電力全面自由化から2年。新電力にとって厳しい事業環境が続いている。事業継続が危ぶまれるほどの苦境に追い込まれている新電力も少なくない。だが一方で、苦しい中でも売上高を数百億円単位で伸ばしたところもある。この差は何から生まれるのだろうか。新電力の経営人材を育成する「日経エネルギーNext経営塾」の講師3人に、苦境にあえぐ新電力に共通する課題を語ってもらった。

厳しい事業環境でも成長している新電力と苦境にあえぐ新電力。その差はどこにある?
日経エネルギーNext経営塾の講師陣(写真:的野弘路)

村谷法務行政書士事務所・村谷敬所長:需給管理を中心に新電力のコンサルティングを手がけています。これまでに70~80社の新電力を見てきて感じるのは、「販売電力量ランキングは当てにならない」ということ。事業の巧拙は、事業規模ではなく、経験年数によるところが大きいなと。

ビジネスデザイン研究所久保欣也社長:東京電力出身で、今は新電力の設立支援などを手がけています。確かに、新電力の人は、電気事業をやろうとしているのに、ルールを知らない人が多すぎますよね。例えば、電気事業法。読んだことがない人が多過ぎます。絶版になっていますが、「電気事業法の解説」(経済産業調査会)は読んでおかなければならない必読書です。

 電気事業法だけじゃない。電力広域的運営推進機関の「スイッチング支援システム取扱マニュアル」も読んでいない新電力が多い。自社の顧客を増やすには、スイッチングが必須。それなのに、スイッチング時の契約方式すら理解していない。知らないことが理由で、逆ザヤになってしまっている新電力もいるくらいです。電気事業は規制領域ですから、制度を知らないと話になりません。

I.T.I柏崎和久社長:経済産業省の「電力小売り営業の指針」(小売りガイドライン)を読んだことない人も多い。今春まで新電力エフビットコミュニケーションズ(京都府)の社長をしていたんですが、エフビットはそれまで通信が本業で、電気事業は全くのド素人からのスタートでした。

柏崎和久(かしわざき・かずひさ)氏 I.T.I代表取締役社長、エフビットコミュニケーションズ前社長、技術士(経営工学部門)
中央大学理工学部電気電子工学科卒業後、関電工に入社。バイオマス発電ベンチャー、大型蓄電池ベンチャーを経て、日本電気株式会社(NEC)へ。2017年4月に新電力エフビットコミュニケーション社長に就任。わずか1年でエフビットの売上高を倍増、利益率を大幅に向上させた。その経営手腕が買われ、2018年3月に退任後、電力ビジネスにかかわる複数企業でアドバイザーを務める。(写真:的野弘路)

 ただ、周りを見渡すとそんな会社ばっかりでしたよ。みんなルールを知らない。知らないから営業力に走ってしまう。需給管理に至っては、あぶなっかしいやり方になりがちです。それでも儲かっている間はいいけれど、昨冬の日本卸電力取引所(JEPX)の価格高騰で「勉強しないとマズイ」と感じた新電力は多かったんじゃないでしょうか。

久保氏:例えば、燃料費調整額がマイナス4円の時、ある新電力の人が「燃調がマイナスだからきつい」と言っていました。燃料費調整額がマイナスになれば、大手電力会社との価格競争では有利に働きます。追い風なのに、気づいていない。燃料費調整額が上がったら、新電力は吹きとんでしまうかもしれないのですが、誤解したままです。

なぜ新電力は学ばないのか

村谷氏:全面自由化前は、電気事業は素人とはいっても、事業に携わっている人の多くが電気主任技術士とかエネルギー管理士とかの有資格者でした。ところが今では、電気の「で」の字も知らない、本当の素人が多いですよね。

柏崎氏:電気事業には精通している大手電力会社も、新電力事業のことは知らない。大手電力の人は需給管理をやったことがないですから。大手電力の方にお越しいただいて需給管理などの研修をやったことがありますが、とても好評でした。

久保氏:私は2007年に東京電力に入社して、東日本大震災の前に辞めました。東電の新入社員研修のことを思い出すと、エネットやエネサーブを知っていたのは300人中3人しかいませんでした。

柏崎氏:どうして新電力は学ばないのか、その理由を考えていました。私がたどり着いた結論は、新電力は大手電力会社へのリスペクトが足りてないということ。だって、JEPXから電源が調達できるのだって、大手電力がいるからです。大手電力の存在なしに、新電力のビジネスは成り立たない。

久保氏:ルールに加えて、電気の歴史も知らなすぎると感じています。

村谷氏:松永安左エ門を知らない人が電気事業をやったらダメですよね(笑)。電気事業の歴史には、示唆がたくさんあると思います。