固定価格買取制度(FIT)によって、太陽光バブルと揶揄されるほど急速に太陽光発電の導入が進んでいます。これに伴い太陽光発電所に関する権利売買も活発化。現在、売買されているのは、主に未稼働案件の権利です。海外では、「セカンダリー市場」と呼ばれる稼働後の権利売買も活況を呈しており、日本でも早晩、稼働後の権利売買が始まるでしょう。では、太陽光発電所の「権利」とはどういったものなのでしょうか。売買の際に留意すべきポイントを、西村あさひ法律事務所の川本周弁護士に解説していただきます。

【質問1】そもそも、なぜ太陽光発電に関する権利売買が活発化しているのですか?

【回答1】:太陽光発電を爆発的に普及させた「固定価格買取制度(FIT)」は開始から約5年が経過しました。導入量の急拡大や、太陽光パネルなどの価格低下を受け、FITが定める「買取価格」は年々低下しています。

 近年では、太陽光による発電量が増大する昼間に、電力網(系統)が技術的に受け入れられる電力量の上限を超え、系統が不安定になる懸念が指摘されています。このため、太陽光発電所の出力を抑える「出力抑制」に関するルールが導入され、徐々に厳しさを増しています。地域によっては「無制限無補償の出力抑制」が適用されています。これは大手電力各社の送配電部門が、系統の受け入れ容量に懸念が生じた場合に、上限なく出力抑制を実施できるルールのことです。

 つまり、FITを利用した案件は、早期に着手したものほど、より良い条件を備えています。買取価格は高額で、出力抑制ルールも現在よりずっと有利だからです。そして、魅力的な条件を備えた太陽光発電所プロジェクトの権利が、活発に売買されています。

 取引においては、「FIT権利」や「売電権利」といった名目で売買が行われています。しかし、FITを規定している「電気事業者による再生可能エネルギー電気の調達に関する特別措置法(FIT法)」に、FIT権利という言葉は存在しません。

【質問2】「FIT権利」とは何ですか。法律上の規定がないというのは、どういうことなのでしょうか。取引に不安を感じます。

【回答2】FIT権利が何かと問われると、「FIT認定を受けた地位および接続契約上の地位の総称」という答えになります。もう少し説明しましょう。

 発電事業者は、再生可能エネルギーによる発電事業の計画を立案します。この計画が所定の要件を満たしていれば、経済産業省による「FIT認定」を受けることができます。そして、発電事業者が、政府の定める期間(買取期間)および価格(買取価格)で電気を売却する契約(特定契約)を電気事業者に申し込んだ場合、電気事業者は原則としてこれを承諾しなければなりません。これがFITの仕組みです。

 これまでFIT認定は「設備認定」と言われてきました。2017年4月に改正FIT法が施行されたことで、設備認定から「事業計画認定」へと内容に多少の変更が生じていますので、注意が必要です。

 発電事業者は、電力会社という信用力の高い企業から売電収入を得ることができます。長期間に渡り安定した収入を確保することができるのです。もしFITがなければ、発電した電気の売却価格の変動のリスクと、売却できる電力量にかかわるリスクを発電事業者が負うことになります。FITの下では、売却の単価が長期間固定され、かつ発電した電気の全量の買い取りが保証されるため、発電事業者はリスクを負わずに済むのです。

太陽光発電所はFITによって確実に売電収入を得られる
固定価格買取制度(FIT)の仕組み

 しかしながら、前述のとおり、FIT法には、FIT認定を受けた者(認定事業者)の権利を直接定めた規定はありません。「電気事業者は認定事業者からの特定契約の申し込みを拒むことができない」という形で、再エネによる電気の買取拒否を禁止しているのみです。

 電気の買取拒否を禁止することによって、発電事業者は売電価格の変動リスクや売電量のリスクを負わずに済みます。このような発電事業者の利益は、結果的に発生した事実上の利益、すなわち法律学でいうところの「反射的利益」であって、FIT法によって直接保障される権利ではありません。

 法律上は、FIT認定そのものが権利として保護されているわけではありません。ですが、FIT認定を受けた発電事業者としては、売却する電気の価格変動リスクや需要量のリスクを負わないという経済的な利益を得ます。FIT認定そのものに経済的な価値があることは明らかです。

 とはいえ、FIT認定を受けただけでは十分な価値があるとは言えません。特定契約の際に適用される買取価格は、FIT認定だけでは定まらないからです。個別の案件に適用される買取価格は、FIT認定の時期と「接続契約」の申し込み(2015年4月以降の太陽光案件は接続契約の締結)の時期によって決まるため、接続契約の申込時期・締結時期が非常に重要です。また、FIT法改正前の設備認定は、2017年4月1日時点で接続契約が締結されていない場合、原則として失効していますので、この点からも接続契約の締結は重要です。

 こうした理由から、FIT権利の本質は「FIT認定」と「接続契約」にあると言えるわけです。

 なお、FIT認定を受ける前提として、所有権や地上権、賃借権などによる土地の利用権も必要です。FIT認定と土地利用権はセットと考えて良いでしょう。

 「FIT権利」の売買取引では土地利用権も同時に売買の対象に含まれていることも多々あります。土地の権利関係が明確で、地代など土地利用の契約条件が魅力的であれば、これもFIT権利の価値を高める1つの要素となります。

