内視鏡画像からAIが腫瘍を識別、その実力は?

国内初承認の診断支援プログラムが年内発売へ

2019/01/18 07:00
伊藤 瑳恵=日経デジタルヘルス
出典: 日経メディカルOnline,2019年1月17日 , (記事は執筆時の情報に基づいており,現在では異なる場合があります)

内視鏡画像を人工知能(AI)が解析し、わずか0.4秒で腫瘍か非腫瘍かを識別する――。そんな大腸内視鏡診断支援ソフトウエア「EndoBRAIN(エンドブレイン)」が医療機器として国内で承認された。米国でAIを用いた診断支援システムの承認が相次ぐ中、日本でもようやくAIを用いた医療機器の臨床現場への登場が見えてきた。

 AIを医療に応用する研究が世界各所で進んでいる。米国では2016年12月に、米FDAがAIなどの技術を積極的に取り入れた医療機器を早期に承認する法律を制定。その後、AIを用いた診断支援のシステムが相次いで開発され、2018年4月には眼底カメラで撮影した画像から糖尿病網膜症かどうかをAIを用いて診断するソフトウエアが承認された。

 日本でもAIを用いた診療支援システムの開発は進んでいる。国立がん研究センターは2018年7月に、AIを用いて内視鏡画像から早期胃癌を検出する方法を確立したと発表。ベンチャー企業のエルピクセルもMRA画像からAIを用いて未破裂動脈瘤や血管狭窄を見つけたり、胸部X線画像から確認すべき所見を見つける技術の開発を進めている。

 そんな中、情報システム大手のサイバネットシステムは、昭和大学や名古屋大学と共同で、大腸内視鏡画像からAIを用いて腫瘍かどうかを判断するシステム「EndoBRAIN」を開発。2018年12月にクラスIIIの高度管理医療機器として承認された。日本でAIを用いた診断支援システムが承認されるのは初めてとみられる。2019年内にも、オリンパスが発売する見込みだ。

 EndoBRAINは、オリンパスの超拡大内視鏡「Endocyto(エンドサイト)」を使って520倍倍率で撮影した大腸内視鏡画像をAIで解析し、腫瘍である可能性をわずか0.4秒で数値として出力するソフトウエアだ。大腸ポリープが腫瘍かどうかの判断について、病理診断に対する正診率が98%、感度は97%で、「専門医に匹敵する精度」(昭和大学横浜市北部病院消化器センター長の工藤進英氏)を実現した。

図1●大腸内視鏡診断支援ソフトウエア「EndoBRAIN」を使ってポリープが腫瘍かどうかを判断する流れ(取材を基に編集部作成)
 超拡大内視鏡「Endocyto」を使って520倍倍率で撮影した検査画像をAIが解析し、腫瘍である可能性を瞬時に%で出力する
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 大腸にできるポリープの3~4割が過形成性ポリープ、炎症性ポリープ、若年性ポリープなど非腫瘍性のもので、これらは原則切除する必要はない。だが、臨床現場での腫瘍と非腫瘍の鑑別正診率は70%から80%程度にとどまっており、非腫瘍だと思って放置したポリープが治療が必要な腫瘍だったり、非腫瘍性ポリープを切除してしまうことがあった。そもそも、「非専門医が施術する際には、腫瘍か非腫瘍かの判断ができず、全てのポリープを切除してしまう場合もある」(昭和大学横浜市北部病院消化器センターの三澤将史氏)。切除を行えば出血や穿孔といった合併症のリスクが伴うため、「不必要な治療は減らすべき」と三澤氏は語気を強める。EndoBRAINが腫瘍かどうかの判断をサポートすることで、非専門医が抱えるこうした課題を解決できる可能性がある。

専門医の診断を即座に“答え合わせ”

