倉敷中央病院が目指すブリリアントホスピタルとは?

AIやIoTを駆使し医療の質や患者満足度を上げる

2018/11/21 11:00
伊藤 瑳恵=日経デジタルヘルス
出典: 日経メディカルOnline,2018年11月20日 , (記事は執筆時の情報に基づいており,現在では異なる場合があります)

倉敷中央病院(岡山県倉敷市)とGEヘルスケア・ジャパンは2018年11月2日、機械に通信機能を持たせた製品(IoT)や人工知能(AI)を駆使した「ブリリアントホスピタル」構想を実現するための包括契約を締結したと発表した。医療スタッフの導線や滞在分布、医療機器の稼働状況を分析することで、医療スタッフや機器の稼働の効率化を目指す。

2018年11月2日に開催された発表会の様子
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 米GEはデータをリアルタイムに活用して作業効率を最適化する「ブリリアントファクトリー」の概念を提唱・実践してきた。そのノウハウを医療機関に応用する試みがブリリアントホスピタルだ。

 医療機関にとって、診療に用いる機器の入れ替えは医療の質、ひいては患者満足度の向上にもつながる重要な判断だ。だが、現場の希望を全てかなえるのは、病院経営上不可能なこと。倉敷中央病院ではかねて、機器の新規購入の際に稼働状況をチェックすることで、優先順位を明確にすることを目指していた。

 同病院ではまず、技術の変化が特に早く、毎年のように新製品が登場するため、年間10数台分の新規購入を求める申請がある超音波診断装置に着目。2015年から2016年にかけて、購入を検討するために試験的に導入した機器の稼働状況をデータ化しようとした。各診療科の医師や臨床工学技士などに機器の使用状況を記録してもらい、新しい機器が必要かどうかを見定めようと試みたが、「忙しくてとても記録していられない」という意見が噴出。結局、機器の使用状況の記録は諦めざるを得なかった。

 手をこまぬいていた同病院の問題を解決したのが、GEヘルスケア・ジャパンだった。GEヘルスケア・ジャパンでは、同社の日野工場で働く人や機器に通信チップを付けて接続し、効率化を図ってきた。X線CT装置のガントリー(架台)の組み立て作業に関しては、導線を工夫して作業員がネジやドライバーを取りにいくなどの付帯業務にかかる時間を極力減らすことで、1990年には5日間かかっていた作業を、わずか4時間12分で行えるようにまでなった。2017年夏、倉敷中央病院の幹部がGEヘルスケア・ジャパンに相談し、ブリリアントファクトリーを応用したブリリアントホスピタルプロジェクトが動くことになった。

15%の超音波診断装置が“ほとんど使われていなかった”

 倉敷中央病院はGEヘルスケア・ジャパンの協力の下、2017年12月から院内にある超音波診断装置のうち80台の稼働状況をモニタリングするパイロットスタディーを開始した。具体的には、超音波診断装置の位置情報をセンサーで取得し、電子カルテや医療用画像管理システム(PACS)、放射線科情報システム(RIS)の情報を突合することで1台ごとの稼働率を算出したのだ(下写真)。その結果、院内にある130台のうち20台余りがほとんど使われていないことが推察されたという。

超音波診断装置に取り付けた発信器(左)と保管場所に設置した受信器(右)。受信器の信号を発信器が検知することで、各機器が保管場所に正しく置かれているかどうかが分かる(撮影:森田靖、以下同)
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 さらには台帳上、廃棄されたことになっているにもかかわらず、現場が「もったいないから置いておこう」と判断してそのまま放置された機器も複数台見つかった。超音波診断装置は使っていなくても保有しているだけで管理にコストがかかる。1台当たりの年間保守費用は少なくとも数10万円。「不要なら手放した方が好ましい」と常務理事・事務長の富田秀男氏は指摘する。

 同病院では、稼働率が低い10数台を現場から引き揚げて廃棄や複数の診療科で共有することを現在検討中だ。ただし、患者の安全を第一に考え、「使っているなら無理に減らすことはしないのが原則」と富田氏は強調する。稼働状況を可視化して既にある資源を有効活用することを念頭に置き、可能なら保有台数を減らすといった見直しを図っていく。

