サッカー関心層広げたい eスポーツ参入、Jリーグの思惑

Jリーグ チェアマン・村井氏インタビュー(上)

2018/06/11 05:00

内田 泰=日経 xTECH

 日本プロサッカーリーグ(Jリーグ)はeスポーツに参入、2018年5月4日にはeスポーツ大会「明治安田生命eJ.LEAGUE」の決勝ラウンドを開催した。プロスポーツリーグによるeスポーツへの参入は、米国のアメリカンフットボールNFLやバスケットボールNBAなど先例はあるが、国内では初の試みとなる。eJ.LEAGUEでは、米エレクトロニック・アーツ(EA)のサッカーゲーム「FIFA 18」を使う。なぜリアルのスポーツリーグがeスポーツに参入したのか、何を期待しているのか。Jリーグ チェアマン(理事長)の村井満氏に聞いた。(聞き手:内田 泰、玉置亮太=日経 xTECH)

運動量だけがサッカーの本質ではない

―― まず、Jリーグがeスポーツに参入した狙いを教えてください。

村井 第一の目的は、“リアル”なJリーグ、そしてサッカーに親しんでいただける、関心を持っていただける顧客の裾野を広げることです。eスポーツに関心を持っていただいた方が、ひいてはサッカーの観戦者になったり、実際に自分でもプレーしてみようと思ってくれたりして、サッカーの普及であったり、観戦者の増加につながればという期待があります。

Jリーグ チェアマンの村井満氏(写真:中島正之)
[画像のクリックで拡大表示]

 eスポーツは、性別や年齢、障害の有無に関係なく、誰でも楽しめます。そういう点で幅広い層の方々にサッカーに関心を持っていただくには、とてもいい“商材”です。

 Jリーグのファンの平均年齢を引き下げるためということだけではありません。逆に、高齢化社会の日本において「もうサッカーなんかできないよ」と思い込んでいる高齢者の方々が、孫と一緒に本気になって対等にダッシュを繰り返せるゲームの体験を通じて、サッカーの魅力を感じ続けていただけたらと考えています。

―― ゲームでサッカーをやることと、リアルにサッカーをやること・見ることは、実際につながっていくのでしょうか。

村井 サッカーは“複雑系”というか、総合的なスポーツです。身体を使うのはもちろんですが、どういう戦術でどう相手の裏を突くのかなど、相当な“ブレーンワーク”を伴います。単純に運動量だけがサッカーの本質ではないので、eスポーツにはリアルのサッカーを体験できる要素もあります。

 ベースの価値観として、日本ではスポーツは「体育」という捉え方が中心でした。体育の領域からの影響を強く受けていますので、eスポーツを見たときに体を使っていないと多くの方が指摘したりします。

 一方で、スポーツが競技やエンターテインメントから派生している国もあります。「ストリートサッカー」などは別に学校の先生が教えるわけではないし、通信簿で点数が付くわけでもなく、相手との駆け引きで遊びの延長線上からスポーツに派生しました。だから、eスポーツは日本社会におけるスポーツの定義を広げていく役割も担えるのかと思っています。

 日本体育協会は2018年4月1日に、その名称を「日本スポーツ協会」に変更しました。これまでの教育という色彩から、世代を超えて楽しむものというベースの価値観の変化が根底にあります。

 これはリアルのスポーツですが、最近「ウォーキング・フットボール」が普及し始めています。ルールはサッカーと同じですが、両足が地面から離れたらイエローカード、つまり歩かなくてはいけない。この競技も「サッカーではない」と言われがちですが、サッカーが持っている本質は走ることにはありません。

 こうしてサッカーの範ちゅうが広がっていく延長線上に、当然家庭で楽しむビデオゲームがあります。実際、Jリーグのプロ選手で、明日の対戦相手のシミュレーションをビデオゲームでやって、雰囲気を感じるということをやっている人もいます。

