中国は競技人口3.5億人へ、日本の先行く世界のeスポーツ

Sport Innovation Summit 2018 Tokyo報告(3)

2019/02/04 05:00

浅野 智恵美=ライター

 「eスポーツ元年」。2018年は、日本でもeスポーツの注目度が一気に高まった年と言える。2月にはそれまで3つに分かれていた業界団体を統一した「日本eスポーツ連合(JeSU)」が発足。9月にインドネシア・ジャカルタで開催されたアジア競技大会では初めて公開競技に選ばれ、日本人選手が優勝したことでも話題になった。2019年秋の茨城国体では都道府県対抗によるeスポーツ選手権も実施される。

 しかし、日本はeスポーツ産業に関しては、欧米や中国、韓国にはるかに遅れた“後進国”というのが実情である。eスポーツはパソコン用のゲームが中心であるのに対し、日本では家庭用ゲーム(コンソール)機が市場の中心である点、さらにeスポーツに対する偏見も強く残っている点などが、出遅れの原因と言われている。

 では、世界のeスポーツの現状はどうなっているのか。2018年11月29~30日に開催されたスポーツビジネスカンファレンス「Sport Innovation Summit 2018 TOKYO(以下SiS)」では、eスポーツについて3名の専門家がプレゼンテーションを行った。

 1人はLEVEL256の代表である、バートランド・ペリン氏。同社はパリの経済開発公社であるParis&Coから誕生した。eスポーツのビジネス開発支援、専門家の関係強化などをはじめ、教育・訓練・開発・発展を促進、提供する場となっている。

 中国最大規模のeスポーツプラットフォームを運営するビリビリ・ゲーミングからは、CEOの陳悠悠(チェン・ヨウヨウ)氏が登壇した。同氏はクラブ・試合・オンラインサイトの運営やプロモーションなどを手がける。

 最後は、欧州のeスポーツチームで、世界的にも有名なFnaticのブランディングおよびマーケティング責任者を務めるブノワ・パゴット氏。同氏は以前、ディオールやモエ・ヘネシーなどのブランド戦略やデザインを手がけてきた。

左から、ペリン氏、チェン氏、パゴット氏
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パリをeスポーツの「欧州中心地」へ

 ペリン氏はeスポーツの現状、そしてLEVEL256の今後の展望について語った。

LEVEL256のペリン氏

 ペリン「eスポーツに対して、世間ではさまざまな誤解があります。一つは『FIFA2019』などのスポーツゲームだという誤解が多い事。もうひとつは、任天堂Wiiのようなモーションセンサーが付いているコンソールで遊ぶものだと考えられていることです。しかし、eスポーツとは、エンターテイメントとビデオゲーム、そしてスポーツをひとつにしたもので、ビデオゲーム界のすべてのマルチプレーヤー競技を含んでいます。例えば、コンソール機やスマートフォン、タブレット、パソコンなど、そういったもの全てを含んでいるのです。また、伝統的なスポーツには、サッカーやラグビー、野球など、さまざまな競技がありますが、eスポーツにもレースゲームやFPS(First Person Shooter)、カードゲームなど、たくさんの細かい分野があります」

eスポーツには消費者、ゲーマー、ブランドなど、さまざまなプレーヤーが存在する
(図:LEVEL256)
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 ペリン「フランスの人口はおよそ6700万人。そのうち500万人がeスポーツに興味を持っているとされますが、これは人口の10%以下です。200万人がeスポーツを少なくとも年に1回はプレーして、90万人が競技として参加したことがあります。これも十分大きな規模と言えますが、中国にはeスポーツ関心層が人口の15%ほど、2億人もいます。非常に大きな規模です」

フランスでのeスポーツの競技者などについてのデータ
(図:LEVEL256)
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 ペリン「eスポーツのビジネスは劇的に成長してきました。我々は戦略的に、パリをeスポーツの欧州の首都にしたいと思っています。これをどう実現していくのか。インクルージョン、価値の提供、ビジネス開発、良い体験を提供すること。そして観光の要素もありますし、複合的な要素が関わってきます。また、クラブチームをパリでたくさん作ってまとめていくこと、国際大会をパリに誘致することも考えています。こういった大会を開催すると会場に来場する人だけで2万人、全世界の視聴者はおよそ6000万人を見込めます」

 「eスポーツのイノベーションには、どのようなタイプがあるのか。それは通常のスポーツと同じです。例えば、パフォーマンス、ストリーミング、コミュニティープラットフォーム、メディア、コーチングなど、本当にたくさんあります。eスポーツは非常に早い勢いで成長しているのです。eスポーツの1年というのは、通常の7年にも相当するものだと思います」(同氏)

競技人口は19年に3億5000万人へ

 ビリビリ・ゲーミングのチェン氏は、中国のeスポーツ産業の発展をデータで示した。eスポーツの市場規模は2019年には993億円に達するとみられ、2015年から2019年までの5年間で224%の成長が見込めるという。

中国eスポーツの市場規模は右肩上がり。グラフはPC・モバイル・その他関連売り上げを示している。特にモバイルの伸びが著しい
(図:ビリビリ・ゲーミング)
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中国におけるeスポーツの競技人口は増加している。2019年には3億5000万人に達すると見られ、5年間で254%の伸び率
(図:ビリビリ・ゲーミング)
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 チェン「中国のeスポーツ産業は基本的にはピラミッド構造になっています。ピラミッドの1番上にいるのがゲームのパブリッシャー、ゲームを作っているメーカーです。2番目の段にいるのが、ライブのストリーミングをするプラットフォームやeスポーツのクラブ、コンテンツを作る人たち。ゲーム会社に対して投資するとなると慎重になる人も多いのですが、2段目の部分は投資としての注目度も非常に高いです。ビリビリはもともとライブのプラットフォーム、eスポーツクラブ、コンテンツを作るチームも有しています。ピラミッドの1番下の段は、全体のエコシステムです。例えば、ブランドの活動、ホームアリーナ、関連製品、トレーニングなどがあります。こういったものがあって初めて、全体の産業が成り立つのです。このようなピラミッドの中で健全な運営がなされています」

