スポンサーシップとは? コカ・コーラが説く本当の意義

「スポーツビジネス創造塾 第3期」報告:講演編(その2)

2019/03/08 05:00

久我智也=ライター

 2019年から2021年までメガスポーツイベントの開催が続く日本。多くのスポーツ組織やスポーツ関連企業にとってこの3年間はチャンスの時期だ。それは、普段はスポーツをビジネスの中心に置いていない企業にとっても同様である。そうした企業がスポーツを活用するにはいくつかの方法があるが、かねて主流といえるのが「スポンサーシップ・マーケティング」だろう。

 スポンサーシップ・マーケティングは、スポーツクラブやスポーツイベントに出資し、その対価として自社ブランドの露出を増やしたり、自社ビジネスのターゲット層にアプローチするきっかけを得たりする取り組みである。これを上手に実施していくためには、どのようなことが必要になってくるのか。

 2018年10月に開催された「スポーツビジネス創造塾 第3期」(主催:日経BP総研 未来ラボ)では、リーボックやナイキジャパンといったスポーツブランド、国際サッカー連盟(FIFA)などでスポーツビジネスに携わり、現在は日本コカ・コーラで東京2020年オリンピック ゼネラルマネジャーを務める高橋オリバー氏が「スポーツレガシー:コカ・コーラ社のスポンサーシップの活用法」と題して講演した。コカ・コーラ社が各種スポーツイベントへのスポンサーシップに取り組む理由やメリット、2020年の東京オリンピックに向けた取り組みなどを語った。その講演の一部をレポートする。
「スポーツビジネス創造塾 第3期」の様子。

スポンサーシップの目的はレガシーを残すこと

 米コカ・コーラ社は1928年のアムステルダム大会から90年以上にわたってオリンピックをサポートし続け、サッカーのFIFAワールドカップのスポンサーとしても名を連ねるスポンサーシップ・マーケティングのパイオニアといえる企業だ。同社がオリンピックに携わる目的の1つが自社製品の販売促進。高橋氏は次のように説明する。

高橋 「1928年のアムステルダム大会では、米国以外の国にコカ・コーラ社の製品を広めていくことが目的でした。また、1964年の東京大会ではマラソンのコースに看板を掲出したり、沿道の酒屋に『コカ・コーラ』のクーラーを入れて販売増進を図りました。日本で『コカ・コーラ』を発売したのは1957年のことでしたが、本当の意味で製品が根付いたのはこの東京大会のときだったといえるでしょう」

 2014年のソチ大会では、小売店との連携を密にすることによって、ロシア南部における清涼飲料水のシェアを拡大することに成功し、それまで後塵を拝していたライバルの「ペプシコーラ」を一気に逆転することができたという。ただし、同社がオリンピックのスポンサーであり続ける理由は、売り上げを増やすことだけではない。何よりも重視しているのは「レガシーを残す」ことだという。

高橋 オリバー(たかはし・おりばー)氏。日本コカ・コーラ 東京2020年オリンピック ゼネラルマネジャー。オーストラリア・シドニー大学マーケティング学部を卒業後、リーボックに入社。1997年の長野冬季オリンピックでは、リーボックがスポンサーする競技連盟を日本国内で担当。2000年には、当時FIFA(国際サッカー連盟)のマーケティング権利を保有していたISL Japanにシニアマーケティングマネジャーとして入社。2002FIFAワールドカップのスポンサー企業を担当し、大会組織委員会とのマーケティング活動を担う。2002FIFAワールドカップ終了後、FIFA本部のあるスイスへ転勤し、マーケティング・アライアンス・ディレクターを勤め、2008年にはヘッド・オブ・マーケティング・アライアンスとしてFIFAすべてのスポンサー企業を担当。2010年にはイベント・マネジメントの責任者も兼務する。2012年からナイキジャパンのスポーツマーケティングシニアディレクターとして、すべてのスポーツカテゴリーの競技連盟やクラブチーム、個人選手の契約・マネジメントを担当。2016年8月に日本コカ・コーラの東京2020年オリンピック ゼネラルマネジャーに就任。

高橋 「例えば、『2020年の東京大会を契機に製品の売り上げを〇〇%伸ばす』ということはレガシーではありません。2030年、2040年に振り返った時に『2020年の大会でこういう取り組みをやったからこそ、今のコカ・コーラ社を支える製品やビジネスが存在している」と言えることを残す。これがレガシーだと私たちは考えています」

