湘南を元気に RIZAP、ベルマーレ起点の「健康街づくり」

2019/01/31 05:00

内田 泰=日経 xTECH

 2018年4月にサッカーJリーグのJ1に所属する湘南ベルマーレの経営権を取得し、スポーツビジネスに本格的に参入したRIZAP。2019年1月にはアスリートを強化・育成するトレーニング・研究施設「RIZAP Lab(ライザップラボ)」を神奈川県平塚市にオープンするなど、これまで「ボディメイク」で培った知見と12万人分の身体データ(体重/体組成、毎日の食事、運動履歴、血液)をベースに、アスリートのパフォーマンス向上のメソッド確立を目指す。その視線はアスリートのみならず、一般の人にも向けられており、湘南地域に住む人たちの健康増進への貢献を大きな目標に掲げている。

 RIZAPグループは2018年11月14日、2019年3月期通期の業績予想について、営業利益を当初の230億円の黒字から33億円の赤字へと大幅な下方修正をしてメディアを賑わせた。11月時点で連結子会社が85社に達するなど積極的なM&A(合弁・買収)を仕掛けてきたが、再建が思うように行かない子会社も多かったことが原因だとする。瀬戸健社長は決算説明会で、新規のM&Aの原則凍結や、本業のボディメイクなど成長事業に注力する方針を明らかにした。「スポーツによるアスリートの支援や健康増進」ビジネスは今後の注力事業の一つである。同社マーケティング戦略ユニット ユニット長で、湘南ベルマーレ取締役の松岡洋平氏に、湘南ベルマーレを軸にしたスポーツビジネスの今後の展開などを聞いた。(聞き手=内田 泰=日経 xTECH)

湘南ベルマーレの試合の様子。スタンドから撮影(写真:湘南ベルマーレ)
[画像のクリックで拡大表示]

プロでの知見を汎用化して一般に提供

――2019年1月に「RIZAP Lab(ライザップラボ)」をオープンしました。世界のトップアスリートが使うトレーニング機器を導入し、RIZAPのトレーナーと強度が高いトレーニングを行ってアスリートを育成するのが狙いと聞いていますが、具体的にどのようなビジネスを想定しているのでしょうか。

松岡 これまでのトレーニング施設が正直言って貧弱だったので、建屋も刷新し、低酸素ルームなど世界のトップアスリートが使用する最新のトレーニング機器を導入しました。湘南ベルマーレスポーツクラブにはサッカーだけでなく、ビーチバレー、トライアスロンなど多くの競技のプレーヤーが所属しています。RIZAP LabはJ1の湘南ベルマーレだけでなく、他の競技のスポーツ選手や意識が高い一般のスポーツ愛好家が来たがるような施設にするのが狙いです。

「RIZAP Lab」でのトレーニングの様子(写真:湘南ベルマーレ)
[画像のクリックで拡大表示]

 稼働率の問題があるので、どこまで解放するかは未定ですが、有料でトレーニングや食事指導などを提供します。最初はプロを対象にしますが、ゆくゆくは大学のトップチームなどにも提供する予定です。RIZAP Lab単体でビジネスとして成立するようにしたいと考えています。

RIZAP Labに設置された低酸素ルーム(写真:湘南ベルマーレ)
[画像のクリックで拡大表示]

――そもそも、「結果にコミットする」を標榜したボディメイク事業を手掛けてきたRIZAPがスポーツビジネスに参入したのはなぜでしょうか。

 

松岡 当社は“低糖質ダイエットの会社”というイメージが強いですが、本来は自己実現のための自己投資を後押しする企業なので、スポーツは大きな部分を占めています。RIZAPはこれまでもプロボクサーの村田諒太選手のようなプロアスリートにプログラムを提供し、そこで得た知見をサービスやプロダクトにフィードバックすることを実践してきました。これをチーム単位で初めて取り組むのが湘南ベルマーレです。

