東京電力・福島第1原子力発電所事故は、日本の電力ビジネスに構造転換を迫った。今、誕生しようとしている巨大企業は、まさに原発事故の申し子だ。そして、日本の電力市場の行く末を左右する鍵を握っている。

 東京電力ホールディングスと中部電力は3月28日、燃料・火力事業の全面統合へ向けた基本合意書を締結したと発表した。両社の共同出資会社JERA(東京都中央区)に既存の国内火力発電事業を統合する。2017年度上期に合弁契約を締結。その後、発電設備などのデューデリジェンスを実施し、2019年上期までに統合する計画だ。

 日本最大の電力会社である東電と、第3位の中部電の火力発電事業を統合するため、当然ながら日本最大の発電会社となる。保有する発電設備(出力)の国内シェアは約5割だ。

布石は火力発電所の新設だった
東電と中部電が共同で石炭火力を新設中の常陸那珂火力発電所

 東電と中部電は2015年4月にJERAを設立後、同年10月にstep1として燃料輸送・トレーディング事業を統合。2016年7月にstep2の燃料調達や海外発電事業を統合した。そして、今回発表したstep3の国内既存火力発電事業の統合をもって、東電・中部電の燃料・火力事業はJERAに完全統合する。

虎の子の火力発電の切り出し、それでもぶれなかった中部電

 JERA誕生の契機は、原発事故による東電の経営危機だった。単独では成長戦略を描けなくなった東電は、アライアンスに活路を見出そうとした。最大の需要地である関東を営業エリアとする東電とのアライアンスには、東京ガスをはじめ複数のエネルギー企業が食指を動かした。東ガスが本命とささやかれた時期もあったが、東電を射止めたのは中部電だった。

 JERA設立は2015年4月だが、アライアンスの伏線はその前にあった。東電・常陸那珂火力発電所(茨城県那珂郡東海村)における石炭火力発電所の新設である。

 東日本大震災後、電源不足に陥った東電は火力発電の増強に走った。その際、常陸那珂火力発電所の敷地内で65万kWの石炭火力を中部電と共同で新設することを決めた。現在、2021年の営業運転に向けて建設工事を進めている。

 中部電関係者は、「常陸那珂で東電との人脈も含めて関係を構築できたことが今につながっている」と明かす。その後、中部電はJERA設立、そして完全統合へ向けて調整を重ねてきた。

 最も大きなハードルは「福島リスクの遮断」だった。JERAの収益を上限なく廃炉や賠償に投じることになれば、中部電にとってのアライアンス効果は損なわれる。だが、昨年秋からの経済産業省の議論、そして3月22日には東電の再建計画「新々総合特別事業計画」の骨子が公表されたことで、福島リスクの遮断は一定、担保された。(「サプライズなしの東電・新計画、発表遅れの理由」参照)。

 会見に登壇した中部電の勝野哲社長は、東電の再建計画などを踏まえ「(福島リスクは)JERAの企業価値を高める面での制約はない。懸念は排除できた。過度な配当要求が出ないよう、合弁契約の締結までに配当ルールを詰めていく」と説明した。

 既存火力の統合に至るまでには、東電・中部電の内部から反対の声が聞こえることもあった。王者東電の内部には、JERAに燃料・火力部門を切り出すことに対して、「会社がバラバラにされると嫌悪感を持つ人も少なからずいた」(東電関係者)。

3月28日、ついに東電と中部電がJERA完全統合を発表した
東京電力ホールディングスの廣瀬直己社長(左)、東京電力フュエル&パワーの佐野敏弘社長(中央)、中部電力の勝野哲社長(右)

 他方、中部電にとって火力発電は虎の子だ。1960年代以降、他の電力会社が原発新設に奔走する中、中部電は原発の新設に苦戦。中部電の原発は浜岡原発(静岡県御前崎市)しかない。原子力による安価な電力が大手電力の競争力の源泉と言われる時代、原発の保有規模で見劣りする中部電が活路を見出したのが火力発電だった。

 その火力を切り出し、業界トップの東電と統合する。このシナリオに中部電内部の不協和音が報じられたのは、一度や二度ではない。だが、いま振り返ってみれば、JERAへの完全統合に向けて、中部電幹部陣の意思にぶれはなかったと感じる。

