「エナリスが今までとは桁違いに安い値段で契約を取りに動いている。うちも負けちゃいました。Jパワーの電源の競争力はすごい」。ある新電力幹部は興奮気味に話す。

 この幹部によると、新電力エナリスと高圧部門の法人顧客向け提案でバッティングするようになったのは11月頭頃からだという。

 エナリスは独立系の新電力ベンチャーとして、電力全面自由化前から存在感を発揮してきた。2013年に東証マザーズに上場を果たしたが、2014年末に不適正会計問題が発覚。創業経営者らが退陣し、現在はKDDIが筆頭株主で約30%出資している。

 そのKDDIがJパワーとタッグを組み、エナリスにTOB(株式公開買い付け)を行うと発表した。8月8日のことだ。買い付け期間は11月7日から12月19日15時半まで。まもなく買い付け期間が終わるタイミングだ。

 両社によるエナリス株の買い付け総額は最大で240億円。KDDIとJパワーの保有分を合わせて総議決権数の3分の2を超えた段階で、少数株主の持つ株を強制的に買い取る手続き(スクイーズアウト)を経て、エナリスを上場廃止にする。最終的には、KDDIが59%、Jパワー41%の割合になるよう配分する計画だ。

 TOB実施期間中に、既にエナリスが安値提案を携えて営業に動き出しているということは、TOBがかなりの確率で成功すると見てのことだろう。

 実際、ある関係者は、「株式の2分の1の買い付けはできそうだ。あとは上場廃止に必要な3分の2まで持っていけるかどうか。これは締め切ってみないと分からない」と明かす。

新電力事業は資本力が必要だ

 では、なぜKDDIとJパワーはエナリスのTOBに動いたのだろうか。この2社の電気事業での関わりは、2016年4月の全面自由化に合わせてKDDIが「auでんき」をスタートさせた時からだ。

 KDDIは関西電力など大手電力とタッグを組んで「auでんき」を展開しているが、すべてのエリアで大手電力と組んでいるわけではない。だが、急速に契約数を伸ばしてきたKDDIにとって安定した電源調達は欠かせない。こうした中、Jパワーが複数のエリアでKDDIに電源を供給してきた。

 いまやKDDIは低圧部門の販売電力量で新電力第2位にまで事業を拡大している(2018年8月実績)。

 また、KDDIは電気事業への参入時より、需給管理をエナリスに委託してきた。かねてKDDI幹部は、「電気事業のノウハウを持った人材はKDDIにはほとんどいない。新たに採用して自前で手がけるよりは、実力のあるパートナー企業に委ねる方が良い」と話していた。

 KDDIは、通信事業をコアに金融やエンターテイメントなどを連携させ、「au経済圏」を最大化させる方針を取る。2017年にはエネルギーを柱の1つに置くことを決めた。新電力事業の根幹である需給管理を委ねるエナリスの経営安定化が、KDDIにとってより大きな課題となったわけだ。

 エナリスの不適切会計問題の後、KDDIが筆頭株主になった背景には、こうした事情があった。数々のM&A(合併・買収)を繰り返して巨大企業になった、KDDIらしい選択だったと言えるだろう。

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