 やはり、プロは要求がシビアです。パフォーマンスが出てなんぼの世界なので、そこに至るプロセスや得られるエビデンスを一般の方が享受できるように汎用化して提供することは意味があると考えています。例えば、米ナイキ(Nike)の厚底シューズ「ヴェイパーフライ(vaporfly)」はトップ選手の要望を受けて開発し、実際に良い記録が出てヒット商品となっています。トップ選手に求められるものを一般に展開するのはRIZAPのビジネスでもあり得ます。

選手ごとに個別のプログラム

――湘南ベルマーレを買収し、実際に運営する中で感じている既存事業とのシナジーや今後のポテンシャルをお聞かせください。

RIZAPグループのマーケティング戦略ユニット ユニット長で、湘南ベルマーレ取締役の松岡洋平氏。前職はスマートニュース
[画像のクリックで拡大表示]

松岡 RIZAPが湘南ベルマーレに提供できる価値は2つあると考えています。1つはチーム面、もう1つはクラブの経営面です。チーム面では2018年6月から、RIZAPのトレーナーである管野翔太が、湘南ベルマーレのパフォーマンスアップチーフトレーナーに就任してチームに帯同しています。彼は柏レイソルのユースでプレーしていた元サッカー選手で、筋肉に関する知識も豊富です。

 日本では、サッカー選手はあまり筋トレをしません。しかし、湘南ベルマーレではどうすればサッカーで良いパフォーマンスを発揮できるのか、体作りに取り組んでいます。そこでは、RIZAPのパーソナルトレーニングと同様、最初に選手全員に面談してカウンセリングをしました。選手が「どうなりたいのか」「なぜそうなりたいのか」をトレーナーと徹底的に話し合い、そのためには「何をやればいいか」を納得できる形で合意してプログラムを提供しました。

 例えば、足の可動域を広げるためにはこういうトレーニングをしましょうとか、試合の後半まで走り続けられるように食事のメニューをこうしましょうとか、管野が個々の選手ごとにカスタマイズしています。もともとRIZAPが一般の方に提供しているトレーニング、食事、コーチングに関わる指導メソッドを活用しているのです。

 あと我々は“寄り添い”と言っていますが、一緒に目標を達成するという目線が大事です。選手もよく言っていますが、RIZAPはCMのイメージが強いので最初はめちゃくちゃ筋トレをさせられると思っていたそうですが、管野がやったのは個々の選手ごとに課題を特定してプログラムを提供することです。

 

 こうした取り組みの結果、選手は以前より走り続けられるようになったり、例年に比べて大きなケガも減っています。その成果の一つが、2018年のJリーグYBCルヴァンカップの優勝です。国内主要タイトルの獲得は、1994年以来、23年ぶりのことでした。

 一方、経営面ではRIZAPが参画することで、スポンサーを紹介したり、新しいサービスを導入したりしています。私の前職はスマートニュースですが、Jリーグで「SmartNews」に最初にチャンネルを登録したのはベルマーレですし、投げ銭コミュニティーのエンゲートとJ1で最初に契約したのもベルマーレです。「LINE Pay」も日本のプロスポーツチームで初めて取り入れました。こうした企業はRIZAPから紹介したものがほとんどです。

湘南ベルマーレの試合の様子(写真:湘南ベルマーレ)
[画像のクリックで拡大表示]

湘南エリアに新スタジアム計画進行中

――湘南ベルマーレの経営権を獲得した際に、チームとして2つの目標を掲げました。2020年までに国内主要タイトルを獲得することと、スタジアムを満員にして収容率1位を実現することです。前者は早くも達成してしまいましたが、後者に向けた取り組みはいかがでしょうか。

松岡 現在のスタジアムは、収容人数1万5000に対して収容率は75%程度です。収容率の向上に関しては、SmartNewsやLINE Payなど外部との連携も含めて、ファンとの接点をいかに増やすかが重要だと考えています。その点ではルヴァンカップの優勝で、メディア露出は過去最多になっていますが、ライト層のファンをいかに増やすかが課題です。

 ベルマーレにはコアファンが多く、ファンの平均年齢は比較的高く男性が中心です。かつての名称である「ベルマーレ平塚」と呼んでいる人もまだいるくらいです。ライト層の認知度を高めるためには露出を増やす必要があります。チーム成績が一番ですが、新しい施策をどんどん仕掛けて、何が集客に有効かを見極めるなどPDCAを回していきます。

