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スポーツとイノベーション

異業種連携とテクノロジーはスポーツの何を変えるのか

「スポーツビジネス創造塾 第3期」報告:講演編(その1)

2019/03/06 05:00

久我智也=ライター

「SOIP」でスポーツと他産業の連携を促進する

 講演の中で、スポーツ庁の具体的な取り組みとして紹介されたのは「スポーツオープンイノベーションプラットフォーム(SOIP)」というものだ。これはスポーツに関するカンファレンスの開催などを通じて、スポーツ団体と一般企業、あるいは大学や研究機関などのマッチングを図る取り組みで、新たな出会いやネットワークの形成によって、課題の解決や新しい製品・サービスの創出、スポーツへの投資を促進させることを目指している。

津々木 「スポーツ界は、スタジアム・アリーナのような『場所・モノ』、アスリートのフィジカルやバイタル、顧客情報、映像といった『データ』、そしてスポーツ団体やアスリート、あるいはスポーツイベントが有する「権利」といったリソースを持っています。これらを一般企業や研究機関などに開放していくことで、さまざまな実証実験をしたり、新しい製品やサービスの開発に役立てたり、あるいはアスリートのパフォーマンスを向上させることに寄与したりする。そうすることで知見が蓄積されますし、スポーツ界にとっての収入源の獲得にもつながります。SOIPを促進することで、そうした動きにつなげていきたいと考えています」

 既に、オープンイノベーションに取り組むクラブや組織は広がりつつある。例えばJリーグの鹿島アントラーズと産業技術総合研究所は、包括協定を結び、アントラーズのホームスタジアムであるカシマスタジアムを最新技術の実証の場として、顧客満足度を測るための顔認証実験や、スタジアム内での観客の動きのデータを取得して人流解析をする実験などを行っているという。SOIPの取り組みでは、2018年11月に日本スポーツアナリスト協会が「スポーツビジネスイノベーション推進事業」を受託することを発表している。

 スポーツは「する」「観る」「支える」という3つの要素で構成されているが、いずれの発展のためにもテクノロジーとの連携は欠かすことができない。このため、特にテクノロジー関連企業にとっては、スポーツ庁のSOIPに注目していくことが自社のビジネスチャンスを広げる第一歩になりそうだ。

GPSデバイスはクラブ経営にも貢献する

斎藤 兼(さいとう・けん)氏。カタパルト ビジネス開発マネージャー。 2009年にヤフーに入社。検索連動型広告の管理やスマホビジネスのプロジェクト、社内サービスのマーケティングに携わり、2014年から英国リバプール大学に留学。フットボール・インダストリーMBA(通称:FIMBA)を受講し、サッカービジネスを学ぶ。2015年11月より、カタパルトで日本国内のビジネス開発マネージャーを務め、アスリートトラッキングをはじめとする同社のビジネス拡大を進めている。

 津々木氏に続いて登壇したのは、「スポーツ×テクノロジー」の最前線で活躍し、スポーツの変革に大きく寄与しているカタパルトの斎藤兼氏である。斎藤氏は、同社のGPSデバイスがどのようにスポーツを変えているのか、そして「スポーツ×テクノロジー」が進むことでスポーツビジネスがどのように変革していくのかについて語った。

 近年、サッカーやラグビーを中心に多くのスポーツで利用が進んでいるスポーツ用のGPSデバイス。これを装着することでアスリートの走行距離や位置情報といったデータを取得することができ、アスリートのコンディショニング管理やエンターテインメント性の向上などに寄与している。複数の企業がGPSデバイスを開発している。

 2006年に設立されたカタパルトは、「アスリートやスポーツチームのパフォーマンスを強化する」ことを目的に、現在、82カ国の35競技、1800以上のスポーツクラブをサポートしている。市場をリードする存在となっている同社は、アスリートトラッキングが重要性を増している理由を次のように見ている。

斎藤 「トラッキングデータを取得することで、『パフォーマンスの最適化』『プレーへの復帰(リハビリ)』『ケガのリスク管理』という3点を改善していくことができます。まず、パフォーマンスの最適化が重視される背景には、現代のスポーツで選手に求められるフィジカルの要求が非常に高くなっていることがあります。トラッキングデータを取得することで、練習の強度やボリュームを調整していくことに役立てられます」

 「次に、プレーへの復帰については、個々の選手の通常時のデータとリハビリ中の状況を定量化し比較できるようにすることが大切です。最適な復帰時期を見極めやすくなると同時に、復帰後の再発を避けることにつながります。最後のケガのリスク管理は、運動量や練習のボリューム、強度のコントロールをリスク管理につなげるものです。これはアスリートのためだけではありません。チームにとっては、アスリートのケガは金銭的な損失に直結するので、それを防ぐという意味合いもあります」

 カタパルトの場合、例えば30人の選手を保有するスポーツチームでは、全員分を導入すると年間でおよそ300万~500万円ほどかかる。価格だけを見ると高額に感じられるかもしれないが、年俸数百万~数千万円のアスリートがケガで離脱した際の損失を考えると、決してマイナスにはならないという。つまりGPSデバイスを活用することは、アスリートのパフォーマンスを向上させることに加え、スポーツチームの経営改善の役割も担うのだ。