沖縄初のJ2クラブ・FC琉球、躍進の背景に「経営立て直し」

FC琉球代表取締役社長 倉林啓士郎氏インタビュー

2019/03/04 05:00

久我智也=ライター

 沖縄県で初のJリーグチームとなるべく2002年に創設されたFC琉球。2014年からJ3に参入して当初の目標は果たしたが、運営母体となる琉球フットボールクラブ株式会社は資金難が続き、2015年8月からの約1年半で3度の社長交代が起こるなど、順調とは言い難い道のりを歩んでいた。しかし2017年1月、sfidaブランドを展開するスポーツメーカー・イミオの代表を勤める倉林啓士郎氏が新社長に就任してからは経営の立て直しが進められ、それと共に成績も改善。2018年にはJ3で優勝し、J2昇格を成し遂げた。一時は存続も危ぶまれていたチームの驚くべき躍進は、どのような支えがあって果たされたのか。倉林氏に聞いた。(聞き手:上野直彦=スポーツジャーナリスト、久我智也)(取材日:2019年1月28日)

FC琉球は2018年11月3日、ザスパクサツ群馬と対戦して4―2で勝利、J3優勝を決め、J2への昇格を果たした(写真:FC琉球)
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J2昇格の要因のひとつは「地元との関係構築」

倉林さんがFC琉球の社長に就任してから、わずか2年でJ3優勝、J2昇格を実現しました。躍進の理由はどんなところにあると考えでしょうか。

倉林 シンプルに、チーム成績については監督・選手たちの頑張りがあったからですが、加えて2017年にクラブ史上初のJ2ライセンスを取得できたことが大きかったと思います。ライセンスを取得できたことにより、2018年はスタートの段階から選手、スタッフがモチベーションを高く臨むことができましたし、補強面でもいい影響が出たことが、結果につながったと感じています。

FC琉球代表取締役社長の倉林啓士郎氏(左)。右はJリーグの村井満チェアマン(写真:FC琉球)
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2017年の就任記者会見では、倉林さんは「経営安定化」についてしきりに触れていました。言葉通り経営状況を改善できたことが成績にも結びついているということですが、具体的にはどのような取り組みをしてきたのでしょうか。

倉林 まず、経営改善についてはまだ道半ばです。しかし、経営面において、営業活動や広報活動など本来やらなければならないことを一歩一歩着実に進めて来たことが大きいと思います。私が就任当初はホームタウンの沖縄県や沖縄市などの自治体との良好な関係を築くことができていなかったのですが、しっかりと関係構築を行いました。「FC琉球は沖縄のためにある」ことを理解していただき、多大な応援をいただけるようになりました。同時に積極的に地元企業に対して営業活動を展開していき、スポンサー数も大きく増えました。それが1年目のことです。

 ただ、J3優勝とJ2昇格を果たした2018年は、スポンサー数は前年よりも増加したもののフロントとしての経営改善では思っていた以上に苦労しました。2年目での赤字体質脱却を目指したものの、収益を予想以上に伸ばせず、チームは好成績を続けていたのですが、勝たせるために強化費がコスト増となりました。

 J2ライセンス取得のプレッシャーも大きなものがありましたが、FCRマーケティング(倉林氏が代表を務めるFC琉球の筆頭株主)含め、株主からの1億円近い増資でなんとか乗り切ることができました。とは言え、当初1.2億円ほどの赤字を抱えていたのが2017年には約6000万円、2018年には約3000万円台にまで減らすことができましたし、2019年こそは黒字化できると考えています。

沖縄は独特の商習慣を持っているという話をよく耳にします。社長就任から2年が経ち、そういった“沖縄らしさ”を感じることはありますか。

倉林 沖縄はスポーツ熱が高い地域ですし、地元の方々も地元のチームを応援したいという気持ちを持っています。だからといって、スポーツに大金を投じるというよりも、みんなで少額のお金を出し合って、共に応援しようという文化の方が強いと感じています。もちろん我々としてはその額を少しでも上げていただくように価値を高めていく必要はありますが、J2に昇格したことで既存のスポンサーから頂く金額も増えてきていますし、それだけ応援してもいいクラブなのだと存在意義を認めてもらえて来ていると思っています。

 実際、昇格を果たしたことで地元の方々もかなり喜んでくれていますし、FC琉球をきっかけにスポンサーと地元の方々との間でコミュニケーションも生まれているようで、我々としても嬉しく思っていますます。

19シーズンはJ2最低レベルの予算規模での挑戦

J2昇格によってスポンサー数やスポンサーフィーが増加しているとのことですが、2019年シーズンのビジネス的な目標を教えてください。

倉林 まず観客動員数で言うと、ホームゲームの1試合平均入場者数は2017年が約2508人、2018年が約3146人でした。2019年にはこの数字を5000人近くにまで伸ばし、年間で10万人にすることを目標にしています。同時に有料観客数の比率と客単価も増やしていかなくてはなりません。

