「遠隔診療」の誤解を解いた事務連絡の正しい読み方

医師法20条に抵触する条件を明確化、診療報酬には無関係

2016/03/30 00:00
落合 孝文=渥美坂井法律事務所・外国法共同事業 弁護士

 厚生労働省は2015年8月10日、「情報通信機器を用いた診療(いわゆる「遠隔診療」)について」(健政発第1075号。以下、遠隔診療通知)の解釈を示す「事務連絡」を出した(同事務連絡:PDF)。その内容は、遠隔診療の適用範囲を狭く解釈しなくてよいことを強調するものだった。この事務連絡の世間的なインパクトは大きく、その後、日経デジタルヘルスでも企業、学会、病院など関係者の動向が次々と伝えられている。

 遠隔診療の推進は、政府の医療・健康推進の戦略の一つであり、遠隔診療通知の解釈の明確化は、この流れに沿うものである。しかし、この事務連絡をよく読むと、実は遠隔診療に関する規制の内容は発行以前とほとんど変わっていなかったことに気付く。

 連載第1回となる本稿では、事務連絡の発行までの経緯を説明した上で、事務連絡で明確になった遠隔診療通知の正しい読み方と今後の課題を記す。

規制改革会議の答申を受けて事務連絡を発行

 2015年8月10日の事務連絡は、2011年3月31日に改正された遠隔診療通知の解釈を明確化したものである(遠隔診療通知<改正後全文>:PDF)。法律家から見た場合、新しいルールを定めたものではない。

 実際のところ、厚生労働省も数年前から、遠隔診療通知が遠隔診療に極めて厳しい条件を課しているとの誤解が広まっていることを認識していた。例えば、2013年6月25日の田村憲久厚生労働大臣(当時)の会見でも、遠隔診療の要件自体が非常に厳しいかのように世間に誤解されており、要件を十分に理解してもらっていないとのコメントがされている。

 2015年8月10日の事務連絡は、内閣府の設置する規制改革会議で議論されたことがきっかけになっている。この規制改革会議の第三次答申(2015年6月)では、遠隔診療推進のために遠隔診療通知の内容の明確化や推進するための仕組みづくりが厚生労働省に求められた。それから2カ月足らずで事務連絡が出されたのである。

 事務連絡に新しい内容はほとんど含まれていなかった。だが、その後ベンチャー企業などを中心とする新サービスの提供が始まり、遠隔診療を活用する動きが出ている。そういう意味で、遠隔診療の要件に対する誤解を解くという厚生労働省の目標を達成するものとなった。

離島、へき地は例示に過ぎなかった

 もともと遠隔診療通知の法的位置付けは、同通知に従った遠隔診療が医師法20条(無診察診療の禁止)に違反しないと示すことにあった。その「1 基本的考え方」には、「直接の対面診療による場合と同等でないにしてもこれに代替し得る程度の患者の心身の状況に関する有用な情報が得られる場合には、遠隔診療を行うことは直ちに医師法第20条に抵触するものではない」とある。

 遠隔診療通知の法的位置付けを理解するために、医師法20条の条文を見てみよう。

医師は、自ら診察しないで治療をし、若しくは診断書若しくは処方せんを交付し、自ら出産に立ち会わないで出生証明書若しくは死産証書を交付し、又は自ら検案をしないで検案書を交付してはならない。但し、診療中の患者が受診後二十四時間以内に死亡した場合に交付する死亡診断書については、この限りでない。

 ここでは医師が「診察」をしないで治療を行うことや処方箋を発行すること(無診療診察)を禁止している。「診察」は、問診、視診、触診、聴診、その他の手段により、現代医学から見て、疾病に対して一応の診断を下し得る程度のものを意味すると考えられている。医師間(D to D)の遠隔診療は、かかりつけ医などが患者と対面したうえで専門医からの情報提供を受けることになるので、医師法20条の問題とはならない。

 具体的な遠隔診療が許されるケースは、遠隔診療通知「2 留意事項」に書かれている。離島、へき地を含む直接の対面診療が困難な場合(通知の2(3)ア)、病状が安定している患者の場合(通知の2(3)イ)である。これらのケースでは、「患者側の要請に基づき、患者側の利点を十分に勘案した上で、直接の対面診療と適切に組み合わせて行われるときは、遠隔診療によっても差し支えない」とある。

 この2(3)アの離島、へき地のケースが独り歩きしたことが、これまで遠隔診療の要件が厳しいと理解されていた原因の一つと思われる。だが、2015年8月10日の事務連絡は、その1項で離島やへき地が例示に過ぎないことを重ねて強調している。

 通知の2(3)イは、直近まで相当期間にわたって診療を継続してきて病状が安定している慢性期疾患の患者など、遠隔診療によって療養環境の向上が認められるケースである。遠隔診療通知では、療養環境の向上が認められる遠隔診療の対象として9つのケースを別表に掲げている。事務連絡の2項は、こちらも同じく例示であることを明記している。

