国内で続くメガスポーツイベント開催を控え、スポーツを街の活性化につなげようとする地域は多い。だが、単に過去の事例を焼き直したり、他の地域を模倣したりしただけではなかなかうまくはいかない。では「スポーツ×まちづくり」を成功に導くために必要なものは何なのか。

 2018年10月に開催された「スポーツビジネス創造塾 第3期」(主催:日経BP総研 未来ラボ)では、スポーツ専門店大手のゼビオグループでスポーツマーケティングを担当するクロススポーツマーケティング(XSM)を率いる中村考昭氏(同社 代表取締役社長)が登壇。「ゼビオアリーナや3x3プロリーグ、スポーツで新コンセプトの事業を創る」と題して、XSMが取り組みを加速している新しいコンセプトのスポーツビジネスについて講演した。これまでに取り組んできた事例を通して、スポーツによる地域活性化のヒントを語った講演の一部をレポートする。
「スポーツビジネス創造塾 第3期」の様子

アリーナは「面」で開発する

 XSMが手がけるプロジェクトの1つにアリーナ事業がある。代表的な事例として、2012年に宮城県仙台市にオープンした多目的アリーナ「ゼビオアリーナ仙台」があり、さらに2020年春には青森県八戸市にも新たな多目的アリーナ「FLAT HACHINOHE(フラット八戸)」のオープンを目指している。いずれも民設民営のアリーナとして大きな注目を集めるプロジェクトだ。アリーナのプロジェクトでは「面で開発するようにしている」と、中村氏は話す。

中村 「アリーナのようなハードを建設する際には、建物自体を完成させることがゴールになってしまいがちです。しかし、本来、アリーナやスタジアムは完成して初めてスタートラインに立ち、そこから社会に対して価値を発揮していくものであるはずです。だからXSMでは、まちづくりのハブにするために必要な要素や、周辺店舗に送客する仕組みなど、地域や利用者を含めた面で開発することを重視しています」

中村 考昭(なかむら・たかあき)氏。クロススポーツマーケティング 代表取締役社長。リクルート、A.T. カーニー、スポーツマーケティング会社などを経て、2010年5月ゼビオ入社。2011年4月より現職。2015年10月よりゼビオホールディングス株式会社副社長執行役員。Jリーグ東京ヴェルディ取締役、アジアリーグアイスホッケー東北フリーブレイズ代表取締役オーナー代行、FIBA/JBA公認3人制プロバスケットボールリーグ「3x3.EXE PREMIER」コミッショナーを兼務。1972年生まれ。一橋大学法学部卒業。

 FLAT HACHINOHEはアイススケートやアイスホッケーが盛んで、「氷都」とも呼ばれる地域だ。フラット八戸の場合、通年型のアイスリンクをベースに、その上にパネルを敷くことでフロアを設置する仕組みで、他の屋内スポーツやコンサートなどの開催が可能な多目的施設を目指している。この構想は「地域の人々が昔から慣れ親しんでいるスポーツがフィーチャーされるような施設を造った方がニーズもあるし、多くの人がハッピーになる」(中村氏)という考えによるものだ。

 このように「完成」だけを目指すことなく多面的にアプローチをしていくことが、アリーナやスタジアムといったハードの建設・運営プロジェクトを成功に導く重要事項だと中村氏は説く。そのポイントは次の3つという。

(1)リスクとリターンの整合性を取ること
(2)需要と供給に合わせたキャパシティーの設定
(3)ハードとソフトを一体化した経営

中村 「実は、これらは一般のビジネスではごく当たり前のポイントだと思います。例えば(2)に関しては、『数十年に1度の世界大会』『数年に1度の優勝決定戦』を見据えてキャパシティーを設定することはあまりにもチャレンジングです。普通、ほとんどの期間、客室が埋まらないホテルは誰も経営しませんよね。だから、対象がスポーツであっても、一般のビジネスと同じ観点でポイントを設定することが大切なのです」

 逆の視点から見ると、従来のスタジアムやアリーナの多くは、前述の3つのポイントにギャップが生じていたともいえる。「スポーツだから」と特別視することなく、一般的なビジネスと同様の視点で考えていくことが、良質なハードを造る秘訣になるのだろう。