大手電力から新電力への契約切り替え作業の途中で、新電力の顧客が元の大手電力に奪い返されるケースが後を絶たない。実は、今の仕組みでは契約切り替えが完了する前に元の事業者に顧客が切り替え手続き中であるという情報が通知される。政府は、この情報を利用した「奪回営業」の規制に乗り出した。

 これほど効率の良い営業手法は、なかなかない――。

 電力全面自由化を契機に導入した「スイッチング支援システム」が、離脱しようとする顧客の引き止めに絶大な効果を発揮している。いわゆる「取り戻し営業」である。

 この取り戻し営業は、大手電力から新電力への契約切り替え時に行われることが多い。例えば、こんなケースがある。

 今年3月、高圧のある法人需要家が、大手電力から老舗新電力への切り替えを決めた。

 契約の切り替えは、まず、新たに供給者となる事業者が電力広域的運営推進機関が運営するスイッチング支援システムを介して「スイッチング開始申込」を行う。現在の事業者は、スイッチング支援システムから自社顧客が他社に離脱するという情報を受け取り、「スイッチング廃止申込」の手続きを進める。新事業者からの開始申込と現事業者からの廃止申込がそろったところで、一般送配電事業者が計器の交換や工事などを進めるという流れだ。

 新事業者である新電力がスイッチング開始申込をした2日後、突然、需要家が切り替えのキャンセルを連絡してきた。「現在契約している大手電力から総額で30%を超える大幅値引きの提案を受けた。おたくへの切り替えは見送る」と告げられた。

引き留め工作に注力する大手電力

 新電力が営業努力で獲得した新規顧客の契約切り替え手続きを始めた途端、その情報が現事業者に伝わり、引き止め提案をされたわけだ。
 
 開始申込からスイッチングが完了し、電気の供給を開始できるようになるまで2カ月程度の時間を要する。しかも、新事業者と需要家の契約締結は、スイッチング手続きの完了が確実になってからが普通だ。スイッチング開始申込後、1カ月が経過した頃に正式に契約を結ぶケースが多い。
 
 つまり、スイッチング支援システムによって自社顧客が離脱しようとしていることを知った現事業者が、引き止め策を講じる時間が1カ月程度ある。需要家が取り戻し営業を受け、切り替えをやめることにした場合、「スイッチング手続きが完了する2週間程度前までは、キャンセル手続きが可能とみられる」(関係者)。

 ある大手の新電力幹部は、取り戻し営業の実態をこう話す。「やっとの思いで契約に漕ぎつけた需要家が、スイッチング開始手続き後に、切り替えをやめると言ってくるケースは少なくない。すべてのケースを把握できているわけではないが、東京電力エナジーパートナー(EP)や関西電力で多く見られる」。
 
 大手電力各社が域内の需要家の離脱を食い止めたいと考えるのはある意味、当然のことだとも言える。関電や東電EPは域内で離脱した顧客を取り戻すことを「奪回営業」と呼び、力を注いでいる。「ある大手電力はスイッチング支援システム経由で離脱の情報が入ってきたら、最優先で引き止め作を講じるよう号令がかかっている」(関係者)との証言も聞かれる。

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