、そういった人々が業界に入ってこないとイノベーションは起こりません」

 マテリアルとコンディショニングについては、スポーツ医科学やサイエンステクノロジーが大きな役割を果たす。

久木留 「競技の進化と深化に対応していく上でマテリアルの研究開発は欠かせません。特に今後は、冬季競技やパラリンピックのマテリアル開発に大きな注目が集まっていくでしょう。アスリートには、日常的にこれまで以上に高い負荷がかかるようになります。いかに良いトレーニングを行い、良い栄養を摂り、良い休養を過ごすか、コンディショニングが重要になってきます。今、各国のハイパフォーマンススポーツ機関は、コンディショニングの質を向上させる取り組みに大いに注目しています」

 「人材」「マテリアル」「コンディショニング」というキーワードの周辺に、新しいスポーツビジネスを考えるヒントが存在しているというわけだ。「これら3つのキーワードに特化してイノベーションを起こすことができれば、東京オリンピック・パラリンピックや、それ以降に向けてビジネスチャンスは大きくなる」と久木留氏は語る。

 市場は国内だけにとどまらない。HPSCのようなハイパフォーマンススポーツ機関は、世界中で連携しながら自国の競技力強化に役立つ手法を探し、開発を進めているからだ。それだけに、ハイパフォーマンススポーツの分野でビジネスを創造できれば、グローバル市場を狙える可能性が大いにあるといえそうだ。

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