 2017年の数字ですが、FC琉球の入場料収入は約500万円でJ3平均の6分の1以下だったので、この数字を伸ばしていくことが急務になっています。そのためには席種ごとに付加価値をつけたり、前売りチケットを買いたくなるような仕掛けをしていくことが重要で、実際に検討しています。

 売上については、2018年は3.2億〜3.3億円だったのですが、2019年は5.2億〜5.3億円ほどを目指しています。過去の数字から考えると大きな成長に思えますが、この数字でJ2を戦うのは大きなチャレンジングです。2017年のJ2の平均売上高は14.1億円ほどで、最も規模が小さい水戸ホーリーホックでも5億8000万ほどの売上がありました。やはり売上が少ないと十分に強化費に回すことができませんし、フロントの人数も増やせません。今年はJ2の中でも最低レベルの予算で戦っていきますが、確実に売上を増やしていき、将来的にJ1昇格ラインと言える15億円を目指していきたいと考えています。

FC琉球代表取締役社長の倉林啓士郎氏。1981年東京都生まれ。東京大学在学中に起業し、パキスタンからフェアトレードでサッカーボールを製造・販売する事業に取り組み、現在はsfidaブランドを展開するイミオの代表取締役社長としてスポーツブランド事業・スポーツ施設事業に取り組むとともに、FC琉球の代表取締役社長も務めている
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2019シーズンは、昨年からメインスポンサーとなっているセノンに加えて、仮想通貨ビジネスなどを手がけるGMOコインがチームのオフィシャルトップパートナーになります。その経緯や狙いを教えてください。

倉林 GMOコインには2018年からチームをスポンサードしてもらっていて、J2昇格ボーナスとして1000万円相当のビットコインを贈呈するなどの取り組みをしていただきました。今シーズンはさらに一歩取り組みを強化するとのことで、ユニフォームの鎖骨部分にロゴを掲出し、スポンサーフィーも増額していただきました。

 こうした資金的なサポートだけではなく、GMOコインの本業である仮想通貨やブロックチェーン技術とも連携して新しい資金調達の方法も模索していき、できることならJクラブとしては初めて仮想通貨を用いた資金調達を実現したいと考えています。我々は地方クラブですし、親会社を持っているわけではありませんから、資金調達の手法を多様化させることが重要です。そうしないと大きな親会社を持つクラブと渡り合っていくのは難しいです。

さらなる成長の鍵は「人材」

ここまでお話を伺っていると、現在のFC琉球にとって予算面が最重要課題という印象を抱きます。

倉林 そうですね。2018年度も収入はJ3の中でも下から数えた方が早いくらいでしたから。予算拡大のためにも様々な取り組みをしていきたいと考えていますが、その鍵は人です。そこで2018年12月から新たに2人の常勤取締役を迎えることにしました。ひとりは事業面を統括する三上昴という、横浜DeNAベイスターズの代表取締役社長などを務めた池田純氏の下でスポーツビジネスを学んだ人物です。彼は筑波大学サッカー部出身で経営学大学院(MBA)を卒業後、ゴールドマン・サックスに入社してビジネスの経験を積んでいたのですが、いつかスポーツビジネスに携わりたいという思いを抱いており、ゴールドマン・サックスを退社した後に知人の紹介で出会いました。私も将来の後継者候補を探していたので、ぜひFC琉球に来てもらいたいとオファーを出して入社してもらうことになりました。今は沖縄に拠点を移し、営業面や広報・マーケティング面など、フロント全体を統括してもらっています。

 またクラブが成長していくためにはビジネスサイドと現場サイドの連携が非常に重要になるので、強化部の統括担当者として廣崎圭という人物にも新たに加わってもらいました。彼は早稲田大学サッカー部出身で、SC鳥取(現ガイナーレ鳥取)で実行委員や強化部長などを経験していますので、地方クラブの難しさやクラブ経営に対する理解も持っています。また日本サッカー協会(JFA)やJリーグでマッチコミッショナーの経験も積んでいますので、JFAやリーグ、他クラブとの強いパイプを持っています。彼らが加わってくれたことで、J2を戦う上で安心できるフロント体制を整えることができたと思っています。

選手だけでなくフロントも理想的な補強ができたのですね。現場レベルのスタッフについては、待遇などでどのようなお考えをお持ちでしょうか。

倉林 もちろんスタッフは非常に重要な存在ですし、どれだけ優秀な仲間を迎え入れられるかがクラブの将来を左右するポイントだと思っています。それだけに、彼らの待遇や環境も向上させていきたいと考えています。

