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野球はあくまで手段 「静岡県民球団」BCリーグ目指すワケ

静岡県民球団・秋間建人氏インタビュー(前編)

2018/09/03 05:00

久我智也=ライター

 日本で2番目の野球の独立リーグとして2007年にスタートした「ベースボール・チャレンジ・リーグ(以下、BCリーグ)」。野球ファン、スポーツファンからすると、この舞台に対する印象は、「NPB(日本野球機構)のドラフトから漏れた選手を育成する場所」あるいは「NPBを戦力外通告された選手が再起を賭けるリーグ」といったものだろう。その認識は間違いではない。しかしリーグ側は選手の育成だけに重きを置いているのではなく、むしろ「野球を通じて地域を活性化すること」を第一の理念としている。

 そんなBCリーグに、今、新たに名乗りをあげようとしている人物がいる。コンサルティングファームなどに勤め、現在は社会起業家として活動する秋間建人氏だ。秋間氏は静岡県浜松市に新たなプロ野球チームを創り、BCリーグへの参入を目指している。彼は何を目的にプロ野球チームを創るのか、そしてなぜ浜松という地を選択したのか。同氏へのインタビューから、その想い、目指すものを探る。前編では、BCリーグの役割や魅力について語ってもらった。

一般社団法人・静岡県民球団のWebページ
(図:静岡県民球団)
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「受け皿」としてのBCリーグ

まずは、秋間さんがBCリーグへの参入を目指すようになった経緯を教えてください。

秋間 元々は「スポーツビジネスをしたい」というよりも、「社会的意義のある活動をしたい」「地方創生に携わりたい」という想いが先にありました。その中でスポーツを選択したのは、単純に私がスポーツを好きだったこともありますが、スポーツには社会を盛り上げる力も、マネタイズに結びつける力もあると考えていたからです。中でも野球は国民スポーツですし、大きなポテンシャルがあると感じ、BCリーグの参入を目指すようになりました。それが2013年頃のことです。

学生野球を別とすると、日本の野球は、プロでは一般社団法人日本野球機構(NPB)が運営するプロ野球が、アマチュアでは社会人クラブによる都市対抗野球がそれぞれの頂点に位置しています。そうした構図を持つ中で、BCリーグはどのような役割を持っているのでしょうか。

秋間 まず1つは、「野球を見たい」というファンの声に応えることです。プロ野球は12球団で、本拠地以外での試合開催も限られています。よっぽどのことがないとチーム数は増えないでしょうし、地方開催を増やすのも簡単ではありません。また都市対抗野球も、断続的に休廃部が起きるような状況で、今では全盛期の半分以下のチーム数しかありません。

 国民的スポーツである野球ですが、地方に住んでいるとレベルの高い試合を生で観戦する機会はさほど多くないのです。そのニーズの受け皿となるのが、BCリーグのような独立リーグです。実際、スタート当初は4球団だったBCリーグも、今では11球団にまで増加していますし、それだけ根強いニーズがあることを実感しています。

 また選手や指導者の受け皿としての役割も担っています。高校や大学の最終学年時に成績が振るわずNPBのドラフトに掛からなかった選手たちがもう一度プロに挑戦するため、あるいはBCリーグ・栃木ゴールデンブレーブスの村田修一選手(元読売ジャイアンツ)のように、NPBで戦力外通告を受けた選手が再起を賭けるための場でもあります。NPB経験者の場合、選手兼監督やコーチとして、指導者経験を積むためにBCリーグに来る選手もいます。

 しかしBCリーグの選手から、NPBの球団へステップアップできる選手は、全体の1割もいません。もちろん指導側は選手たちをNPBに送り出す前提で指導をしますが、現実的には「NPBを諦められない選手が踏ん切りをつけるための場」としての側面が強いと言えます。ただ、個人的にはそれは悪いことではないとも思っています。というのも、NPBのドラフトに掛からなかったから社会人野球に進んだとしても、そのチームが休廃部すると突然一般の社会人になることを求められますよね。そう考えると次のステップに行くのは早い方がいいですから。実際、リーグとしても「人を育てる」ことを重視し、選手のセカンドキャリア支援の取り組みを行っています。引退した選手が地元企業に就職することもあるので、地域にとっても、若い人材の域外流出を防ぐことが期待できます。

 そのため、リーグは年齢制限を設けています。各球団5名ずつのオーバーエイジ枠はありますが、これまでの経験上、26歳を超えるとNPBのドラフトにもほとんど掛からないからです。また、BCリーグはその給与の低さが注目されることもありますが、それも、選手たちが何年間もリーグに在籍しないようにするためという意味があります。生活ができるかできないか、ギリギリの給与しか与えないことで、上を目指す、あるいは次のステップに進みやすくする環境を作っているのです。

静岡県浜松市にプロ野球チームの創設を目指す「静岡県民球団」の理事・秋間建人氏。1984年生まれ、神奈川県横浜市出身。ヒューレット・パッカード、アクセンチュア、トーマツなどを経て、現職。トーマツ時代には企業の内部統制システム構築やコンプライアンス/ガバナンス体制整備の支援などに従事するほか、新規事業開発の活動として、スポーツビジネス専門チームの立ち上げに取り組み、Innovation Awardを受賞。現在は静岡県浜松市を拠点に、BCリーグ参入のための活動を行うとともに、企業や行政、大学とも連携し、オープンイノベーション活動を展開している

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