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スポーツとイノベーション

スポーツ界に新風、プロクラブの多店舗展開目指す“謎の会社”

スポーツX・小山淳社長インタビュー(前編)

2019/04/11 05:00

久我智也=ライター

ファンがプロスポーツクラブを運営する「マイフットボールクラブ」

スポーツビジネスの世界に飛び込む決意をして、まず何に着手したのでしょうか。

小山 いきなりに感じるかもしれませんが、クラブを創ることを考えました。その頃英国で、「マイフットボールクラブ」というサッカーファンが運営するWebサイトが、サイト上でひとり当たり1万円ほどの資金を集め、当時7部リーグに在籍していたエブスフリート・ユナイテッドFCというクラブを買収したという事例がありました。クラブの運営方針などもサイト上で議論をして決めていくというものなのですが、日本でも同じことをやれないかと考えました。

 まずは母体となるクラブを探そうと考え、関東や東北のクラブなどとも話をしていたのですが、最終的に現在の藤枝MYFCの前身に当たる藤枝ネルソンCFというクラブを母体にすることに決定しました。母体となるクラブが決まってから、まずは無料会員を集めたところ4000〜5000人ほどが会員となり、元日本代表の釜本邦茂さんなども興味を示してくれて総監督になってくれましたし、同じく元日本代表の斉藤俊秀さん(2009年〜2013年までは選手兼監督)が入団する際にはインターネットでアンケートをして入団の賛否を問うということもしました。

 ただ、実際に有料化をしていく段になると60人ほどしか残らず、当初思い描いたマイフットボールクラブの形は実現することはできませんでした。それは日本にディスカッションの文化がなかったことなど、なぜ上手く行かなかったのか原因はわかっています。いつの日か、この仕組みでクラブを創ることは実現したいと考えています。

藤枝MYFCは多店舗展開のマスタークラブ

「マイフットボールクラブ」の構想は実現しなかったものの、藤枝MYFCは創業からわずか5年という史上最速のスピードでJリーグ入りを果たしました。

小山 話が前後してしまいますが、当時の私としては特定の地域にこだわるというよりも、将来的にクラブを多店舗展開していくためのマスターとなるクラブを作りたいという思いが先にありました。最終的に世界中にプロスポーツクラブを展開することで、そのクラブがある地域の人々を豊かにするという目標があったからです。そうした展開をしていくためには、資本金が少なくてもしっかりと黒字経営ができ、それでいて教育面なども含めて地域にも貢献しつつ、勝てるクラブを目指しました。それが藤枝MYFCです。

 藤枝MYFCで特にトライをしていたのは、選手人件費が低くても勝てるサッカーです。実際、J3参入当初からリーグの中でも選手人件費は最も低い方でしたが、2016年(全16チーム)、2017年(全17チーム)は7位になることができました。そこには幾つかの要因があったと分析しています。

藤枝MYFC代表時代。J3クラブ社長有志&Jリーグ原副チェアマンと2017年にスペインのエイバルで研修
(写真:スポーツX)
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 1つは教育を軸にクラブ体制を構築した点です。例えば身だしなみを整えて規律を守り、審判に対して異議を唱えないことを徹底するなど、メンタル的な改革を強く推し進めていきました。もう1つは監督に長期政権を任せるということです。2009〜2013年の斉藤俊秀さんも、2015〜2018年途中まで監督を務めた大石篤人さんも数年間に渡って監督を務めていただきました。

 やはり複数年でチームを作ることができるのは監督として重要なポイントなのですが、それを実現できたのは、彼らを社員兼監督として登用していたことも強く影響しています。社員として身分を保証しながら監督業に取り組んでもらったところ、段階的に結果が出るようになっていました。

 こうした取り組みをしていたのは、勝利はある程度コントロールできるものだと考えていたからです。選手人件費にしても、そのリーグの平均の八掛けくらいの人件費を掛けることができれば勝てるようになると考えていました。逆にそれができなければプロスポーツクラブの多店舗展開はできないと思っていました。

ある程度の結果が出ていた中で、藤枝MYFCは2017年に地元企業に経営権を譲渡することになりました。

小山 スタジアムをJ2基準に改修していくためには、そうした方が都合が良かったからです。クラブに携わり続けたい思いはあったので残念でしたが、一方で世界中にプロスポーツクラブを多店舗展開していくという目標もありましたので、そのような決断に至りました。その後、次のステップに進むために2017年10月にスポーツXを設立することになったのです。

(後編へ続く)