焦点調整の負荷を軽減

 二つめは、運転者の焦点調整の負荷を減らせることである。デンソーが測定した表示距離と焦点調整時間の静的な評価結果を見てみる(図4)。このデータは、(1)20m先の情報の表示を被験者に凝視させた(遠視点)後、表示位置に置かれた表示に焦点が合うまでの時間を記録した値(図4の遠視点→近視点)、(2)表示位置に置かれた表示を凝視した後に、20m先のモニター表示に焦点を合わせる時間を記録した値(図4の近視点→遠視点)である。被験者の数は、年齢を問わず10人弱の平均値とした。

図4 表示距離と運転者の焦点調整時間
HUDの表示距離はメーターなどと比べると遠い位置にあるため、焦点調整時間が短くなる。その結果、運転者の焦点調整負荷が軽減される。
[画像のクリックで拡大表示]

 この結果を見るとHUDの表示は、表示距離がメーターなどと比べると遠い位置にあるため、焦点を調整する時間が短くなっていることが分かる。つまり、運転者の焦点調整負荷が軽減されることになると考えている。

 こうした二つの特徴から、HUDの役割を考えてみる。デンソーが考える表示系HMIの役割は、運転者の「認知」「判断」「操作」という行動のうち、認知の部分を補うものである(図5)。

図5 表示系HMIが目指す姿
運転者の行動のうち認知行動をHUDの表示で補うことで、「いつもの安心」を提供できる。
[画像のクリックで拡大表示]

 常用運転の状態から衝突までの時間をTTC(Time To Collision)と言い、図5の上図で表される。衝突までの時間が短い安全領域を「もしもの安全」と呼んでおり、この領域では運転者に認知・判断・操作を実行させるのではなく、クルマの側で衝突を回避することが求められると考える。

 これに対して、常用運転の状態から警告までの間で「いつもの安心」と呼ぶ状態に運転者を保つものの一つが、HUDで提供する情報と考える。図5に示すように、運転者の認知行動をHUDの表示で補い、「いつもの安心」を提供できると考える。そしてTTCは車速によって変わり、車速ごとに提供すべき情報の距離も異なる。この点については、後半で詳しく述べる。

出典:2017年1月号 pp.78-80 日経Automotive
記事は執筆時の情報に基づいており、現在では異なる場合があります。