 実は私が就任する前、スタッフ給与は毎年同じ額だったらしく、彼らの自主的に頑張る気持ちに依存しているような状況でした。でも、それでは厳しい全国リーグを戦い抜くことは難しいですし、今後大きな目標を掲げることもできません。この2年は、全員の期待に100%応えられているとはまだ言えないものの、着実に給与水準を上げる意識はしています。そうしなくては彼らも選手同様にプロとして頑張り続けることは難しいですし、能力を持っている人を新たに雇うことはできません。1)

1.倉林氏自身は就任初年度から無報酬でFC琉球代表を務めている。

沖縄サッカー発展のために欠かせない地元出身選手の獲得・育成

地域との関わりについても伺いたいと思います。FC琉球は地元出身選手の存在を重要視していますが、その意図と効果を教えてください。

倉林 沖縄は非常に地元愛が強いという特徴があります。地元出身選手がいることで、サポーターの方々にもとても喜んで頂けます。今年は5人+ユース昇格4人の地元出身選手が在籍しています。彼らは地元の人々にとってヒーローですから、そうした選手が増えれば地域に対していいプロモーションになると思っています。

 以前は沖縄出身の有望選手は中学や高校で活躍しても県外の高校やクラブに進むことが多かったのですが、FC琉球があることで、他クラブを経ずに沖縄に残ってサッカー選手になる、あるいは地元に戻ってくるという流れを強くしていきたいと思っています。そうすれば沖縄から有力な選手を育てることにもつながっていくはずです。

育成という点では、FC琉球は2018年4月に「FC琉球高等学院」を開校しました。日本で初めてJリーグクラブが運営するこの学校は、どのような狙いを持って設立されたのでしょうか。

倉林 沖縄県出身選手の育成強化の一環というのが主目的ですが、スポンサー企業と連携してキャリア教育を実施していくことで、サッカー選手としてだけではなく社会的に自立した人間になる能力を育てていくことも目指しています。実は沖縄県は高校生の不登校数や中退者数が全国の中でも非常に多いことが問題になっています。またサッカーの実力を認められて他県の強豪校に進学しながらも問題を起こして退学し、地元に戻ってくるというケースもあるので、そうした子どもたちの受け皿になれれば、という思いも持っています。

沖縄県には元日本代表の高原直泰選手が代表を務める沖縄SV(エス・ファウ)というクラブもありますが、同クラブとはどのような関係性を持っているのでしょうか。

倉林 特別に何かを一緒にしているということはありませんが、我々にとっても同じ沖縄で頑張るサッカークラブとして沖縄SVの存在は貴重です。

 サッカーキャンプを誘致したり、サッカー専用スタジアムの建設を推進するなど、地元のサッカー熱を一緒に高めながら、可能な限り協力していきたいですし、今後も良い関係性をつくっていきたいと思っています

沖縄県は本州よりもアジア諸国の方が距離が近いという特徴がありますが、アジアに対してはどのような戦略をお持ちでしょうか。

倉林 おっしゃる通り、地政学上のメリットを活かしてアジアに対してのマーケティングは強化していきたいと考えています。2017年に台湾サッカー協会とパートナーシップ協定を締結しましたし、実際に台湾やベトナム、中国などから選手の売り込みも来ています。2019年はそこまで外国籍選手を受け入れるキャパシティはないのですが、将来的にはどんどん取り組んでいきたいという思いを持っています。

沖縄は日本では最南端、アジアでは最先端

倉林さんがFC琉球の社長に就任する以前、約1年半の間に3度の社長交代が起こり、クラブに対して懐疑的な目を向ける人も少なからずいたと思います。しかしここまでお話を伺ってきて、そうした思いはだいぶ払拭できていることも感じました。

倉林 やはりJ2昇格という目標を果たせたことで、クラブに関わる人間はもちろんのこと、県民の方々もかなり自信を持てたと思います。まだ時間は掛かるかもしれませんが、J1昇格やAFCチャンピオンズリーグ出場という大きな目標を掲げていきたいです。

 競技的な目標だけではなく、「沖縄県にFC琉球があってよかった」と地元の人々に誇りを持っていただくことが最重要であることも忘れてはなりません。スポーツを通して沖縄を元気にする存在でありたいですし、今はそのベースを作っている段階と言えます。前沖縄県副知事の浦崎唯昭氏に「沖縄は日本では最南端、アジアでは最先端」という言葉を教えて頂いたのですが、確かに沖縄はアジアを見ると非常に多くの可能性にあふれている地域だと思うので、沖縄ならではの強みを活かしていきたいですね。