4年間で2億円のコスト削減を目指す

 廃棄しなくても、稼働状況を可視化するだけで資産を有効活用できる可能性がある。例えば、同病院では心臓血管外科が購入を希望していた超音波診断装置と同等のスペックの機器が小児科でほとんど使われていなかったことを把握。結果として装置を移動するだけで済んだ。「何もなしに『この装置を使っていないようだから他科に譲渡してよいか』という提案はしにくいが、ほとんど使っていないことがデータで明らかになれば納得してもらえる」と医療技術部門医療技術本部長の田渕隆氏は語る。

「稼働状況の可視化によってほとんど使われていない超音波診断装置があることが分かり、非常に驚いた」と話す倉敷中央病院院長の山形専氏
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 もちろん、新規購入申請を承認する際の判断にも稼働状況の可視化は役に立つ。申請を受けられない場合に、頭ごなしに「できるだけ安価な機器を選んでほしい」「台数を減らしてほしい」と言ってしまえば、医師など現場の医療スタッフのモチベーション低下につながりかねない。だが稼働状況のデータを基にした判断を示せば、スタッフの納得を得やすいと期待される。データからスペックの高い特定の機器ばかり使われていることが分かれば、「台数を減らしてスペックが高い機器に買い替える」といった具体的な提案もしやすい。

 パイロットスタディーで有効性を示したことを受けて締結した倉敷中央病院とGEヘルスケア・ジャパンとの包括契約では、まずは可視化による医療機器の保守費用と保有機器の買い替え費用を見直すことから始め、4年間で2億円のコスト削減を目指す。契約額は非公表だが、「コスト削減分で契約の元は取れるような金額を設定した」とGEヘルスケア・ジャパン サービス本部 成長戦略部の松石岳氏はそろばんをはじく。

 コスト削減だけでなく、増収効果も期待できる。超音波診断装置は、電源を入れればすぐに使える。そのため超音波検査について、「医師が患者に〇〇の検査を実施した」という記録がカルテに残されないことが多く、「診療報酬を請求できないことも少なくなかった」と院長の山形専氏は説明する。そこで倉敷中央病院とGEヘルスケア・ジャパンでは、医師や患者、検査名にバーコードを割り振り、バーコードを読み取るだけで検査記録が残せるような仕組みを作ることで、請求漏れをなくすことを目指す。

医療の質向上にもつながる可能性

 機器の稼働状況の可視化によって医療の質も向上する可能性がある。例えば、同病院には超音波検査専用の部屋が複数ある。各部屋に設置された装置の稼働状況をリアルタイムに可視化し、A室の方がB室よりも回転が速いことが分かれば、B室の患者をA室に回すなどの策を講じられ、患者の待ち時間の短縮などにもつながる。

 また、各診療科での必要な機器や医療材料の必要量を可視化し、必要量が把握できれば、各診療科ではなく中央管理室と最低限のサテライトで全てを一括して管理できるようになる。診療科やフロアごとに機器を保有していると、臨床工学技士や臨床検査技師は点検する際に現場を渡り歩かなくてはならず、効率が悪く、機器の点検も頻繁にできない。中央で管理できれば、技士が常に点検を行えるため、より少ない人数で、いつでも機器を清潔でエラーが出ない最善の状態に保つことができる。

 また、点検を少ない人数で効率的に進められれば、「機器を使いたいという連絡が入った際に、手が空いた臨床工学技士や臨床検査技師が現場に届けにいくことができるだろう」と田渕氏は期待する。技師が医師とコミュニケーションを取る機会が増えれば、より上手な機器の使い方を医師に教えられるチャンスが増え、医療の質を高めることも期待できる。

 さらに、今回のプロジェクトでは、スタッフの付帯義務を減らすなどの働き方改革や、モニタリングを行うことによる個別ケアの実現なども計画している。病院経営と医療の質向上にブリリアントホスピタルがどれだけの寄与するのか、今後の展開から目が離せない。