薬局は“破壊的創造”を自ら仕掛けよ

【Opinion】山本雄士氏 ミナケア 代表取締役・医師

2017/03/29 10:00
大下 淳一=日経デジタルヘルス
出典: 日経デジタルヘルス特別編集版2017 薬局編,2017年3月6日 ,pp.36-41 (記事は執筆時の情報に基づいており,現在では異なる場合があります)
ソーシャルホスピタル時代に薬局が担うべき役割は、果たして薬局の“外”からはどう見えているのだろうか。「予防」を軸とした新たな医療の姿を提唱するコンセプトリーダーとして活躍しているミナケア 代表取締役・医師の山本雄士氏の声を、日本調剤 常務取締役の三津原庸介氏が聞いた。(構成:大下淳一)

ミナケア 代表取締役・医師の山本雄士氏(写真:栗原克己、以下同)
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2016年に健康サポート薬局制度が始まるなど、薬局は服薬指導だけでなく患者の日々の健康をサポートする役割が求められるようになった。「医療の専門家集団を抱える強みを生かしながら、トータルの健康マネジメントをどのように提供していくか。その案をめぐらせている」と三津原氏は話す。次世代の薬局に求められる役割はどのようなものなのか。山本氏は次のように語る。

 病気になった人が顧客で、薬局はそれを待ち受ける受け皿の一つ。そんな従来の考え方を見直し、自らの役割を再定義すべき時だと思います。「薬剤師が働く職場」「薬剤師がいて薬を扱う場所」という概念に縛られていては、薬局の新しい役割を考える足かせになりかねません。

 我々は次世代のヘルスケアの担い手として、例えばコンビニエンスストアという存在に着目しています。ヘルスケアにおける消費者とのコンタクトポイントとして重要性を増しているからです。

 薬局は消費者から見て、これまで医療やヘルスケアとの接点として最も身近な立場にいました。でもこれからは、ここに多くのプレーヤーが参入してくる。「うちには薬剤師がいます」というだけでは、消費者への訴求点としては弱いと思います。

 「かかりつけ薬局」「健康サポート薬局」ということが盛んに言われるようになりました。ただ、実際の消費者の行動パターンを見ると、薬局が健康に関する良き相談役、サポート役になることはそう簡単ではないと感じます。

 患者はまずは医療機関へ行って処方箋をもらい、それを携えて調剤薬局に行く。これが普通の行動パターンであって、処方箋も持たず健康相談を目的に調剤薬局に足を向ける人はまだ多くないでしょう。

 処方箋を持たない一般消費者をどれだけ引きつけられる存在になれるか。供給者サイドからの目線ではなく、利用者の目線からこれを突き詰めることが、次世代の薬局の役割を考える上で1つのポイントになるのではないかと思います。

 薬局はヘルスケアの新しい価値を生み出す存在にきっとなれる。でもそのためには、薬剤師も経営者も、マインドセットを大きく変えていくことが求められると思います。

「供給者目線ではいけない。顧客に価値を感じてもらえる事業モデルを構築し、それをマネタイズできなくては、薬局は生き残れない」。三津原氏もこう同調する。では、利用者目線に立ったサービスのあり方を、山本氏はどのように思い描いているのだろうか。

 薬局はこれまで、患者という顧客に対して「待ち」の姿勢でいたように映ります。薬剤師という専門家がいる場所に、顧客の方から赴かなければいけなかったわけです。こうした事業形態は、イノベーションの理論から言えば駆逐されていく可能性が高い。

 ある場所へ行かなくては手に入らなかった価値を、顧客の手元へ届ける。米Amazon.com社が起こしたのはまさにこうした破壊的イノベーションでした。これにより物流のあり方は大きく様変わりし、旧来の小売業は存亡を危うくされているわけです。

 医療にもこうしたイノベーションが起こるべきだと私は考えています。医師は病院で患者を待っているだけの存在で果たしていいのか。これからは、ケアの対象を病院の外に探しにいく姿勢が求められるでしょう。

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 医薬品の提供に関しても同じことが言えます。薬局が持つノウハウを、いかに安く手軽な方法で顧客のもとで実現するか。それが問われるようになる。破壊的イノベーションによる価値創造が、薬局にも必要なわけです。これを通じ、「薬局」と呼ばれてきた存在は大きく様変わりすることになると思います。

 医薬分業というこれまでのスタイルについても、顧客から見た価値という視点からは見直すべき点があるかもしれません。医療と医薬品は非常に近い存在だから、両者を分離せず共同でオペレーションした方が利用者にとっては都合がいい。そういう考え方があってもおかしくありません。

 これからの医薬品流通のあり方をともに考えていくパートナーとして、調剤薬局と流通事業者がより密接に組むという方向もあり得ます。もちろん、外にパートナーを求めるのではなく独自の進化を目指す道もある。

 これまで“医薬品流通の関所”として機能してきた薬局が、こうした新しい道のいずれかを選択することを求められる日は近いのではないか。そう私は感じています。

破壊的イノベーションを多くの分野で牽引してきたのが、ICTだ。ヘルスケア分野でも、ICTに着眼した技術やサービスの提案が相次いでいる。ICTを活用したヘルスケアは今、社会全体を見わたすとどのような段階にあるのか。山本氏は次のように分析する。

