島根県益田市で市民の血圧や尿成分を測定するワケ

血圧はなぜ上がるのか、解明目指す

2018/12/17 15:00
伊藤 瑳恵=日経デジタルヘルス

 「IoTを活用して、血圧変動の要因を解明したい」――。そんな思いで、島根県益田市が取り組んでいるのが、「益田市スマート・ヘルスケア推進事業」である。

 市民のバイタルデータを測定し、血圧変動の要因解明や個人に合わせた血圧管理の実現を目指したプロジェクトだ。益田市ではIoTを活用した実証実験を行う「スマートシティ構想」を打ち出しており、今回の益田市スマート・ヘルスケア推進事業は、その一環として行う。

益田市長 山本浩章氏
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 具体的には、2018年10月から市内にある3つの企業の従業員と益田市職員の合計306人が、血圧と活動量、尿の成分を日々測定している。測定したデータは島根大学で分析され、どういう生活習慣によって血圧が上昇するのかを医学的に解明することを目指す。参加者には1カ月ごとに結果をまとめたレポートが返される仕組みだ。

血圧に関するレポートの見本(提供:島根大学)
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血圧に関するレポートの見本(提供:島根大学)
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 益田市がこうした取り組みを実施するのは、「脳卒中の発症率と死亡率が国の平均よりも高いことに危機感を抱いていたから」と益田市長 山本浩章氏は説明する。特に、40~69歳の男性の死亡率が高いという。

 脳卒中発症者の特徴を調べたところ、「6割の人が高血圧であると分かった」(山本氏)。若くして脳卒中を発症した人ほど、高血圧の治療を放置していたり、高血圧であることに気づいていなかったりするという。そこで、血圧コントロールが重要だと考え、血圧に関する項目を測定することにしたというわけだ。

 まずは、市民の健康管理への関心を高め、脳卒中や心疾患の発症抑制につなげたい考えだ。2019年度後半からは一般市民も対象にする予定で、「年間100~200人ずつ対象者を増やし、1000~2000人規模に拡大していきたい」と山本氏は話す。

使用する測定機器
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尿成分で食生活を評価

 参加者は、オムロン ヘルスケアのデバイスを使って、朝と晩の血圧、1日の活動量、朝の尿成分を測定している。

血圧値に応じて、レポートに異なる色のシールが貼られる(提供:島根大学)
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 血圧については、日本高血圧学会のガイドラインに従って結果をフィードバックする。リスクが高いと判定された場合は、医療機関への受診を促すようにしている。

 活動量に関しては、1日の目標値を設けているわけではないが、「運動する習慣があるかどうかを見ている」とオムロン ヘルスケア 技術開発統轄部 学術開発部 学術渉外グループ 基幹職の河野誠二氏は話す。例えば、活動量が少ない場合はデスクワークなど体を動かさない仕事をしているとみなし、血圧との相関関係を解明するのに役立てる。今後は、運動習慣がなく活動量が少ない人に関しては「日々の生活の中で体を動かすことを意識するよう呼び掛けていきたい」と益田市福祉環境部 健康増進課長 地域医療対策室長の山本ひとみ氏は語る。

活動量に関するレポートの見本(提供:島根大学)
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Na/K(ナトカリ比値)に関するレポートの見本(提供:島根大学)
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益田市福祉環境部 健康増進課長 地域医療対策室長の山本ひとみ氏
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 尿検査では、尿に含まれるNa(ナトリウム)とK(カリウム)の比率であるNa/K(ナトカリ比値)を測定する。ナトリウムは体内に水分を溜め込もうとし、カリウムは余分なナトリウムを排出しようとする作用を持つ。血圧は、水分が溜まるほど高くなるため、Na/Kの値が低いほど血圧が下がるというわけだ。

 カリウムは野菜に多く含まれるので、塩分を多く含む食品を控えて野菜を多く摂取するほどNa/Kの数値は低くなる。今回の事業では、日本高血圧学会が推奨する塩分摂取量や東北大学東北メディカル・メガバンク機構の調査結果を参考に基準を設けている。

毎朝の測定が“歯みがき”のような習慣に

 参加者の中には、これまで血圧を測定する習慣がなかった人が多くいる。それにも関わらず今回の事業に参加したのは、「IoTというキーワードを使ったことで30~40代の人に興味を持ってもらえたから」と益田市福祉環境部の山本氏は見る。

益田市議会事務局 次長の石川信幸氏
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 参加者の一人である益田市議会事務局 次長の石川信幸氏も、以前は血圧測定の習慣がなかったという。測定データに対してフィードバックをもらえることにメリットを感じて事業に参加したところ、「毎朝の測定も“歯を磨く”ことと同じように習慣化できている」と話す。参加者の中には、測定してみると血圧が高いことが分かり、病院を受診することになった人もいるなど、習慣化による効果が出始めてきている。

 益田市長の山本氏も、「日々の食生活が如実に反映されるため、生活習慣の見直しにつながっている」と話す。Na/Kの値が高い日は、カリウムが多く含まれるバナナを食べるようにするなど、行動変容にもつながっているようだ。

■変更履歴
記事初出時、カリウムの働きについて「水分を排出」とあったのは「ナトリウムを排出」でした。お詫びして訂正します。記事は修正済みです。