術中に肉眼では分からない癌やリンパ節が光る!

広がる蛍光ガイド手術

2018/05/23 08:30
伊藤 瑳恵=日経デジタルヘルス
出典: 日経メディカルOnline,2018年5月22日 , (記事は執筆時の情報に基づいており,現在では異なる場合があります)

蛍光物質を投与し、癌や血管、リンパ節を術中に光らせて手術成績を向上させる──。そんな蛍光ガイド技術の保険適用範囲が今年1月に拡大し、「日本蛍光ガイド手術研究会」も立ち上がった。従来の血管造影と異なり、術中にリアルタイムで見たい組織を特異的に光らせる新技術は、外科領域のスタンダードとなりそうだ。

 蛍光ガイド手術とは、蛍光物質を投与することで、肉眼では見えない構造や機能を手術中にリアルタイムに可視化する蛍光イメージングを用いて行う手術のこと。手術を高精度かつ安全に行うため、乳腺外科や消化器外科など様々な領域で活用されている。診療科の枠を越えた情報共有を実現するために、このほど大規模な研究会が立ち上がった。

写真1 日本蛍光ガイド手術研究会第1回学術集会の様子(提供:日本蛍光ガイド手術研究会)

 それが、2018年1月1日に立ち上がった日本蛍光ガイド手術研究会だ。同年4月7日には、「テイラーメイド手術を実現する蛍光イメージングの可能性」と題して、第1回となる学術集会を開催した(写真1)。研究会では、蛍光ガイド手術のガイドラインの制定や、蛍光物質の保険収載の支援を行っていくという。

 研究会には、賛助会員として研究者や企業のエンジニアも参加する。日本蛍光ガイド手術研究会副代表世話人を務める東京大学附属病院肝胆膵外科・人工臓器移植外科講師の石沢武彰氏は、「臨床医と研究者がコミュニケーションを図れる場にすることで、蛍光ガイド手術の発展に寄与したい」と意気込む。

 蛍光ガイド手術の最大のメリットは、「手術中にリアルタイムで癌や血管、リンパ管を見ることができること」と日本蛍光ガイド手術研究会代表世話人を務める京都大学大学院医学研究科外科学講座乳腺外科学教授の戸井雅和氏は言う。癌やリンパ管の位置に関しては、術前の検査でシミュレーションを行うが、術前のイメージを目の前の臓器に頭の中で重ねることは容易ではない。

写真2 蛍光ガイドのイメージ(提供:石沢氏) カラー像に蛍光像を重ね合わせることで、カラー像だけでは見えない大腸癌肝転移の位置が明瞭に抽出されている。
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 見たい組織が光る「道標」となれば、患者の血管走行や癌の広がりなどを手術中にリアルタイムに把握できる。術前に検査画像で確認していた血管や癌の位置を実際の術野で把握することは「実は難しい」(石沢氏)からだ。実際の術野では癌が臓器の奥にあったり、血管が脂肪に隠れていたりすることもある。

 見たい組織が光ることで可視光像よりも患者の状態を的確に捉えることができ、「より患者に適した手術が実現できる」と石沢氏は言う。例えば、癌の実際の分布を術野に表示できれば、切除予定だったが既に切除範囲外まで癌が広がっているから切除を中止するといった判断を行える可能性がある。

乳癌手術でセンチネルリンパ節を同定

 乳腺外科領域では、乳癌の手術時に蛍光ガイド技術が使われている。リンパ管やリンパ節を光らせることで、センチネルリンパ節の位置を同定しているのだ。

 センチネルリンパ節は「見張りリンパ節」とも呼ばれ、リンパ管に入った癌細胞が最初に到達するリンパ節である。蛍光ガイドでセンチネルリンパ節の位置を同定し、組織を摘出して病理検査をして癌細胞があるかどうかを診断する。

「いずれは、蛍光ガイド技術を内視鏡検査や分子イメージングにも活用できるようにしたい」と話す日本蛍光ガイド手術研究会代表世話人を務める京都大の戸井雅和氏。

 従来、センチネルリンパ節の同定には、色素法とラジオアイソトープ法が用いられてきた。色素法では乳房に色素を注入して染色されたセンチネルリンパ節を同定し、ラジオアイソトープ法では放射性医薬品を注入して放射能を検出することでセンチネルリンパ節を同定する。単独または併用で用いられてきた。しかし、「色素法は感度が若干劣る場合があり、ラジオアイソトープ法は術中に撮像することが難しいという課題があった」と戸井氏は言う。