「日本の火力発電市場は縮小する」という危機感

 東電、関電に次ぐ業界第3位、三男坊の中部電はかねて「やんちゃ坊主」だった。だが、2006年の「壺事件」を契機に、経営陣を刷新。近年では他の大手電力関係者に、「中部電は何をしようとしているのか読めないから恐い」とささやかれる存在になっている。(「東電が中部電と新会社設立へ」参照)。

 その中部電がJERAへの完全統合を結実させた背景には、並々ならぬ危機感があった。ある中部電幹部は言う。「どう考えても、今後日本の火力発電市場は縮小する。一定の規模を維持するためにはJERAへの統合が必須だった」。

 少子高齢化や省エネの進展によって、日本の電力需要が減少していくのは自明だ。さらに、再生可能エネルギーの普及は今後も続く。ある大手電力幹部は、「大手電力の発電電力量が半分になったっておかしくない」(大手電力幹部)とすら言う。

 しかも、発電所それぞれの競争力も重要になってくる。電力システム改革によって、大手電力を支えていた地域独占がなくなったことで、大手電力各社の発電所は地域内に電力を供給するだけでなく、他の地域にも供給するようになっていくだろう。これは全国大で発電所の競争が始まることを意味している。

 国内での競争に打ち勝つためには、強い発電所を持つことが第一条件だ。ここに規模が効いてくる。火力発電所は2~3年に1度、定期点検のため3カ月程度停止する。発電規模が大きくなれば、定期点検による発電量の減少、すなわち売電収入の減少による売上の変動が小さくなる。また、発電所の更新による長期の売電量減少にも堪えられる。

 勝野社長は会見で、「国内の発電所のスクラップ・アンド・ビルドを進め、最適な電源ポートフォリオを構築する」と説明した。老朽化した火力発電所を必要に応じて更新する。既にJERAがリプレース計画を発表している横須賀火力発電所(神奈川県横須賀市)が、燃料を石油から石炭に切り替えるように、燃料価格や国のエネルギー政策などをにらみ、望ましい電源ポートフォリオに近づけていく。

 そのうえで、世界最大規模となったLNG(液化天然ガス)の調達量を生かし、安価な燃料を活用する。単純に輸入するのではなく、海外における燃料トレーディング機能を織り込むことで、翻って日本向けの調達コストを押し下げようというわけだ。

 こうした考え方は、「アセット・バック・トレーディング」と言われる。JERAは海外での発電所保有も進める方針だ。国内の発電事業の縮小が見込まれるなか、調達した燃料を消費するための発電所を海外にも保有することで、調達の柔軟性を高め、リスクを低減する。

国内外の発電事業と燃料調達、燃料トレーディングを三位一体で

 今後、電力需要の減少に伴って火力発電所は余っていくだろう。卸電力価格が低迷し、収益性が悪化する懸念もある。「JERAは燃料から発電のバリューチェーンを押さえ、国内外の発電事業と燃料調達、トレーディングに三位一体で取り組む。JERAへの完全統合で事業規模を一気に拡大し、バリューチェーン全体で効率化して、ようやく現状の東電単体の発電事業の規模を維持できるかどうか」。あるJERA関係者はこう予測する。

 「現状の東電単体の規模を維持できるかどうか」という言葉には、JERAが現状の中部電の発電事業に相当するビジネスを失うことを織り込んでいる。今後の火力発電市場の縮小を、どれだけ深刻に受け止めているかがうかがえる。

 日本の火力発電事業は厳しい時代に突入しようとしている。大手電力の大半は、未だ原子力の再稼働を経営目標の一丁目一番に掲げる。「再稼働さえすれば経営は安定」と言わんばかりだ。だが、果たして本当にそうだろうか。中部電にJERA完全統合を完遂させた将来の危機は、一歩ずつ近づいてきているのではないだろうか。

