成果報酬型をヘルスケアにも

富原早夏氏 経済産業省 商務情報政策局 ヘルスケア産業課 課長補佐

2017/06/12 08:30
伊藤 瑳恵=日経デジタルヘルス
 提案があった「医療コンシェルジュ」の仕組みは、誰が抱えるどのような課題を解決しようとしているのかを明確にする必要があると思います。例えば高齢者に向けたものであれば、医療や介護だけでなく住まいやお金など、抱える心配事はさまざまあり、トータルでコーディネートする必要があるでしょう。どういう対象を想定しているのかについて一緒に考えていきたいです(関連記事)。

経済産業省 商務情報政策局 ヘルスケア産業課 課長補佐の富原早夏氏(写真:加藤康、以下同)
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 何のためにやるのかを明確にすることがいかに重要かは、これまで経済産業省が行ってきた実証実験の反省を通じて学びました。医療・介護周辺領域の実証事業をさまざま行ってきましたが、持続的に回っていく仕組みをあらかじめ考えることが重要だと気付いたのです。これを見据えたうえで、どのような主体がどういうメリットを感じて、お金を出してくれそうかを描く必要があります。そうでなければ、ただ1年間補助金を使って実証したが続かない、というもったいないことになってしまうのです。

 社会課題を解決するうえでお金の問題は避けて通れません。経済産業省では、「ソーシャルインパクトボンド(SIB)」という新たな官民連携の仕組みを推進しています。これは、行政が成果報酬型の委託事業を実施し、民間の投資家(地銀やメガバンク、地域の富裕層、クラウドファンディングなど)からお金を出してもらい、事業成果(行政コスト削減分の一部)を投資家にリターンする手法です。これを医療・介護の領域にも利用できないかを検証しています。今年度からは、八王子市の大腸がん検診受診率向上や神戸市の糖尿病性腎症重症化予防で実施する話が進んでいます。

 ソーシャルインパクトボンドを推進し始めたのは、公的なセクターの今の仕組みのままでは社会課題を解決しきれないと思ったからです。役所の場合、「単年度主義になってしまう」「コストの見積もりベースでの支払い」「調達は安い方が強いという風潮がある」「固定経費の割合が大きいため、なかなか新たな政策的投資ができない」などさまざまな課題があるからです。一方、社会課題にお金を出したいという人も、ソーシャルベンチャーも増えています。そこで、民間の資金と、民間で成果を出せる事業者のノウハウを活用した、成果報酬型の仕組みを行政としても推進していけたらと思ったのです。

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 ここで難しいと実感しているのは、事業成果をいかに評価するか、そして支払条件の整理です。例えば介護費や医療費の削減というのはわかりやすいですが、それだけでなく家族の介護負担が抑制されたり介護離職が減ったり、介護職の負担が減ったりといったことも評価につながると思っています。本人の満足度向上なども一つの指標に成り得ます。このあたりについては、さらに議論を重ねていく必要があるでしょう。

 医療・介護の課題解決のために、ともすればIoTやAI、ロボットを導入しようという話になりますが、いきなり入れようとしてもうまくいかないのではないでしょうか。トヨタの現場では、ITなどを入れる前に生産性向上の取り組みを徹底的に進めて、これ以上何もやることがなくなって初めてITの活用を考えるのだそうです。整備されていない環境にとりあえずITを入れても、かえって現場は混乱するのではないかと懸念しています。まずは、いまできることを整理したうえで、何のためにやらなくてはいけないのかをもう一度考える必要があるのではないでしょうか。

 私が役所という場所を職場に選んだのは、「このままじゃいけない」と思うものに対して役立てる、少なくとも役に立とうとあがけるところだからだったことを思い起こしました。一人ひとりが持っている「こうしたらいいのではないか」というアイデアや一人ひとりの努力が少しでも前に進むように盛り立てていきたいと思います(談)。

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