―― ゲームを通じてすそ野を広げるという効果について、具体的にどのようなことを想定されているのでしょうか。例えば、世界で成功事例は出てきているのでしょうか。

村井 まだ私たちも、海外の確たるケースを分析しているわけではありません。実際、今回の大会を主管してみて、従来からのサッカー関心層とサッカーゲームを楽しんでいる層がどのくらい重なっているのか、実態を正確にはつかめてはいません。こういう大会を経験しながら、相互流入がどの程度起きているのかをつかみたいと思います。

 私はeJ.LEAGUEの発表会見をした日(2018年3月9日)に、すぐに家電量販店へ行って、「FIFA 18」を購入しました。今でも自宅でプレーしています。私自身リアルのサッカーをプレーしてきたわけですが、世界に実在する選手が自分と一緒にゲーム内で戦っている絵柄に入り込んでいくと、相互に世界が広がっていくリアリティーを体感できました。

eスポーツとリアル、ビジネス構造は大きく変わらない

―― eスポーツは2022年のアジア競技大会で正式種目になり、国際オリンピック委員会(IOC)の最高位スポンサーになった米インテルを中心に、オリンピックの正式種目化に向けたロビー活動が行われていると言われています。こうした動きをどのように捉えていますか。

村井 先ほど申し上げた、スポーツの定義が広がっていく流れの一貫かと思います。

 実は、Jリーグの全試合を配信している「DAZN(ダ・ゾーン)」では、サッカーのみならず数多くの競技を見られるのですが、その中にはビリヤードやダーツも含まれています。「ダーツはスポーツなのか」という意見もありますが、立派な競技として成立していますし、スポーツのすそ野が広がっています。

 当然ですが、ビデオゲームはデジタルプラットフォームとの相性がすごくいいですし、デジタルリテラシーが高い世代の人たちにはとても馴染みやすい。いわゆるネット配信との相性がすごくいいわけです。

―― Jリーグがeスポーツを取り入れることによって、ビジネス面ではどんな期待をされていますか。

村井 基本的には、eスポーツのビジネス構造もリアルなサッカーとそんなに大きく変わらないはずです。eスポーツに対する関心層や視聴者数が増えていけば、そこへの露出価値によって広告ビジネスが成立するでしょう。チームや大会そのものを協賛していただくようなスポンサーシップや、大会を配信するための放映権市場も台頭してきます。

Jリーグの村井氏(写真:中島正之)
[画像のクリックで拡大表示]

 eスポーツならではのグッズの市場もできるかもしれません。選手そのものがプロ化することで、年俸とか、肖像権を基にしたビジネスが出てくるかもしれません。既に海外では、これらのいずれもが顕在化した市場となっていると聞いています。

―― そういう意味では、ビジネス的な観点では、もはやeスポーツに取り組むのは自然の流れと言えるのでしょうか。

村井 そうですね。私も自分の1週間の生活を考えてみたとき、スーツを脱いでリアルなサッカーを楽しめる時間は土日などに限られます。でも、平日には電車で移動している時間や、レストランで食事をしている時間などがちょこちょこあり、eスポーツなら生活時間の中にすんなり溶け込めます。ITが生活に浸透した今、eスポーツが身近な存在になってきたのは、ある意味、必然のように思います。

―― 一方で、リアルのサッカーと比較してビジネス構造や収益源などでeスポーツ特有のものがあるのでしょうか。

村井 リアルのサッカーはJ1でいうと、1万5000人以上を収容するスタジアムで開催する規定があります。選手の疲労度を考慮すると、試合の頻度もせいぜい週に1度程度になります。

 eスポーツであれば、大きな会場は必要ありませんし、リアルと比較すると選手の疲労度やケガのリスクも少ないので大会のインターバルもさほど制約を受けないでしょう。さきほど申し上げたように、年齢、性別、国籍、障害の有無を問わないので、柔軟に幅広くエンターテインメントの場を設定することができます。

 一方で、瞬間的な反射神経が求められたり、集中力を要求されると思うので、それこそeスポーツにおけるドーピング対策のようなものは考える必要が出てくるかも知れません。リアルとは異なる要素がいろいろあるかも知れないので、現状ではまずトライしてみることが重要です。

(次回に続く)