 ただし、遠隔診療を適用するにあたって、遠隔診療通知が患者の病状急変時等の連絡・対応体制の整備を求めていることには注意が必要である。2(3)のアとイいずれについても、遠隔診療に患者にとっての利点が認められるかどうか、臨床的な観点も含めて検証が進められていくだろう。2(4)から(9)では、その他の留意すべき事項が書かれている。

想定されていなかった都市型遠隔診療

 では、離島やへき地、慢性期疾患の患者のケースが例示に過ぎないとして、遠隔診療の対象にはどのようなものがあるだろうか。

 忙しくて通院時間が取りにくい働き盛りのビジネスパーソンを対象とする「都市型遠隔診療」も考えられる。だが、2015年8月の事務連絡が出されるまでの規制改革会議、厚生労働省、総務省での各審議会等での議論や、厚生労働省の科研費を利用した研究を見る限り、都市型遠隔診療はあまり想定されていなかったように思われる。

 このため実際のところ、どのような患者に対して遠隔診療を適用できるかについての臨床データは十分に蓄積されておらず、適用には難しい面が残っている。筆者は実際に遠隔診療を行った医師から、「『肩こり』の症状さえ様々な原因がある。対面診療でないと予想外に難しい場面が多い」という意見も聴いている。

意見が分かれる初診への適用

 初診に遠隔診療を用いることができるかについても、意見が分かれる。確かに事務連絡の3項は、初診での遠隔診療を許容する表現とも読める。しかし、総務大臣政務官と厚生労働大臣政務官の共同懇談会における、「クラウド時代の医療ICT の在り方に関する懇談会報告書(2015年11月)」の第4章では「医師と患者との間での遠隔診療については、患者の症状を診断するに当たって医師の嗅覚や触覚が重要な要素となる場合もあることなどを考えると、初診の場面では、直接の対面診療によるべきである」という指摘がある(同報告書)。

 遠隔診療通知の2(1)は初診、急性期疾患については対面診療を原則とし、2(2)は対面診療ができる場合は「対面によるべき」としている。事務連絡の3項は直接の対面診療は必須ではないとしているが、実際には、遠隔診療通知の「対面診療が原則」が厚生労働省の基本的な考え方だと考えられる。規制改革会議の医療・保険WGでも、厚生労働省の委員は、対面診療が原則であることを強調している。

 遠隔診療を導入するうえで重要な問題に診療報酬があるが、対面診療と遠隔診療への厚生労働省のこうした態度の違いが診療報酬の保険点数にも影響を与えている。遠隔診療については、初診は保険点数が認められず、2回目以降の診療で「電話等再診」の要件を満たす場合に72点(720円)が認められているに過ぎない。医師間(D to D)の遠隔病理診断、遠隔画像診断は従来から保険点数の対象となっているが、遠隔診療全体から見れば例外的なものと考えられるだろう。

保険適用外でも通知の順守は不可欠

 事務連絡は遠隔診療通知の解釈と医師法20条に違反するかどうかだけを明確化にしたものであり、保険点数改定に影響を与えるものではない。実際、2016年度の診療報酬改定では、遠隔診療に対する保険点数は対象に含まれなかった。

 なお、よくある誤解として、保険適用外の自由診療であれば遠隔診療の要件が緩くなるという考え方がある。だが、医師法20条の「無診察診療の禁止」は保険診療でない場合にも適用される。実際の遠隔診療では通知を順守することが不可欠である。

 今後の診療報酬の改定基準については、2015年7月22日に中央社会保険医療協議会診療報酬基本問題小委員会に提出された「ICTを活用した医療情報の共有の評価について」に書かれている(同資料:PDF)。ここでは、「遠隔診療はあくまで補完的な役割であることから、診療報酬上の評価のためには、対面診療に比べて患者に対する医療サービスの質が上がるという科学的なデータが必要」という方針を踏まえ、有効性や安全性を個別に評価する必要があるのではないかとしている。

 遠隔診療が許される範囲の明確化・拡大、診療報酬の改定のいずれも、どのような場面で遠隔診療が活用できるかについて科学的データを蓄積することが課題になっている。

海外向けサービスなど残された課題は多い

 遠隔診療の導入では、このほか実務的に検討すべき以下のような課題がある。

  • ・情報セキュリティをどのように確保するか
  • ・本人確認の手段、決済方法の準備
  • ・通信手段、機器の確保と提供する事業者との関係
  • ・保険診療にするか否か
  • ・ICTを活用した病理診断の質の向上
  • ・海外向けサービスの規制範囲

 将来的には、在宅患者の自宅に患者撮影カメラを設置し、血圧計などを患者に装着して、定期的にデータを診療所へ送信し、訪問の有無を電子的に判断することも考えられている。様々な遠隔診療が展開されるよう、遠隔診療に関する技術の発展、臨床に基づく科学的データの蓄積が期待される。 内閣府の規制改革実施計画において厚生労働省が遠隔診療を推進することが定められており、本年度の規制改革会議のモニタリング対象となっている(規制改革実施計画の資料:PDF)。

 海外向けサービスの問題点や、医療行為の範囲や医薬品の配送といった問題も派生してくる可能性もある。これらの点については、今後の連載で改めて触れることにしたい。