「言語を問わないため、海外の医師にも使ってもらいたい」と話す昭和大学横浜市北部病院消化器センター長の工藤進英氏。
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 経験を積んだ専門医にとってもEndoBRAINの利用にはメリットがある。通常、腫瘍かどうかを確定するためには病理診断の結果を待つ必要があり、内視鏡を施行した医師の診断を“答え合わせ”するまでに1週間程度の時間を要する。それに対してEndoBRAINを活用すると、わずか0.4秒で病理診断とほぼ同等の情報を入手でき、確信をもって治療を完了できる。「常日ごろから内視鏡を扱っていても、EndoBRAINの評価と自分の診断が一致すると安心する」と三澤氏。EndoBRAINを使えば、常に同じ精度で識別できるため、疲労などに伴う人的ミスも軽減できる。

 EndoBRAINの使い方はこうだ。まず、超拡大内視鏡Endocytoを使って通常倍率で大腸を撮影する。病変が見つかった場合、大きさや形態などを確認し、腫瘍か非腫瘍かをおおむね判断した上で、倍率を520倍に切り替える。その状態で静止画を撮影すると腫瘍である確率が示される。腫瘍である可能性がしきい値に満たない場合は「Low confidence(確信度が高くないです)」とだけ表示される。

腺腔パターンや血管模様を使って識別

 病変全体を様々な角度から撮影し、ほとんどの画像で腫瘍である確率が高く出力された場合は、病変を腫瘍とみなす。ただし、形や表面の構造などを踏まえて「複合的に判断することが大前提」と三澤氏は言う。

 EndoBRAINは、工藤氏のグループと名古屋大学、サイバネットシステムが共同で開発した。昭和大学横浜市北部病院など5施設から収集した10万枚の検査画像と病理検査の結果を照らし合わせて内視鏡専門医が腫瘍か非腫瘍かを1例ごとに判断し、その結果をAIに学習させた。その上で5つの医療機関で100病変を対象に行った臨床性能試験を経て今回の承認に至っている。

 腫瘍か非腫瘍かの識別には、粗さや滑らかさ、凹凸といった画像の質感を測定するテクスチャ解析を行っている。名古屋大学情報学研究科教授の森健策氏のグループが、腫瘍と非腫瘍では腺腔パターンや血管模様、細胞核の大きさが異なることを利用して、312の指標を作成。この指標をもとに、腫瘍である確率をAIが統計的に算出する。例えば、細胞の核は、正常細胞の場合は小さく見えにくいのに対して、腫瘍の場合は形がいびつで大きくなる。こうしたデータをAIに学習させることで、医師と遜色ない精度の識別を実現した。

図2●腫瘍と非腫瘍の画像比較(提供:昭和大学横浜市北部病院)
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 ただ、精度を上げるために解像度の高い画像を使うと、その分解析に時間がかかる。そのため、名古屋大では撮影した画像を適切なサイズに圧縮することで、短時間で高精度な解析を可能にしている。

 EndoBRAINを開発したグループでは現在、腫瘍・非腫瘍だけでなく、腫瘍の良悪性も識別できる次世代の診断支援ソフトウエアの開発を進めている。「腫瘍の中にも、確実に切除しなくてはいけない腫瘍と経過観察をしてもよい腫瘍がある。治療の必要がないものも含めて、それぞれを識別できるようにしたい」と工藤氏は意気込む。

 特に工藤氏が力を入れるのが、陥凹型大腸癌の識別ができるソフトウエアの開発だ。陥凹型腫瘍は、そのほとんどが癌であり、「悪性度が非常に高い」(工藤氏)。一方で陥凹型腫瘍は、わずかに皮膚がくぼむ形状をしているため、粘膜が隆起するポリープとは異なり内視鏡的診断が難しい。「いまだに大腸癌が死因上位に挙がるのは、陥凹型早期癌を見逃しているから」と工藤氏と強調する。工藤氏は世界で初めて陥凹型大腸癌を発見したことでも知られる。その知見を生かした、さらに次世代の診断支援ソフトウエアの登場にも期待したい。