 コカ・コーラ社は、2016年のリオデジャネイロ大会で小容量の即時消費(IC)パッケージのキャンペーンを展開し、ブラジルをはじめとする南米市場で当時あまり普及していなかった小容量ボトルの飲料を根付かせた。これが大きなレガシーになったという。

レガシー構築に欠かせないナレッジ継承とプランニング

 レガシーを残す上で欠かせないのが、これまでのスポンサーシップの取り組みで蓄積してきたナレッジだ。コカ・コーラ社の場合、1928年アムステルダム大会から長年にわたって蓄積してきた豊富なナレッジがあるが、重要なのはそのナレッジを継承し続けていくことだという。

高橋 「オリンピックでは、各開催都市(国)のコカ・コーラ社がチームを構成し、スポンサーシップに取り組んでいます。大会の開催期間には次の開催都市のオリンピックチームのメンバーが現地に赴いて視察します。終了後にはその大会と次の大会の2つのチームが一堂に会してミーティングを行い、改善点や見習うべき点などの意見を交換していきます。そうした取り組みでナレッジを継承していくのです」

 ナレッジの継承は、常に新しいレガシーを生み出していくことにつながる。そのためには、綿密なプランニングも欠かすことができない。コカ・コーラ社では7年ほどのサイクルでオリンピックのプランニングを行い、ゴールから逆算してプロジェクトごとに必要な期間を割り出し、その計画に則ってスポンサーシップの取り組みを遂行しているという。

高橋 「東京オリンピックの開会式は2020年7月24日ですが、コカ・コーラ社の準備が整っていようがいまいがこの日にオリンピックは始まってしまいます。そこに乗り遅れないためには、綿密なプランニングと、プランを着実に遂行すること、そしてきちんと遂行されているかを追いかけることが欠かせません」

スポンサーシップは、社内への効果も大きい

 では、2020年東京大会でコカ・コーラ社は、どのようなレガシーを残していこうと考えているのか。高橋氏を中心とした東京2020オリンピックチームには、「次世代オリンピックにおけるアセットの運用方法」がミッションとして課せられているという。このミッションをクリアする施策について高橋氏は、講演時点では「まだ具体的な話はできない」としたものの、次の3つのキーワードを軸に考えていくことがポイントになると話した。

高橋 「1つめのキーワードは“東京2020”ではなく“ジャパン2020”だということです。オリンピックが開催されるのは東京ですが、日本全国に5社あるボトラー社を含むコカ・コーラシステムが一体となりオリンピックに向けた取り組みを進めていくことが重要だと考えています。2つめはデジタルに特化したアクティベーションを増やすこと。現在、日本コカ・コーラでは『Coke ON』という自動販売機と連動したスマホアプリを展開していますが、このようなデジタル施策を若年層の顧客を増やすきっかけの1つにしたいと思っています。3つめは人材育成です。スポンサー企業としてのオリンピックへの何らかの関わりをきっかけに将来のコカ・コーラ社を担う人材を育成していくことが大切になります」

 コカ・コーラ社はこの3つのキーワードに則り、2020年では「チケットを活用したプロモーション」「持続的な機材の開発」「オリンピックを活用した製品開発」「日常生活において運動機会を増やす取り組み」といったコンテンツを準備したいとしている。こうした社外に向けた取り組みは、従業員のモチベーション向上や人材育成などの効果も大きいと、高橋氏は説く。

高橋 「2020年東京大会への関わりを深めてきたこの2年間で退職者の数が大きく減っています。従業員もまた『オリンピックに関わりたい』という考えを持つようになっていることが、その大きな理由でしょう。オリンピックを題材にした従業員向けのモチベーション映像を展開するなどの施策も実施しています」

 企業によるスポンサーシップは、スポーツ産業を支える大きな柱の一つである。これから日本で続くメガスポーツイベントの開催を契機に、さまざまな形でスポンサーシップを検討する企業も増えていくことだろう。そこで重要なのは、ビジネスにおける目先の業績向上だけを考えるのではなく、自社の人材育成や社会に対する貢献などを考慮した長期的視点のレガシーを残すことだ。その考えを持つことが、回り回って将来的にビジネスの成長につながるということを、企業は忘れてはならないだろう。