苦痛を伴うリハビリにも効果あり

 モチベーションを高められるゲーミフィケーションの強みは、時に苦痛も伴うリハビリテーションにおいても有効活用できそうだ。

 例えば、筋力維持や歩行安定に有効とされる起立運動を、楽しみながら継続してもらうことを目的としているのが、リハビリ支援ゲーム「リハビリウム 起立の森」である。カメラと赤外線センサーを使って利用者の起立運動を検知し、回数を重ねるほどモニターの植物が育つ仕掛けだ。九州大学 大学院 芸術工学研究院 准教授の松隈浩之氏が正興ITソリューション、特定医療法人 順和 長尾病院 リハビリテーション部と共同で開発を進めている。

起立運動0回時点の画面イメージ
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起立運動8回時点の画面イメージ。植物が徐々に育っている
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 ゲームを活用したきっかけは、「単調な起立運動のリハビリを継続してもらうことが難しかったから」と正興ITソリューション サービス部の松嶋翔平氏は言う。起立運動を行わなければモニターの映像は変わらないため、「この仕掛けは能動的参加をうまく取り入れている」とゲーミフィケーション デザイナーの岸本氏は評価する。

(左)正興ITソリューション サービス部の松嶋翔平氏、(右)正興ITソリューション サービス部 ヘルスケアグループ グループ長の今道浩幸氏
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 実際、起立運動に関する過去の研究では、セラピストがいる状態で起立運動を行った場合の目標達成率を100とすると、一人で行う場合が90%、セラピストと一緒にゲームを利用した場合が130%であることが明らかになっているという。

 現在は、長尾病院の患者を対象に、前のめりになったり傾いたりしている人の起立運動も検知できるかを検証中だ。2019年内の提供開始を目指している。

 同様に、NPO法人 Ubdobeが手掛けている「デジリハ(Digital Interactive Rehabilitation System)」も、リハビリテーションにゲーミフィケーションを活用したプログラムだ。触ると反応する仕掛けをデジタルアートに施すことで、楽しんでリハビリテーションをしてもらうことを狙ったもので、18歳未満の小児を対象にしている。

 例えば、おじいちゃんとエビフライが好きな子供に向けたプログラムでは、壁におじいちゃんの映像を映し出し、何度か触れるとおじいちゃんがエビフライに変身する仕掛けを施した。おじいちゃんを触るために手を上げることが、実はリハビリテーションになっているというわけだ。普段は“やらなくてはいけないこと”だったリハビリテーションを「楽しくやっている姿に驚いた」とUbdobe デジリハ事業部 広報担当の加藤さくら氏は言う。

 さらに、ずり這いのリハビリテーションを行っている鳥が好きな子供には、床に投影した鳥を触ると羽ばたくプログラムを作成した。鳥の位置まで行こうとすることで、自然とずり這いのリハビリテーションができる仕掛けだ。

ずり這いのリハビリができるプログラム(提供:Ubdobe)
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対象の子どもが好きな物をふんだんに取り入れた(提供:Ubdobe)
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 プログラムの開発は、医療従事者やプログラミング専門職が監修を行う。特定の患者を対象にしたオーダーメイドプログラムの場合、まずは普段リハビリを担当している理学療法士や作業療法士、言語聴覚士と相談してどういうプログラムを作るかを決める。

 どういう仕掛けを施すかなどのコンセプトを構想する際には、Ubdobeが運営するプログラミングスクールに通う小中学生のキッズプログラマーにも参加してもらう。対象となる患者とキッズプログラマーが一緒に遊びながらコンセプトを決めることで、子供の視点を盛り込めるというわけだ。

 現在は、個別患者に向けたプログラムだけではなく、関節可動域に応じた汎用性のあるアプリも複数開発している。2019年4月には複数のアプリの提供を開始したい考えだ。将来的には、施設や病院、自宅など「場所を問わずにデジリハを利用してもらえるようにしたい」と加藤氏は意気込む。