卸電力市場はJERAのふるまい1つで行く末が変わる

 ただし、JERAの今後の経営によっては、日本の電力市場が深刻なダメージを受ける可能性があることも忘れてはいけない。

 既存火力の統合によって、JERAは日本の発電設備の5割を保有する巨大発電企業となる。海外の電力市場に詳しい有識者は、「独禁法上の観点から、海外ならJERAの誕生は当局が認めないだろう」と指摘する。JERAも「合弁契約の締結までに公正取引委員会などに説明する」(東電フュエル&パワーの佐野敏弘社長)と言う

 公取に判断を仰ぐ必要があるほど、JERAの市場支配力は大きい。JERAへの既存火力統合は、日本の卸電力市場に新たな寡占企業が誕生したことを意味する。

 だからこそ、JERAの取引実態を注視していく必要がある。JERAが“普通の電力取引”に邁進すれば、日本の卸電力取引の世界は桁違いに活性化する。他方、JERAがこれまでの大手電力の発電部門と同じように閉鎖的な取引に終始した時には、日本の電力市場は成長の道を絶たれるだろう。

 つまり、日本の最大発電事業者となるJERAの意思1つで、日本の卸電力市場は大きく揺さぶられることになる。ポイントは、「発販分離」だ。

 これまで日本の電力市場は、大手電力会社の小売部門が主導権を掌握してきた。大手電力各社の発電部門が発電した電気は、ほぼ100%、自社の小売部門が引き取る。こうして大手電力の小売部門は圧倒的な電源調達力を誇り、小売ビジネスで新電力を圧倒してきた。新電力の競争力が大手電力に依然として劣後する理由は、つまるところ電源の大半を大手電力が握っていることにほかならない。

 大手電力の発電部門と小売部門を分離し、発電部門が自社小売部門のために発電するのではなく、発電事業単体としての最適化を進める。そうすれば、自社小売に全量を販売するのではなく、より高く買ってくれる他の小売事業者へ販路を拡大していこうとなっていくはずだ。JERAはその先兵となるべきだ。

 JERAが、「事業の安定性から長期相対契約で電力を買ってもらいたい」(中部電・勝野社長)というのは、発電事業者として当然の発想だろう。ただ、長期相対で電力を購入するのが東電や中部電の小売部門だけかといえば、それは違う。電力小売りの全面自由化によって、国内には現在、400社に上る新電力が存在する。大手ガスや石油元売り、通信事業者など販売電力量を急速に拡大している新規事業者もある。そして、その多くが長期にわたり安定した電源の調達先を探している。

電源確保の不平等が電力ビジネスの競争を阻害している

 新電力と大手電力が公正な競争をするためには、電源確保の不平等を是正していくことが不可避だ。大手電力において、小売部門は長年、圧倒的な権力を有してきた。だからこそ、大手電力の小売部門は依然として安価な電源を調達し、新電力には太刀打ちできない低価格で販売している。

 国内最大の発電会社となったJERAが、両親会社の小売部門との軛を断ち切り、「公正な電力取引によって、高く買ってくれる人に売る」というビジネススタイルを取るようになれば、日本の電力市場は多いに活性化するだろう。

 JERA関係者からは、「今後は市場対応型のビジネスモデルにしていく」という言葉が聞こえてくる。東電と中部電の発電部門にとって、自社小売りとの強固な関係から、ある意味解放されるJERAへの統合は商機になるはずだ。JERAがより自律的に経営を進めることに期待したい。

 燃調調達の規模とトレーディング機能を駆使し、日本に安価な燃料を持ち込む。さらに、老朽火力のリプレースや廃止を進め、発電設備自体の競争力を高める。こうして発電した安価な電力を、親会社の小売部門以外の小売事業者にもフェアに供給する。JERAがこうした過程を経ることで、大手電力以外の事業者の競争力が高まれば、これまでの電力業界からは生まれなかった新たなサービスや魅力的な料金が生まれるだろう。もちろん、国内への安定供給という責務は変わらず果たされる。

 積年の課題であった大手電力による電源の独占に、風穴を空けることができるかどうか。また、縮小する日本のインフラ産業で新たなビジネスモデルが花開くのかどうか。完全統合を迎えるJERAの行方は、日本の電力ビジネスの今後を占う試金石となりそうだ。

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