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スポーツとイノベーション

求む「構造改革できる人材」、慶應SDMがスポーツ経営人材育成に取り組むワケ

「KEIO SDM Sports X Leaders Program2018」最終報告会レポート

2019/03/20 05:00

久我智也=ライター

スポーツ界の課題と解決策をプレゼンテーション

 プログラムの終盤、受講生たちは各人が興味を持つ分野に分かれて4つのチームを組成。それぞれの領域における課題の明確化と、それを解決する方法を検討していき、プレゼンテーションを行った。各チームのアイディアを簡単に紹介していく。

●人材課題検討チーム

 実際にスポーツ組織で働いた経験を持つメンバーが集まった一つめのチームは、スポーツ界における「人材」に着目。「スポーツ界に人材が流入しないという課題」の明確化と、「ビジネス人材を業界に流入させるシステム構築」をテーマにプレゼンを行った。

 スポーツという領域の中でもプロスポーツに焦点を絞り、現状調査や米国との比較などを行い、(1)勝利至上主義なリーグ制度、(2)リーグ・クラブの不明確な役割分担、(3)不確実な勝利を求める宝くじループ、という3点が人材流入が進まない理由であるとした。そのうえで、「リーグ分配金の使用用途のルール化」「クラブが独自にやる必要のない業務のシェアード化」「成績に左右されない事業基盤づくり」といった対策を敷くことで、スポーツ界の労働環境を改善し、人材が流入しやすい仕組みを構築すべきであると提案した。ある受講生は、最終的に目指す姿について次のように語った。

「具体的な打ち手はこれから考えないといけないが、人材が流入しやすい仕組みを構築できれば、組織としてもビジネスレベルが向上し、さらに多くの人材を採用できるようになるし、個人としてもスポーツ界でのキャリアパスを描けるようになる。業界全体が持続的な成長に寄与すると考えています」(受講生)

人材課題検討チームの発表の様子
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●スポンサーシップチーム

 二つめのチームは、昨今注目度が高まっているスポーツスポンサーシップが今後さらに拡大し、永続的な発展を遂げるために必要なことについて提案をした。

 スポーツにおけるスポンサーシップは、もともとは純粋な「支援」目的からスタートしたが、1984年のロサンゼルスオリンピック以降は「広告・露出」を目的としたものが中心となる。さらに近年はスポーツ組織やアスリートの権利を活用したスポンサーシップ(アクティベーションモデル)へとシフトしてきている。ただ、現時点では、アクティベーションモデルの成功例は少ないという。

 「アクティベーションモデルのスポンサーシップは、単に勝利や成績だけを追求すればいいものではなく、独自の活動をしていくには、スポンサーをする企業側だけではなく、スポーツ組織内のリソースを再配分したり、新たな権利開発をしなくてはなりません。スポーツ組織側にとっては自らの利幅を削ることにもつながるため、なかなかうまくいっていない状況です」(受講生)

 そこでこのチームは、アクティベーションモデルのスポンサーシップを実施することで、スポーツ組織側にとっても大きなインセンティブを与えられるようなシステムの構築が必要であると考えたという。さらにこれからは、企業・スポーツ組織両方の資産形成・価値向上につながる「共創・機会探索型」という、新たなスポンサーシップのシステムを設計することが、スポーツ組織の発展につながると話した。

スポンサーシップチームの発表の様子
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●部活動チーム

 長らく日本のスポーツを支えてきた存在であり、同時に今さまざまな課題を抱えている部活動をテーマにしたこのチーム。具体的にどのような課題に直面しているのか、キーワードを抽出していき、その上で個人個人が深掘りをしていった。中でも聴講者から質問が集中したのが、「日本の部活動システムを海外に展開する」というアイディアだ。これは、人間的な成長を高める効果を持った日本の部活動を、ASEANを中心としたアジア諸国に展開する「Sports塾」を創設するというものだ。このアイディアを提案した受講生は、その狙いを次のように説明する。

 「部活動にはいろいろな課題がありますが、同時にいくつもの価値を持っています。それを日本国内だけで変えるというのではなく、本来持っている良い部分を抽出して海外展開をしていくことで、アジアの発展と日本の利益につながると考えています。そこで、多くの要人を輩出する松下政経塾のスポーツ版を創設し、国内外で部活動の価値を高めていきたいと考えています」(受講生)

 この受講生は将来的には実際に事業化することを検討していると言い、現地の人々を支援したいと考える日本企業にスポンサードを依頼したいと展望を語った。

部活動チームの発表の様子
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●アスリートの価値チーム

 最後にプレゼンしたのは、スポーツ人気の低下に伴い、アスリートの価値も減少しているのではないかという仮説を立てたチーム。かつて実際にトップアスリートとして活躍した経験を持つ受講生は、アスリートの価値を高めるために、競技外の部分で価値を持つことが重要になるのではないかと話した。

 「アスリートは、日々トレーニングをして自らの能力を高めています。つまり“身近な社会課題”を日常的に解決し続けている存在と言えます。またアスリートは、競技生活の中で周囲を巻き込む力や課題提起力といったものも身に着けているため、そうした能力を発揮して社会課題を解決する存在になっていくことができれば、その価値が高まるのではないでしょうか」(受講生)

 誰の目から見ても高い価値を持つアスリートがすぐ分かるように、トップアスリートの認定資格を作っていくことも提言。こうした認定資格を提供することで、選手自身も、その能力を必要とする人々も安心できるのではないかと話した。

アスリートの価値チームの発表の様子
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