――では、ライト層のファンを増やすために、具体的にどのような取り組みを実践していますか。

松岡 例えば、恋愛・婚活のアプリを提供するPairs(ペアーズ)と連携して、スタジアムで男女が出会うイベントを開催したりしました。スポーツ観戦は出会い系のイベントと相性がいいと聞いていましたが、募集100人のところにかなり多くの申し込みがありました。スポーツ観戦が大好きな人はもうスタジアムに来ているので、このようなイベントを通じてそうでない人にまず足を運んでもらえればいいと考えています。

――スタジアムの新設計画はあるのでしょうか。

松岡 建設は数年先の話になると思いますが、「湘南スタジアム研究会」という組織で検討が進められ、湘南エリアでいくつかの候補地が上げられました。現在は自治体と交渉するフェーズですが、建設地はまだ未定です。計画では収容人数が1万8000~2万5000人のJ1のライセンス基準を充たした、サッカー専用スタジアムになります。

 もちろん、サッカーの試合だけだと1年で20日程度しか稼働しないので、コンサートなどのイベントを開催して試合がない日の稼働率を高めることを検討しなければいけません。ただし、良いスタジアムがあることはビジネス上重要で、例えば浦和レッズの入場料収入は湘南ベルマーレの7倍以上もあります。それは収容人数だけでなく客席の単価が高いからで、やはり良い体験を提供すれば単価が高くても観客は来てくれます。ちなみに湘南ベルマーレはJ1でも単価が一番低くなっているのが現状です。

湘南をスポーツハブ化

――RIZAPはスポーツビジネスに本格参入する一方で、ヘルスケア事業にも力を入れています。例えば、健康経営をうたう企業に対して法人向けのプログラムを提供したり、自治体と連携してシニア向けに“成果報酬型”の健康増進プログラムを展開したりしています。2018年1~3月に長野県伊那市で実施したプログラムでは、参加者(39人)の89%が体力年齢で10歳以上若返ったそうですね。

松岡 伊那市のプログラムでは、体力年齢が10歳若返った人数もしくはプログラム終了後3カ月の医療費削減効果の双方を試算して、成果が高い方について自治体がRIZAPに報酬を支払う仕組みでした。これが最終形ではないですが、成果を出すことが目的なので、我々のプログラムに興味を持っている自治体が増えています。

 これまで行われてきた自治体向けの健康増進プログラムは、実施することが目的化していた感があります。我々は通常のRIZAPのボディメイクと同様、最初にカウンセリングを通じて個々の参加者の目標をはっきりさせました。このステップが重要です。当社の自治体向けのプログラムは、今では伊那市も含めて累計で10カ所以上に広がっています。ただし、自治体の場合は年度の予算で実施するので、拡大のペースは法人向けと比較すると遅いです。法人向けは開始から1年間で560社、5万人以上に提供しています。

――こうした健康増進プログラムを湘南ベルマーレのファンなどに提供するお考えはありますか。

松岡 自治体も会社の場合もそうですが、一般に健康増進プログラムを実施すると、実は健康な人しか参加しません。これでは意味がありません。湘南ベルマーレとは、いかに健康に問題を抱えている人にこうしたプログラムに参加してもらうかを議論しています。なぜなら、スポーツ観戦には健康な人も、あまり健康でない人もたくさんやってくるからです。RIZAPとして、どのようなやり方ならここに独自の価値を提供できるかを今後考えていきます。

――2018年12月には、スポーツを通じて湘南を健康、そして元気にする「湘南スポーツハブ」構想を公表しました。そこでは「日本一の健康寿命の実現」「スポーツのあるライフスタイルの浸透」「スポーツを基点としたサービス/プロダクトの創出」「スポーツアスリートの育成」などを掲げています。

松岡 湘南ベルマーレだけではなく、湘南というエリアをいかに活性化するかを考えています。RIZAPとベルマーレのアセットを活用しながら、国内外から人が集まり、経済的に潤い、そして住みたい・遊びに行きたい街No.1の実現を目指していきます。