 ICTを用いたヘルスケアは、イノベーションのフェーズで言えば、まだ育成段階にあると思います。いろいろなプレーヤーがさまざまな挑戦をしている。その中には、生き残るものもあれば淘汰されてしまうものも当然あります。

 現時点で行政に求めることがあるとすれば、それは現状ではニッチな業界にあるイノベーションに対して必要な投資を惜しまなかったり、産業の育成を妨げる規制を取り払ったりすることに尽きると言えるかもしれません。既存の大手プレーヤーを延命させるだけではイノベーションを阻害しかねません。

 イノベーションによって新しい産業を創造する過程では、まずはボリューム(規模)を稼ぐことが求められます。次に品質の担保。その後に、価格を含めた競争段階に入るわけです。では、ボリュームを稼げるようなヘルスケアのイノベーションは今、どこから生まれようとしているのでしょうか。

 専門家が集まってある場所で提供していたサービスを顧客の手元に届けるような転換に、イノベーションの1つの形があると先ほど話しました。スマートフォンやスマホアプリにもそれが当てはまります。

 従来は計算機センターで提供していたような処理を、スマートフォンやアプリがこなせる時代が来たわけです。医療もこの変化と無関係ではない。健康管理向けのスマホアプリなどが次々と出てきています。

 一方、アプリとして切り出されたものが市場ニーズを捉え新しい価値を生み出しているかどうかについては、再考が必要ではないでしょうか。

 スマホゲームを例に取れば、確かにパチンコのように特定の場所で提供されてきた娯楽が、アプリという形で手元で実現できるようになった。でもそれは、既存の産業がスマホゲームにシフトしただけで、本当の意味で新しい市場が生まれたわけではないという見方もできる。フィットネスクラブのサービスが、運動アプリで体験できるようになったという流れも同様かもしれません。

 「これがなかった時代が想像できない」という思いを多くの消費者に抱かせることに成功した時、そこにはイノベーションが生まれたと言える。でもその要素が、今さまざまな提案がされているヘルスケアアプリやウエアラブル端末に存在するかどうかは、まだ分かりません。ただ、そもそも市場がほとんど存在しないサービスをアプリという形に切り出してきただけだとしたら、成功は望めないでしょう。

 これからのサービス開発では「ヘルスケアの本質的な価値をどのような形で提示するか」が厳しく問われると思います。現在はその試行錯誤のフェーズと言えるのかもしれません。

 ヘルスケアの価値ということに関して言えば、医療関係者もサービス事業者も、これまでは“疾患に対するケア”ということにこだわりすぎてきた。健康のケアという視点が抜け落ち、疾患に対するケアにしか自らの存在価値を見いだせなくなったことに、問題があると感じています。新しい価値創造のためには、産業基盤もビジネスモデルもゼロから作りださなければならない。大変なチャレンジですが、そこに私は挑んでいくつもりです。

薬局の新たな価値創造を可能にするイノベーション。それを主導するのは、果たしてどのような能力を身につけた人材なのだろうか。予防を軸とした新たな医療を担う人材を育てる「山本雄士ゼミ」を主宰するなど、後進の育成にも力を入れている山本氏は、次のように語る。

 医療を担う人材について感じるのは、「保健医療の価値」を語れる医療者が少なくなったということです。例えば、なぜ国民皆保険制度が必要なのか、なぜ健康・医療という領域は保険制度で支える必要があるのか、その説明責任を果たせる人がほとんど見当たりません。結果として40兆円という医療費の「額」だけが独り歩きし、糾弾されてしまっています。

 診療報酬が付くサービスに価値があり、そうでないものには価値がない。そうした価値観がまかり通るようになってから、医療にひずみが出てきたのではないでしょうか。確かに、医療の世界でもプロフィット(利潤)の追求は必要です。でもそれとは別の医療の価値がどこにあるかを語れなくては、次世代の医療を担う人材にはなれないと私は思います。

やまもと・ゆうじ
1999年東京大学医学部を卒業後、同附属病院、都立病院などで循環器内科などに従事。2007年に日本人医師として初めてハーバードビジネススクール修了(MBA)。日本内科学会認定内科医、日本医師会認定産業医。2011年2月に「健康を守り、高めることで、人々が社会に長く貢献できる世界を創る」を理念とする企業、ミナケアを設立。ソニーコンピュータサイエンス研究所リサーチャーを兼任。教育活動として山本雄士ゼミを主宰。
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 医療とビジネスの両方の言語が分かり、両者の間を橋わたしできる。そういう人材を育てることが、私が主宰しているゼミの狙いです。

 医療の専門職に就いている人材が、ビジネスのことも分かって経営陣にも意見を言える。または、その逆ができる人材がいる。そういう組織こそが健全ではないでしょうか。

 例えば今の介護業界を見わたしてみると、介護職員はまだワーカーとして働く形が多い。介護職員が経営にも口を出すというケースが果たしてどれほどあるでしょうか。

 薬局にはこれから、薬剤師とそうでない人材、そして経営者が本当の意味で連携できる組織を目指してもらいたいと思っています。ヘルスケアの価値は何かという議論をしたとき、経営者の言葉に「医療者の感覚からはそれは違います」と反論できるような人材が組織の中にいる。そんな薬局がどんどん増えてほしいと願っています。