送配電網の維持・運用費用の負担方法が変わる。発電事業者も費用を一部負担する新制度の内容が固まってきた。固定価格買取制度(FIT)を利用する太陽光発電なども適用対象となる見通しだ。実現すれば、発電事業者にとって、これまでにない種類のコストを負担することになり実務への影響は大きい。新制度の概要と、特に影響が大きい再エネ電源への適用方法について、西村あさひ法律事務所の川本周弁護士に聞く。

【質問】発電事業者が送配電網の維持・運用費用を負担することになると聞きました。

【回答】託送料金制度の見直しのなかで、送配電網の維持・運用費用の一部を、発電事業者が負担する制度の導入が検討されています。これまでは小売電気事業者が託送料金として需要家から回収してきた維持・運用費用ですが、電力・ガスシステム改革の進展とともに、見直しが必要になってきたのです。

 発電事業者側の送配電網の維持・運用費用の負担について、明示的に議論されるようになったのは、2016年の秋以降でした。電力・ガス取引監視等委員会が有識者会議(送配電網の維持・運用費用の負担の在り方検討ワーキング・グループ)を設置。2016年9月から議論を重ねてきました。

 今年4月に中間取りまとめを公表。これに対する意見募集が行われ、新制度の導入内容が固まりました。監視委員会は、2020年以降のできるだけ早い時期を目途に、新制度の導入を目指すとしています。

【質問】発電事業者は何の費用を負担することになるのですか。

【回答】上位系統、すなわち配電網以外の基幹系統及び特別高圧系統に係る費用のうち、固定費について発電側と需要側とで負担し合います。発電側が発電事業者の負担、需要側というのは、従来から託送料金として需要家から回収してきた費用のことを指します。

 発電側の負担の規模は、一般送配電事業者10社の託送原価の1割程度と想定されています。

 発電事業者の負担は発電電力量見合いの従量ではなく、kW単位の基本料金として課金します。送配電設備は電源の最大受電電力を踏まえて整備されるためです。

 また、発電量に関わらず必ず発生する基本料金という方法を取ることで、発電事業者自ら送配電網の効率的な利用を促進することを期待しています。

【質問】長年続いてきた託送料金の仕組みを考えると、唐突な制度変更という印象があります。そもそも、なぜ発電事業者が送配電網の維持・運用費用を負担すべきなのでしょうか。

【回答】電力システム改革の進展と深く関係しています。再生可能エネルギーによる発電だけを手がける事業者が多数登場し、一方で、自社電源をほとんどもたない小売電気事業者(新電力)が参入しました。

 旧来の大手電力による垂直統合型の電気事業では、発電部門と小売部門は同一企業でした。送配電網の維持・運用費用を小売り側だけが託送料金として負担しても、発電部門は電源開発の際に、託送料金が過剰に上昇しないよう立地などを考慮してきました。

 一方、発電と小売りとが分離すると、発電事業者は小売り事業者が負担する託送料金に関心を失います。発電事業者は、送配電事業者に対して自らが直接負担するコストにだけ、関心を向けるようになります。

 現行の制度で、発電事業者が負担するのは、電源新設時の系統整備費用である「工事費負担金」のみ。電源の立地選択において送配電網の維持コスト負担についてのインセンティブは働きません。

 発電側でも送配電網の維持・運用費用を負担するという新制度は、電力システム改革に伴うアンバンドリングの当然の帰結といえます。

【質問】電気料金は上がるのですか。

【回答】今回の制度変更は、現行の託送料金原価の範囲を変えないことを前提としています。そのため、小売電気事業者が負担する託送料金から発電事業者の負担分を減額します。その分、託送料金原価が減少するわけです。

 一方、発電側で新たに負担する基本料金は、小売電気事業者への卸供給の金額に転嫁されるでしょう。このため、最終需要家が負担する電気料金は変わらないと想定しているようです。

【質問】再エネ電源についても同様に、送配電に係る発電側基本料金が課せられるのでしょうか。固定価格買取制度(FIT)に基づく売電では、追加のコストが生じたとしても電気の売買価格に転嫁することができないため、発電側基本料金が課せられると収支計画への影響が避けられません。

【回答】再エネ電源も含めて発電側基本料金の適用対象とする方向で検討されています。

 もっとも、FITでは固定された調達価格での売電しかできないため、FIT買取の期間は売買価格に転嫁できません。そのため、発電側基本料金によって生じる追加コストに関して、FIT買取期間中の調整措置が検討される方向です。

 現時点では調整措置のあり方について具体的な制度設計はまだ示されておらず、調達価格等算定委員会において議論される予定です。今後の同委員会における議論の動向には注意しておく必要があります。

【質問】再エネ電源への適用に関する今後の議論の中で、注目すべきポイントを教えてください。

【回答】まず、「調整措置の対象となる案件の範囲」が問題です。運転開始済みの案件も含めて、一定の調達価格を既に確保している案件については、当然ながら調整措置が必要になるでしょう。

 仮に、調整措置の対象が「一定の基準日までに調達価格を確保したか否か」によって決まるとすると、その基準日がどこに設定されるかが重要なポイントになります。

 前述のとおり、発電側基本料金は2020年にも導入される可能性がありますが、一方でFITの調達価格は、開発のリードタイムの長い一部の電源種別については、事業の予見可能性を高めて投資を促進するため、複数年度の調達価格があらかじめ定められています。この中には、既に2020年度分まで調達価格が決まっているものもあります。

 こうした電源種別のうち、調達価格が定められている年度中にFITの認定を受ける案件については、何らかの調整措置が必要という考え方もあり得るところです。

 「調整」の方法も1つの論点です。端的に発電側基本料金を適用しないとするのか、発電側基本料金を適用した上で補償のような手当てをするのか。様々な手法があります。

 発電側基本料金は、発電量にかかわらず最大受電電力(kW)に応じた負担を想定しています。一方で、FIT案件は発電量(kWh)に応じて売電収入を得ていることから、制度導入前後で収益面での連続性がどこまで図られるのかも注目すべきポイントです。

 そのほか、調整措置が講じられる期間が、FIT買取期間の残り全てが対象となるのか、一定の移行期間に限られることになるのかも論点です。

【質問】将来の再エネ事業への影響は考えられますか。

【回答】今後の制度設計のあり方次第といえます。

 日本のFIT制度は、度重なる制度変更を経てきました。運転開始期限の設定やいわゆる過積載の制限など、実務上のインパクトが大きいものもありました。しかし、制度の遡及的な変更については慎重な姿勢が貫かれてきたと感じています。

 再エネを取り巻く多くのマーケット参加者にとっても、わが国のFIT制度について、制度変更リスクが現実的なものとして懸念されることは少なく、こうした共通認識がFIT制度への信頼となっています。この信頼感が、今日まで再エネ案件への積極的な投資や、開発に必要となる多大な資金の外部調達を後押ししてきました。

 新たな「エネルギー基本計画」で再エネは主力電源に位置付けられました。今後も大量の導入を続けるためには、送配電網に係る発電側基本料金の導入に際しても、FIT制度への信頼を揺るがすことのないよう、適切な調整措置を設計することが望まれます。

* 本稿は執筆者の個人的見解であり、その所属する法律事務所又はクライアントの見解ではありません。

川本 周(かわもと・あまね) 西村あさひ法律事務所・弁護士
2006年弁護士登録。西村ときわ法律事務所(現西村あさひ法律事務所)入所。電力ガス・プラクティスチーム所属。2013年から2年間、日系商社のロンドン子会社にて発電プロジェクトに従事。業務分野はプロジェクトファイナンス、証券化/流動化、電気・ガス事業など