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スポーツとイノベーション

「スポーツ体験」、2020年のレガシーどうつくるか

「スポーツアナリティクスジャパン2017」から(5)

2018/02/07 05:00

浅野智恵美

ストーリーを作ることの重要性

野坂 リアルタイムの共時性、みんなで熱狂する感じなど、いろんな文脈を持っていると思っていて、それを上手く届ける、ストーリーにしていくということが重要になってきています。そこに対する工夫や考えていることはありますか。

ワン・トゥー・テン・ホールディングスはAIやロボティクス、IoTまで幅広く展開。澤邊氏は日本ボッチャ協会理事、公益財団法人東京オリンピック・パラリンピック競技大会組織委員会アドバイザー等も務めている
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澤邊 僕は基本的に大上段にビジョンがあって、それがコンセプトとなり、そのコンセプトからストーリーが導き出されるといつも考えています。じゃあ、一番のビジョンは何かといったら、競技会場を満席にすること、「2020」(東京オリンピック・パラリンピック)を成功させるなどがあって、コンセプトとしてはどう楽しく伝えるのか。

 例えば女子高生でも参加できる、デートに使えるボッチャといったストーリーを作って展開していく。日本のメーカーやスポーツ界はそれが苦手で、コンセプトがないのに無理矢理ストーリーを作っても普及しません。ストーリーを考えていくときにビジョンやコンセプトがしっかり根付いていないと、おそらく上っ面だけになってしまうと思います。

岩佐 インターネットの力で世界の人たちがバーチャルにつながっていけば、すごくニッチなスポーツでもバーチャルな会場は満席になるかもしれません。各国から100人ずつ観に来てくれて、それを全部足したら1万人が観ている。僕らが最近紡いでいるストーリーは、すごくマイナーでニッチなスポーツを簡単にインターネットに出せるようにして、それで世界中の人がどんどん来てくれるようにする、というものです。

 2020年以降までいくと自動翻訳などのツールによって、もう言葉の壁はなくなっているだろうと思います。海外の人たちがやっているスポーツを日本人がその言葉がわからなくても観ていて、ちゃんと理解できて楽しめる。おそらく2020年、2021年までいくとそこにメタデータもたくさん付加され、何らかの方法で観客も参加していける。そこのストーリーは期待大ですね。

森田 自分ではまだ体験していないこと、という点ではやはりVR(仮想現実)は可能性があると思います。いきなり楽しさというのは伝わりづらいので「アスリートはこんな風にやっているんだ」というのを伝えるのは、まさにVRの見せどころ・使いどころだと思います。

 ただ、「VR酔い」を避けるためにスタビライゼーションという処理をするのですが、それぞれの競技によってそれが違います。それを一つ一つやるとなると、コンテンツをつくるのが大変でコストが高くなる。ビジネスとしてどうなのかという懸念はありますね。

サイバネティクスに関する課題

野坂 継続的にするという意味でも、ビジネスというのは非常に重要なキーワードになってくるのでしょうね。ストーリーという意味で、あえてオリンピックとパラリンピックを分ける意味はあまりなくなってくるのではと思います。そことどんどん融合していくきっかけが2020になるかもしれないですね。

澤邊 ご存じのように、パラリンピックの競技記録がオリンピックを抜き始めています。恐らく、そう遠くないうちにボルトの記録も抜かれてしまう。選手が100mを9秒2で走ったときに私たちがどう感じるか、というのもありますし、体を一部機械化する、体にチップを埋め込むといったこともSFではなくなってきます。すると、オリンピック・パラリンピックの境界もなくなっていきます。テクノロジーとスポーツを融合させて新しいスポーツをつくり出そうと試行していますが、そういうものが増えてきたときに、あまり身体的な制限は関係なくなってくると思います。

岩佐 「身体拡張」と表現しているのですが、弊社では「サイバネティクス」(通信工学と制御工学を融合し、生理学、機械工学、などを統一的に扱うことを目的とする学問)に興味を持っています。「3本目の手をはやそう」などと言うとギョッとする方も多いのですが、メガネやコンタクトレンズがないと生活ができない方も多いと思います。もし、これが原始時代だったら健常者ではないですよね。

岩佐氏。セレボはネットワーク接続型家電の開発・販売を行っている。「グローバル・ニッチ」をコンセプトに今までにない新しい製品を創出している
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 機械によって人体のスペックを上げ、視力が何十倍にもなる。機械による人間の拡張はエグイ感じではなく、“今より便利に生活できるのであれば”という考え方です。もし、チップを埋め込んだら寿命が5年伸びると言われたら、多くの方は埋めると思います。仮に人類の半分がチップを埋め込んだとして、そのときオリンピック選手はチップを埋め込んでいていいのかどうか。このメーカーのチップはいいけど、このメーカーのこのタイプは違反、ということも有り得る。結構難しい課題だと思いますよ。

野坂 階級が、ものすごく分かりにくくなりますよね。倫理観含めて人間がどう受容していくのか。