 現在は、日本乳癌学会でも、センチネルリンパ節の同定に蛍光物質ICG(インドシアニングリーン)を使用することを推奨している。乳癌診療ガイドラインの中には、「良好な同定率を示しており、実施が勧められる」と明記されている。

 具体的には、まず乳輪の近くから皮下にICGを投与する。ICGは、760~780nmの光を励起すると800~850nmの光を発光するという特性を持つ。これを使って、ICGが発する800~850nm付近の光を特異的に検出するカメラを使って術野を撮影することで、リンパ節の蛍光像を得ることができる。

写真3 MIPSの全体像(提供:京都大学附属病院)
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 手術中は、近赤外光カメラを使って、蛍光像をモニターに映し出す。内視鏡手術の場合は近赤外光カメラを搭載した内視鏡を使用し、開腹手術の場合は近赤外光カメラで術野を撮影する。

 医師は、術野の横に設置したモニターで蛍光像を見ながら手技を行う。通常モニターには、可視光カメラで撮影した可視光像と近赤外光カメラで撮影した蛍光像、可視光像に蛍光像を重ね合わせた映像、の3つの映像を同時に表示する。

 京都大学附属病院では、蛍光像をモニターに映すのではなく、術野にプロジェクションマッピングする可視光投影装置(Medical Imaging Projection System:MIPS、写真3)の開発を行っており、臨床試験で使用しているという。カメラで撮影した蛍光像を患者の臓器に直接投影するシステムで、医師がモニターに視線を移す必要をなくすことができる。臓器の動きや変形をリアルタイムで追従することも可能である。

動画1 MIPSによるセンチネルリンパ節生検の様子(提供:戸井氏)


「あらゆる外科領域で応用」

日本蛍光ガイド手術研究会副代表世話人を務める東京大の石沢武彰氏は「蛍光ガイド技術は超音波エコー検査のように広く使われるようになるだろう」と話す。

 蛍光物質ICGとは、もともと50年以上前から肝機能検査や循環機能検査のための検査薬として臨床現場で使用されている試薬である。生体内で血漿蛋白と結合して高分子化すると発光するという特徴を持つため、古くから蛍光イメージングに使われてきた。

 現在は、肝機能検査と循環機能検査に加えて、センチネルリンパ節の同定や血管および組織の血流評価に関する用途で保険収載されている。肝機能や循環機能の検査、血流評価の用途で使用する場合は、血管をイメージングするため静脈からICGを投与し、リンパ管やリンパ節をイメージングする場合は皮下にICGを投与する。

 血管および組織の血流評価に関しては、2018年1月26日から保険適用になったばかり。これまでICGによる血管造影に関しては、脳神経外科手術時における脳血管の造影に限って保険適用されていた。今回適用範囲が広がったことで、「ありとあらゆる外科的な領域に応用されるだろう」と戸井氏はみる。

 ICGに加えて、蛍光物質5-ALA(5-アミノリブリン酸)も保険収載されている。経口投与して、膀胱癌や脳腫瘍(悪性神経膠腫)を検出することができる。このほか、「胃癌の播種を検出する用途で臨床試験が行われている」と石沢氏は話す。

肝臓癌を光らせ、必要十分な切除を

 ICGは、肝臓癌を光らせることもできる。この用途は保険収載されていないが、臨床研究で用いられている。実際に肝臓癌の蛍光ガイド手術を行っている石沢氏は、「癌自体が光ることは非常に有用だ」と話す。肝臓表面のすぐ下にある癌でも一目見ただけでは見つけられない場合があるからだ(写真2)。

 開腹手術であれば触れたときの硬さから癌の位置を特定することができるが、腹腔鏡手術ではそれができない。超音波を使ってエコー画像から判断する方法もあるが、プローブを当てる場所や角度が変わりやすいという課題があった。ICGを使うと、表面から8mmまでの深さであれば癌が光っている様子を検知できるという。

 肝臓癌が光ることは、必要十分な範囲を切除することにも寄与する。肝臓は8つの肝区域からなり、肝臓癌の手術では癌がある区域を切除する。区域に沿って切除できれば、肝臓の機能を温存することができるからだ。ただし、この区域の境目を肉眼で見極めることは難しい。

 従来は色素法を使って染色していたが、2~3分で消えてしまうことが問題だった。そこで、肝臓の血管にICGを投与して血管を光らせ、区域の境目を同定するという使い方が検討されている。

 今後は、膀胱癌や肝臓癌だけでなく、「様々な癌を光らせることができるようになる」と戸井氏はみる。癌を直接光らせることで、取り残しや過度な切除を防ぐことが期待されている。