サッカー史に名を刻む名選手、リオネル・メッシを擁するスペインのFCバルセロナ。世界最高峰のこのクラブが今、オープンイノベーションに力を入れている。約2年前に「Barca Innovation Hub」を立ち上げ、企業や大学などとテクノロジーの分野で共同開発などを進めている。なぜ、サッカークラブがオープンイノベーションに注力するのか。自らは物理学者で、Barca Innovation Hub Lead Head of Knowledge(最高知識責任者)のAlbert Mundet氏に聞いた。(聞き手:内田 泰=日経 xTECH)

Barca Innovation Hub Lead Head of Knowledge(最高知識責任者)のAlbert Mundet氏
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「すべてをシェアする」

最初に、なぜFCバルセロナというサッカークラブがこのようなオープンイノベーションの取り組みを始めたのですか。サッカーだけでも十分なプレゼンスとビジネスを達成できていると思いますが・・・。

Mundet 根底には、新しい知識やノウハウを獲得してクラブを将来に向けてもっと良くしていきたいという思いがあります。同時に、我々は1つのサッカークラブを超えた存在になっており、社会に貢献していきたいと考えています。イノベーションはその1つの手段です。

Innovation Hubの3つのゴール。2018年11月29~30日に東京で開催されたスポーツビジネスイベント「Sport Innovation Summit(SiS)」に登壇した時の様子(以下の資料も同じ)(図:FCバルセロナ)
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 Innovation Hubのゴールを要約すると3つあります。まずは、「Sports & Corporate Excellence(スポーツや企業としての卓越性)」です。スポーツチーム、そして企業として日々、向上することを目指します。この基本には「シェア」があります。外部の企業などとオープンイノベーションで連携するFCバルセロナのメンバーは、我々の文化の中で築いてきた知見や経験などをシェアすることで、次に我々が何をやるべきかが見え、開発を前進させることができます。すべてをシェアすることによって、スポーツ産業の成長に貢献できるだけでなく、他の産業の成長に貢献できると考えています。

 2番目は「Brand Impact(ブランド・インパクト)」です。FCバルセロナは世界で最もイノベーティブなクラブだと見られていますが、イノベーションは価値を生むべきです。新しいテクノロジーなどを開発しても、それが日々のビジネスに実装されないと意味がありません。肝心なのは、それをどのように達成するかです。我々は「FCバルセロナ」というブランドを通じて、Innovation Hubでのチャレンジを全産業でのチャレンジにスケールアップしたいと考えています。

 3番目は新しいビジネスモデルの創出です。我々は世界最大のスポーツラボです。Innovation Hubで開発したものをベースに、新しいビジネスを創り出していきます。でも、自分たちだけですべてができるとは考えていません。そのため、外部の企業やベンチャー、大学・研究機関、投資家、ユーザー(ファン)と一緒に取り組みたいのです。パートナーが必要なのです。

 Innovation Hubは以下の3つの要素の上に立脚しています。「ラボ」「エコシステム」「知識プラットフォーム」です。

Innovation Hubのエコシステム(図:FCバルセロナ)
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Innovation Hubをこのタイミングで立ち上げたのはなぜでしょうか。

Mundet いくつか理由があります。まず、スポーツ産業自体が大きく変化しています。今後5~10年先を展望すると、スポーツビジネス、特にサッカーはクラブとファンとの関係や、選手のパフォーマンスをデータやその分析によってモニタリングするなど、さまざまな点で大きな進化を遂げるでしょう。その進化を支援して産業を成長させる狙いがあります。 

 これまでFCバルセロナは人材と知識のマネジメントを通じて成功を収めてきました。人材のマネジメントで世界最高レベルの選手を輩出してきたのです。それを選手だけでなくクラブ全体、つまりフィジカルトレーナー、コーチ、医者、栄養士、デジタルエグゼクティブなどをInnovation Hubをツールとして人材育成したいのです。

 FCバルセロナはサッカークラブですが、もはや我々はそれを超えた存在になっています。バルセロナが持っている価値を外部に提供することで、サッカークラブである以上のインパクトを社会に与えられると考えています。バルセロナを通じてスポーツ界だけでなく、さまざまな産業の成長に貢献したいのです。