「健康」よりも「生活」の視点からの仕組みを

中野智紀氏 東埼玉総合病院 地域糖尿病センター センター長

2017/06/07 06:30
大下 淳一=日経デジタルヘルス

 医療はどうしても“病気を治す”ことにベクトルが向きます。ですから個人の生活の複雑さ、個別性を前にした時、医療というくくりでは対応できないことがたくさん出てきます。必要なのは提案のあった「医療コンシェルジュ」ではなく「生活コンシェルジュ」ではないでしょうか(関連記事)。

東埼玉総合病院 地域糖尿病センター センター長の中野智紀氏(写真:加藤康、以下同) 
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 社会保障制度というマクロなアプローチでは手が届かず、制度のすきまに落ち込んでしまう人達がいます。そうした人達を含めて、国民一人ひとりにソーシャルワーカーの機能を提供し、一人で問題を抱え込まないよう支援する。生活コンシェルジュで想定するのは、そうした支援のあり方です。

 健康ではなく、「生活」という枠組みでセーフティーネットを張り直すべきだと、私はかねて考えてきました。「誰もが健康になりたいと願っている」と言いますが、それは果たして本当でしょうか。私は外来で「自分はもう死んだほうがいい」という声を患者の口から聞くことがあります。「生きていても家族に負担を掛けるばかりだから」というのです。

 生活を健康よりも価値の高いものと考え、その人の生活こそを支える。そういう仕組みが求められていると私は考えています。

 そこに向けては、国と共同体、市場の3者にそれぞれふさわしい役割を与え、そのバランスを取っていくことが大切でしょう。市場には市場の役割があり、例えば民間のサービスを生活支援に生かせる場面があればどんどん生かせばいい。でもそれだけでは十分ではないので、国や共同体が果たすべき役割があるはずです。3者それぞれの良さを生かす仕組みづくりが重要であり、それぞれの役割をどのように移し変えるかの議論は慎重に進めなければならないと思います。

“まとめて運用”がポイント

 多職種による情報連携の仕組みをつくろうとする時、コストの議論は避けて通れません。コストの点からもサステナブルな仕組みをいかに実現するか。そのポイントとなるのは、まとめて運用することです。具体的には、収益性の低いシステムや事業があったときに、収益性の高いものとまとめて運用していく。つまり、さまざまなプレーヤーやシステムを巻き込んだ仕組みとして運用することが理想です。

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 埼玉県では「とねっと」という地域医療ネットワークを構築しているのですが、そこでは地域医療連携パスのほか、健康情報記録(PHR)、救急とEHR(Electronic Health Record)の情報共有など、さまざまな仕組みを動かしています。ところが、どこで採算を合わせているかと言えば、実は透析療法にかかわる部分です。IoT(Internet of Things)や遠隔医療といった試みにも、こうした大きな枠組みの中で取り組んでいるのです。

 とねっとのような仕組みを、さまざまなベンダーが別個のプラットフォームでつくろうとすれば、全体として非常にコストがかかります。例えば、基本アーキテクチャーは国が示し、民間はそのアーキテクチャーに基づく仕組みをつくるといった形はどうか。こういうところでも国と共同体、市場の役割をきちんと整理することが重要だと考えています。(談)

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