スポーツで地域活性、成功に導くビジネスベースの視点

「スポーツビジネス創造塾 第3期」報告:講演編(その3)

2019/04/26 05:00

久我智也=ライター

 国内で続くメガスポーツイベント開催を控え、スポーツを街の活性化につなげようとする地域は多い。だが、単に過去の事例を焼き直したり、他の地域を模倣したりしただけではなかなかうまくはいかない。では「スポーツ×まちづくり」を成功に導くために必要なものは何なのか。

 2018年10月に開催された「スポーツビジネス創造塾 第3期」(主催:日経BP総研 未来ラボ)では、スポーツ専門店大手のゼビオグループでスポーツマーケティングを担当するクロススポーツマーケティング(XSM)を率いる中村考昭氏(同社 代表取締役社長)が登壇。「ゼビオアリーナや3x3プロリーグ、スポーツで新コンセプトの事業を創る」と題して、XSMが取り組みを加速している新しいコンセプトのスポーツビジネスについて講演した。これまでに取り組んできた事例を通して、スポーツによる地域活性化のヒントを語った講演の一部をレポートする。
「スポーツビジネス創造塾 第3期」の様子

アリーナは「面」で開発する

 XSMが手がけるプロジェクトの1つにアリーナ事業がある。代表的な事例として、2012年に宮城県仙台市にオープンした多目的アリーナ「ゼビオアリーナ仙台」があり、さらに2020年春には青森県八戸市にも新たな多目的アリーナ「FLAT HACHINOHE(フラット八戸)」のオープンを目指している。いずれも民設民営のアリーナとして大きな注目を集めるプロジェクトだ。アリーナのプロジェクトでは「面で開発するようにしている」と、中村氏は話す。

中村 「アリーナのようなハードを建設する際には、建物自体を完成させることがゴールになってしまいがちです。しかし、本来、アリーナやスタジアムは完成して初めてスタートラインに立ち、そこから社会に対して価値を発揮していくものであるはずです。だからXSMでは、まちづくりのハブにするために必要な要素や、周辺店舗に送客する仕組みなど、地域や利用者を含めた面で開発することを重視しています」

中村 考昭(なかむら・たかあき)氏。クロススポーツマーケティング 代表取締役社長。リクルート、A.T. カーニー、スポーツマーケティング会社などを経て、2010年5月ゼビオ入社。2011年4月より現職。2015年10月よりゼビオホールディングス株式会社副社長執行役員。Jリーグ東京ヴェルディ取締役、アジアリーグアイスホッケー東北フリーブレイズ代表取締役オーナー代行、FIBA/JBA公認3人制プロバスケットボールリーグ「3x3.EXE PREMIER」コミッショナーを兼務。1972年生まれ。一橋大学法学部卒業。

 FLAT HACHINOHEはアイススケートやアイスホッケーが盛んで、「氷都」とも呼ばれる地域だ。フラット八戸の場合、通年型のアイスリンクをベースに、その上にパネルを敷くことでフロアを設置する仕組みで、他の屋内スポーツやコンサートなどの開催が可能な多目的施設を目指している。この構想は「地域の人々が昔から慣れ親しんでいるスポーツがフィーチャーされるような施設を造った方がニーズもあるし、多くの人がハッピーになる」(中村氏)という考えによるものだ。

 このように「完成」だけを目指すことなく多面的にアプローチをしていくことが、アリーナやスタジアムといったハードの建設・運営プロジェクトを成功に導く重要事項だと中村氏は説く。そのポイントは次の3つという。

(1)リスクとリターンの整合性を取ること
(2)需要と供給に合わせたキャパシティーの設定
(3)ハードとソフトを一体化した経営

中村 「実は、これらは一般のビジネスではごく当たり前のポイントだと思います。例えば(2)に関しては、『数十年に1度の世界大会』『数年に1度の優勝決定戦』を見据えてキャパシティーを設定することはあまりにもチャレンジングです。普通、ほとんどの期間、客室が埋まらないホテルは誰も経営しませんよね。だから、対象がスポーツであっても、一般のビジネスと同じ観点でポイントを設定することが大切なのです」

 逆の視点から見ると、従来のスタジアムやアリーナの多くは、前述の3つのポイントにギャップが生じていたともいえる。「スポーツだから」と特別視することなく、一般的なビジネスと同様の視点で考えていくことが、良質なハードを造る秘訣になるのだろう。

