「囲碁は待てるが、患者は待てない」、人工知能への期待

東京大学 医科学研究所の宮野教授が講演

2016/10/11 12:36
宮川 泰明=スプール
宮野氏
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 東京大学 医科学研究所 ヒトゲノム解析センター 教授の宮野悟氏は、「医療ビッグデータ・サミット2016秋」(2016年9月14日、主催:日経デジタルヘルス)に登壇、「ビッグデータと人工知能で加速する臨床シークエンス研究」と題して講演した。同氏は「人工知能の医療応用に全力をつぎ込むべき」と断言。同氏が所属するヒトゲノム解析センターでは2015年7月からIBM Watsonの利用を始めている。約1年、人工知能を活用してきた上での提言だ。

 こう提言する理由の一つは、これからゲノムに関する情報量が急速に増えていくこと。ゲノム情報を取得するシーケンサーの改良や発展により、かつてない勢いでデータ量の増え方が加速している。ある予測では、2020年の東京オリンピックまでに累計のゲノムデータは2EB(エクサバイト、1EBは100万Tバイト)を超えるとのデータを紹介した。

 また、米国の国立医学図書館の文献検索サービス「PubMed」には約2600万件の論文が登録されており、がんおよびゲノムに関連するものはその1/6にもなるという。さらに、2015年の追加分だけでがん関連の論文は20万件を超えており、人が読んで追える量ではなくなっていると指摘した。こうした膨大な量のデータを扱うためには、人工知能によるサポートが不可欠となるというわけだ。

 宮野氏が人工知能の重要性を主張するもう一つの理由は、がんは思っている以上に複雑だという点。例として、BRCA1というDNAの修復を担う遺伝子を挙げた。この遺伝子に変異があるとがんになるリスクが高くなる。しかし、変異を持っている人を約2万人調査したところ、37%の人は70歳までにがんを発症しなかったという。また変異の種類も365個報告されており、1個の遺伝子だけに注目しても解釈はとても難しいと語った。

 また、加齢と共に遺伝子の変異が起こる。検査のためにがん患部と正常な部位のゲノムを比較すると、大きな違いが見られない。調べてみると実は正常と思っていたゲノムに、既に変異が発生していた、ということがある。これは50歳を過ぎたころから顕著になるという。このようにゲノムの情報はあまりに複雑で、「1人の医師や1つの医師グループで対応できるものではない」(宮野氏)とした。

 ゲノム解析をがん医療に活用しようとした場合、「シーケンサーによりゲノム情報は取得でき、解析により変異があるのも分かる。しかしその変異の解釈が難しく、ボトルネックになってしまう」(宮野氏)。そこで、人工知能に解釈の補助をさせられないか、と考えているという。

 そのためには膨大なデータが必要で、それを活用するためのデータセンターも重要な要素になる。データ量が増えるとダウンロードするのに何カ月もかかってしまい、まともに活用できない。データ直結型の解析センターのような考え方が必要になる。宮野氏は「ゲノム解析のクラウドサービスを提供している会社はそれを意識している。今後はクラウドが主流になっていくと思う」と語った。

 宮野氏は最後に、「人工知能が囲碁に勝つまでは待てるが、患者は待てない」と語り、人工知能への期待をあらためて強調した。

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