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スポーツとイノベーション

IT業界からJ2クラブに転身、気鋭の女性マーケターの挑戦

2018/08/10 05:00

赤坂 麻実=ライター

SNSをPRだけでなくサポーターの声の収集にも活用

―― SNSの運用は比較的、低予算でできる施策だと思いますが、それでも今はカバーすべき種類が多くて大変ではないですか。

江藤 栃木SCが公式アカウントを持っているのはツイッター、フェイスブック、インスタグラム、ラインの4つですね。広報スタッフが1人なので、インスタの運用は私も手伝っているとはいえ、リソースが足りません。あれもこれもと中途半端にしてしまうと、どのSNSもファンに響かないものになってしまうので、はっきりと濃淡をつけて、今はインスタに注力しています。ツイッターは特に手間がかかりますし、炎上などのリスクもあるので、専従スタッフがつけられない間は、最低限のアナウンスにとどめて運用していく考えです。

サッカーが好きで、Jリーグのサポーター歴は20年ほどという江藤氏

 ただ、サポーターのツイートには目を通すようにしています。公式のハッシュタグはもちろん、関連語でも検索をかけます。グラウンド周りの施設やイベント運営などに問題があれば、試合後のツイートに表れてくるので、それを参考に改善していく。スタッフは、試合当日はそれぞれ持ち場があって、お客さんと同じ体験は出来ないので、サポーターの皆さんのツイートがとても参考になります。何かあったとき、直接クレームを入れてくれればいい方で、何も言わずに去って行かれるのが一番痛い。そういう人がつぶやいてくれたことをすくい上げたいんです。

 すでにツイートをきっかけにいろいろと改善に動いていて、例えばスタジアムのチケッ トをもぎる場所は、段差があったのを埋めてスロープにしました。⼊場の際は⾏列で⾜元が⾒えないので、段差につまずく⼈が続出していたのですが、ツイートを元にスタジアムの指定管理者に交渉したところ、迅速に対応してもらえました。

―― まずは女性客を増やそうということですが、年代別にはどの層に訴求していきたいとお考えですか。

江藤 20代前半ぐらいまでの層にアピールしていきたいです。今は30代から50代ぐらいのJリーグ第一世代がサポーターの中心で、彼らのお子さんたちも応援してくれていますが、その中間の層はすっぽり抜け落ちています。

 若い人たちにしたら、仲間とわいわい楽しく遊べる場としてのスポーツ観戦であり、その見方でいくとサッカーはやや敷居が高いんだと思います。3時間も外にいなくちゃいけないし、スタンドにはコアなサポーターが多くて初心者が立ち入りづらいというイメージもあるようです。若い人から「サッカーって何を着て見に行けばいいんですか」と聞かれて、はっとしました。チームカラーや応援文化が分からないまま行って大丈夫だろうかと不安に思うようなんです。

――初心者が気後れしないムードづくりも大切なのかもしれませんね。インスタで選手やチームのファンを増やした後、その人たちに実際にスタジアムに来てもらうには、どんな取り組みが必要と思われますか。

江藤 ホームスタジアムにも「行ってみたい」と思わせる仕掛けを用意していくつもりです。例えば、8月中旬から、「一番搾り」と「氷結」と「生茶」が飲み放題になる「キリン乾杯シート」を客席の一部に設定します。この企画はサッカーにあまり興味がなかった層にも響いているようで、発表以来、お問い合わせをたくさんいただきます。

 また、市と連携してスポーツ・ツーリズムの需要を喚起していくことも今後考えたいです。宇都宮は東京駅から新幹線で50分と⾸都圏からのアクセスがよく、今も相手チームのサポーターの方も観戦に来てくれます。そういう“アウェー観戦”の人たちが、試合後にそのまま宿泊して街にお金を落としたくなるような仕組みを作れたらいいですね。宇都宮は餃子が有名ですが、県内には日光があるし、温泉好きに評判の喜連川温泉もあれば、映画のロケ地にもなった大谷石地下採掘場跡という巨大地下空間もあります。観光資源は豊富なので、考えようはあると思います。

クラブに一つでも多く“タグ”を付けてブランディング

―― ところで「栃木サッカークラブ」という名称はなかなかシブいですね。

江藤 愛称を付けようという動きはこれまでにもあったんですが、サポーターの反対もあって実現していません。ただ、今のチーム名だと「SC栃木」とか「栃木FC」とか、よく間違えられるんですよね。アウェーで自治体の首長さんが挨拶されるときなどは、だいたい間違われます…。

 大きな動きでいえば、ホームスタジアムについても移転の可能性を探っています。県がスタジアムや体育館、水泳場、武道場を併設する「総合スポーツゾーン」の整備を進めていて、その新スタジアムが2021年に完成するので、そこを栃木SCのホームスタジアムとして使わせてもらう案が出ているんです。ただ、新スタジアムは陸上競技用のトラックがあるので、ピッチと客席が遠くなるのが気になります。収容人数も約2万5000⼈超と大規模なので、1万人が来場しても“スカスカ感”が出てしまいます。とは言え、今の「栃木県グリーンスタジアム」は屋根や貴賓室がないし、25年前に竣工しているので今後は老朽化するし、と悩ましいところです。

 名称もグラウンドも、それからグッズなども、大きなことはリーグへの申請やさまざまな準備に1~2年はかかってしまうので、この時間感覚にはまだ慣れないですね。IT業界とは大きく異なる部分です。

―― 最近の江藤さんのツイートで「多くのJリーグクラブは『地域』しかタグがない」という一文が印象的でした。逆に言えば「地域」というタグはクラブとして最低限、獲得しなければいけないわけですね。

江藤 そうなんですが、栃木ではやはりバスケットボールの方がはるかに人気があります。リンク栃木ブレックスは日本最高峰リーグのなかでも強いチームですし、(田臥雄太選手など)強力なアイコンもあるので、人気があるのもうなずけます。

 地域から愛されるために、確実に効果が出る策は、地元の選手を増やすことだろうと思います。学校の先輩が近くでやるJリーグの試合に出ている、親戚の子が出ているとなったら、それだけで見に行ってみようと思うじゃないですか。今は栃木出身選手がチームに西谷兄弟しかいないので、強化担当にも少し意識してもらえるように話をしています。もちろんサッカー第一で強化を考えるわけですが、うまくチーム戦略に合えば地元から積極採用をお願いしたいものです。

―― 「地域」のほかに今後、栃木SCにはどんなタグを付加できそうですか。

江藤 栃木SCはチーム・フィロソフィーに「Keep Moving Forward」を掲げて、これからはサッカーにおいても前向きで攻撃的なスタイルを目指そうとしていますし、私たちフロントスタッフも前向きな姿勢を心がけています。そうした「積極性」「革新性」などのイメージをクラブとして獲得したいですね。みんながやらないことをやる、新しいことを一番にやる、そういうクラブにしていきたいです。

【参考】栃木SCの江藤美帆氏は、2018年8月21日、埼玉県が主導するスポーツビジネスをテーマとした創業支援プログラムのキックオフイベントでのパネルディスカッション「スポーツ×ベンチャー×地方創生」に登壇予定