ソフトの輸入も一手

 一般的なビジネスと同じ視点を持つことは、アリーナ建設だけではなく、スポーツイベントやプロリーグを運営する際にも肝要なことだという。中村氏は、XSMが手がける米国発の障害物レース「SPARTAN RACE(スパルタンレース)」の事例に触れながら、そのことについて語る。

中村 「スパルタンレースは、5~20kmほどの距離の中に数十個の障害物を設置し、それを乗り越えていくというスポーツです。日本ではまだ馴染みが薄いかもしれませんが、米国を中心に世界中で人気が高まっている障害物レースで、これまでに100万人以上が大会に参加しています。大会では、観客も含めて世界中から5000人もの人が開催地を訪れることがあります」

 出場者の大会参加費の相場は1万5000円ほどで、大会へのスポンサーシップを含めると、1つの大会の売上規模はプロスポーツの2部リーグのチームが年間で稼ぐ事業規模と同程度になることもあるという。

 スパルタンレースは、障害物以外に特別なハードが必要ない。野山や河原といった場所はもちろんこと、街の中、野球場など「どんな場所でも開催できる」という特徴がある。従って、大会開催の権利を手に入れれば、スポーツ施設を持たない地域でも、場所を用意することで開催できる。この枠組みは、海外の飲食店を日本に輸入し、展開するビジネスと同様である。

 スポーツイベントを通して地域活性化につなげようという地域にとって、ゼロからイベントを企画し、立ち上げるハードルは高い。スパルタンレースのようなソフトを輸入すれば、「ゼロからの立ち上げ」という労力を減らすことができる。もちろん、イベントの可能性を目利きすることは重要だが、ソフト面でも一般的なビジネスで当たり前の手法や考え方を「スポーツ×まちづくり」に導入するインパクトは大きいことが分かるだろう。

プロスポーツのシェアリングエコノミー化

 XSMは、ハードを中心に置くアリーナビジネスと、ソフトを起点に展開するスパルタンレースのビジネスのハイブリッドモデルともいえるスポーツビジネスも展開している。それは、中村氏がコミッショナーを務める世界初の3人制バスケットボールのプロリーグ「3x3.EXE PREMIER」だ。

 3×3.EXE PREMIERでは、別の道で社会人として働きながらプロの選手としても活動する兼業を許している。選手をポートフォリオワーカー(様々な仕事を並行して行う働き方)とすることで、スポーツに関わりながら生きていくための選択肢を提供しているわけだ。

 このことは、コンパクトなチーム運営を可能にしている。年間400万円ほどの運営資金を用意し、リーグが定めた一定の規約を満たせば、チームを保有できる。自動車1台程度の資金を年間で捻出することで、個人や商店街の組合などでチームを持つことが可能である。

 まちづくりの観点でもメリットがある。3×3.EXE PREMIERは、縦11m×横15mという通常のバスケットボールよりも狭いスペースで試合を開催できる。大きな専用アリーナや体育館がなくとも、開催可能な「都市型」のスポーツなのだ。実際、大会を開催する場所は駅前の広場やショッピングモールなどである。そこで、数万人規模の観戦者を獲得してきた実績がある。

中村 「3×3.EXE PREMIERは、基本的にはショッピングモールなどに大会誘致権利を販売することで無料での観戦を実現しています。それを実現することで、リーグやチーム側は会場コストを負担しなくてよくなりますし、大会を誘致した側も試合をフックに集客できるというメリットを得られます」

 3×3.EXE PREMIERは、近年拡大が進む「シェアリングエコノミー」のモデルをプロスポーツに適用したものと中村氏は説明する。「働き方」と「チームのオーナーシップ」、そして「会場」のシェアを前提にリーグが運営されている。ここでも、アリーナやスパルタンレースと同様に、一般的なビジネスで用いられる手法をうまく転用し、新しいスポーツビジネスの創造につなげているわけだ。

 スポーツ産業を拡大していくためには、既存のスポーツ業界と異業種の連携が重要という声は強い。事業創造の手法やマインドの面で、スポーツ界が参考にすべきことが一般のビジネスの中に数多く存在するからだ。逆の視点で見れば、実は異業種の企業にとって、スポーツで新しいビジネスを始めるためのヒントはすでに自らの手中にあるということだろう。