中国eスポーツ産業の構造
(図:ビリビリ・ゲーミング)
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 保有する主要クラブで、世界トップクラスのリーグであるオーバーウォッチリーグ(OWL)に参入するSPARKと、League of Legend Pro League(LPL)のBLGについて、チェン氏は次のように話す。

 チェン「LPLは中国最高レベルのリーグです。現在、中国においてはLPLに加盟するにはリーグ加盟費として、ひとつのクラブで1億5000万元(1元=約16円)の初期投資が必要となります。これはひとつのハードルであって、誰でも参入できるわけではありません。OWLはロサンゼルスやニューヨーク、ロンドン、ソウルなどのクラブが加盟しています。私たちのチームの本拠地は杭州にありますが、クラブを作ることで、地域に根ざしていきたいと思っています」

ビリビリ・ゲーミングのチェン氏

 チェン氏はイベントの開催にも力を入れている。2017年には、中国で初めてLANパーティーが開催された。さまざまなプレーヤーが会場に集まり、一緒にゲームを楽しんだ。夜7時以降は音楽フェスティバルが開かれ、このイベントには3日間で約12万人が来場したという。

 チェン「私たちは年間MVPといった選抜イベントも行っています。eスポーツにまつわる30以上のさまざまなアワードがあり、eスポーツの運営や試合で最高のパフォーマンスを見せた方々が受賞しました。eスポーツに、より伝統的なスポーツに近づく要素を取り入れたいと考えています。中国ではたくさんの取り組みが進められ、eスポーツ市場に大きな資本が参入してきています。eスポーツは中国の若者の主要な文化スタイルになっていくでしょう」

eスポーツチームの資金調達相次ぐ

 パゴット氏はeスポーツの収益性についてプレゼンテーションした。Fnaticの収益性は従来のモデルとは異なる。

 パゴット「eスポーツは未来のスポーツで、エンターテイメントです。我々がどのように収益性を確保しているのか。従来のeスポーツチームの収益は80%がスポンサーシップから、残りがプロダクトやマーチャンダイズから上がっていました。しかし、我々の場合はおよそ50%が商品やマーチャンダイズ、40%がスポンサーシップ、残りがゲームとなっています」

従来のeスポーツの収益内訳。約80%がスポンサーシップ収入となっている
(図:Fnatic)
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Fnaticの収益内訳。約50%がマーチャンダイズなどとなっている
(図:Fnatic)
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 パゴット「これはすべてのスポーツチームに当てはまりますが、チーム収入はあるものの、給与やフランチャイズの問題など、それを超えるコストがかかっています。それでもeスポーツが成長し続けるのは、大量の投資マネーが入ってきているからです。私たちも例外ではありません。Fnaticはブランドとして700万ドルを獲得することができました」

eスポーツチームの資金調達の事例。米国のチーム、クラウドナインは5000万ドルを調達。2009年設立のeスポーツチームTSMは2018年に3700万ドルを、フランスを拠点とするTeam Vitalityは2270万ドルを調達した
(図:Fnatic)
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 パゴット「スポンサーが付いていない、リソースがないというチームはどんどんリーグから離れています。各チームは組織内できちんとしたリーダーシップ、そしてマネジメントがないと、運営はなかなかうまくいきません。若者にリーチする狙いもあり、今では初期と比べてビデオゲーム以外の企業も、たくさんスポンサーとして参加しています。我々としてもスポンサーのロゴなどをシャツやジャージに付けるだけでなく、一緒にイベントを開催するなどし、多くの消費者が彼らのブランドやプロダクトにリーチできるように支援しています」

 さらに同氏は収入源についてこう続ける。

 パゴット「eスポーツの賞金は非常に多額です。例えば、2018年に開催された「Dota2」の大会では、優勝チームは1000万ドルを獲得しました。これを5人のプレーヤーで分割したのですが、マネジメントの取り分は10%です。ほとんどのお金が選手に渡されました」

Fnaticのパゴット氏

 パゴット「eスポーツでは、ユーザーとコミュニティーの役割が非常に大きくなっています。例えば、ゲーム内で使うアイテムやマーチャンダイズなどを、きちんとデザインすることが重要です。ゲーム内で特定のチームのものを購入すると、その代金の一部がチームに収入として入ってきます。パブリッシャーとどういった契約をするかでパーセンテージは決まりますが、これもチームの収入源のひとつです。また、オンラインに限らず、オフラインでもステッカーやシールを販売しています。パブリッシャーだけでなく、メーカーと協力し、アイテムをデザイン段階から設計することもあります」

 Fnaticでは業界で初めて、工場やデザイナーと協力し、ハードウエアなどを独自でデザイン、企画・開発・販売したという。

 パゴット「現在の我々の課題は、能力のある新しい人材をどのように確保するかです。そこで、アカデミーチームを作り、ここで訓練を積んでもらいます。人材を育てて実績を残した上で、しかるべき報酬で選手が移籍する。移籍金はチームにとって貴重な収入源になります」