【質問3】FIT権利が、法律上の権利として定められたものではないとすると、財産権として保障されないのではないかと心配になります。

【回答3】確かにFIT権利は、法律上は権利としては規定されていません。ただし、財産的な価値に着目すれば、憲法上の財産権として保障されると考えられます。

 前述のとおり、FIT認定を受け、接続契約を締結すれば、一定の価格で所定の期間に渡っての売電が制度上保障され、発電事業者は、売却する電気の価格変動リスクや需要量のリスクを負わないことになりますので、FIT認定は財産的価値を帯びることになります。適用される出力抑制のルールが有利であれば、その点も財産的な価値を高める要素となるでしょう。

 例えば、政府が不合理にFIT認定を失効させる制度を導入すれば、その制度は国民の財産権を保障した憲法29条に違反することになるでしょう。

 今年4月に施行された改正FIT法は、旧FIT法が認定(設備認定)した案件の失効を定めました。ただし、運転開始済み、もしくは接続契約が締結済みの案件は失効の対象外です。また、改正FIT法の施行前6カ月以内にFIT認定を得た案件は、接続契約締結完了までに9カ月の猶予期間を設けています。いずれも、FIT認定に係る権益の財産的価値を不合理に奪うことのないよう配慮しています。

 このような配慮がなされていることからも、FIT権利は財産権として認められていると言えるでしょう。

【質問4】FIT権利の譲渡方法について教えてください。

【回答4】前述のとおり、FIT権利という単一の権利があるわけではありません。FIT認定における地位や接続契約上の地位を総称したものであると考えられます。

 このため、FIT権利の譲受人がFITによって売電を実施するためには、土地利用権の譲渡も必要です。それ以外にも、発電設備の工事請負契約などの関連契約が締結されていれば、それらの契約上の地位の譲渡も必要です。

 FIT権利の譲渡は、設備や土地などの資産や、工事請負契約などの契約関係と切り離して譲渡されても意味がありません。譲渡人は、これらを一体として譲り渡し、譲受人がこれらを一体として譲り受ける必要があります。法的には、個別の発電プロジェクトに係る一切の財産や契約関係を譲渡するもの、すなわち「事業の譲渡」と整理するのが良いでしょう。

 FIT法によると、認定の対象となった「再生可能エネルギー発電事業計画書」に記した事業の譲渡があったときは、再エネ事業計画の変更について認定を申請する必要があります。改正前FIT法の設備認定では、FIT権利の譲渡については「軽微変更」として届出だけで済みました。ですが、改正FIT法では、権利譲渡の際には改めて認定を受ける必要がありますので注意が必要です。

 接続契約や、その他の関連契約上の地位を譲渡するには、契約相手の承諾が必要です。土地利用権が所有権や地上権であれば、これを第三者に譲渡することになりますが、賃借権を譲渡する場合は地権者の承諾が必要になります。

 このように、事業譲渡の場合、関連する資産や契約関係が再エネ発電事業として一括譲渡することになります。ただし、個々の資産や契約関係を譲渡することに変わりはないため、土地賃貸人や関連契約の相手方当事者の承諾が必要となります。

 この手続きは煩雑です。そこで、再エネ発電事業ごとに特別目的会社(SPC)を設立し、SPCがFIT認定を取得する方法が多用されています。FIT権利の売却に際して、SPCの出資持分を譲渡する方法を取るケースが多くなっています。

【質問5】SPCの出資持分を取得する方法でFIT権利の譲渡を受ける場合、買い主として何を注意すべきでしょうか。

【回答5】SPCの出資持分を取得する方法であれば、事業譲渡と比較して、契約相手からの承諾取得や再エネ事業計画の変更認定にかかわる経済産業大臣の認定取得を省くことができます。

 他方、SPC自体を買収することになりますので、再エネ発電事業に関するプロジェクト・デューデリジェンスとは別に、SPCについてのコーポレート・デューデリジェンスが必要になります。SPCに隠れた債務がないかどうかを確認することが欠かせません。

 デューデリジェンスでは、特定の再エネ発電プロジェクトに特化したSPCとして設立・利用され、無関係の債務を負担していないか、役員に関する報酬の取り決めは適切か、従業員が存在していないかなどを確認します。

【質問6】今後、稼働後案件の売買(セカンダリー取引)が活発になると言われるのはなぜなのですか。

【回答6】再エネプロジェクトへの投資に意欲のある投資家であっても、リスクの許容度は一様ではありません。完工・運転開始に至るまでのリスクを許容できない投資家もいます。セカンダリー取引が活発になり市場が形成されれば、運転開始後のプロジェクトにしか投資できない投資家も、再エネ発電事業へ参入することが可能となります。

 一方、プロジェクトの開発段階から関与した投資家は、セカンダリー取引により、投下資本を早期に回収し、次の新規開発プロジェクトへと資金を投入することが可能となります。セカンダリー市場の発展は、再エネの導入拡大に不可欠と言えるでしょう。マーケットの健全な拡大が期待されます。

* 本稿は執筆者の個人的見解であり、その所属する法律事務所又はクライアントの見解ではありません。

川本 周(かわもと・あまね)
西村あさひ法律事務所・弁護士
2006年弁護士登録。西村ときわ法律事務所(現西村あさひ法律事務所)入所。電力ガス・プラクティスチーム所属。2013年から2年間、日系商社のロンドン子会社にて発電プロジェクトに従事。業務分野はプロジェクトファイナンス、証券化/流動化、電気・ガス事業など。

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