調剤薬局への診療情報提供の有用性を検証

電子お薬手帳と統合した簡易PHR構築を見据える

2016/06/21 11:10
増田 克善=日経デジタルヘルス

 患者の健康情報が分からない状態、“暗闇の中”で調剤薬局薬剤師が調剤・服薬指導している状況を変革したい――。

 外来診療情報を処方箋に付けて調剤薬局に提供する取り組みが一部の医療機関で行われているが、ほとんどの付帯情報の内容は検査データなどに留まっている。薬局薬剤師の多くは処方情報だけで病名を類推しながら調剤を行い、服薬指導をしているのが現状である。

 聖路加国際病院教育センターの渡邉直氏らは、処方箋の付帯情報にプロブレムリストを追加した診療情報伝達シートを、患者を介して調剤薬局に提供する試みを実施。第20回日本医療情報学会春季学術大会(2016年6月2~4日)において、「調剤薬局への診療情報提供シート ~簡易PHR構築を睨んで~」と題してポスター発表した。

聖路加国際病院の渡邉氏
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 渡邉氏は、患者の身長・体重、腎機能検査データなどの外来診療情報を処方箋に付帯して調剤薬局に提供する取り組みが、2011年以来多くの病院で行われており、ある程度患者の状態を知ることはできると指摘。「しかしながら、患者の健康問題を包括的に把握するには不十分。診療病名が記載されたプロブレムリストまで踏み込んだ情報提供が必要だ」と研究の背景を説明した。

情報提供の前提はプロブレムリストの作成更新

 渡邉氏らの取り組みは、院外処方箋と一緒に、A4サイズ1枚程度の診療情報伝達シートを添付して患者に渡すもの。記載内容は、次のような項目とした。

(1)患者名(ID)、(2)性別・生年月日(年齢)、(3)体格(身長・体重・体表面積)、(4)直近のバイタルサインデータ(血圧、脈拍)、(5)腎機能(クレアチニン値、eGFR値)、(6)その他の検査データ、(7)アレルギー情報、アラート情報、(8)プロブレムリスト(主要病名群とコメント)、(9)備考欄

 なお、実験的な取り組みのため、電子カルテシステムからのシステム的な項目の自動抽出・流し込みのプログラミングは行わず、コピー&ペーストで伝達シートに入力する方法をとったという。

 患者氏名や性別・生年月日などの患者プロフィール情報は電子カルテから容易に抽出・流し込みで自動入力が可能であり、体格に関するデータ、バイタルデータも電子カルテでプロフィールとしてまとめられていることが多く、同様に抽出・流し込みできる。また、「腎機能およびその他の検査データも部門システムなどから抽出可能だが、(6)についてはどのような検査項目を入れるべきか検討が必要だろう。担当医が直近の検査値から必要な項目を追加選択できる仕組みが好ましい」(同氏)と述べた。

 一方、(8)のプロブレムリストの抽出が最も困難であると同時に、薬剤師に提供する情報として意義のある項目だとし、診療情報伝達シートで実現すべき点であることを指摘した。「患者の健康問題をきちんと伝えるには、(保険病名ではなく)診療病名がリストアップされたものを提供することが重要。ただ、いつ診断名が付いてどのような治療を行ったかという情報を抽出するには、外来担当医によって定期的に患者さんのプロブレムリストが作成更新されている必要がある」と説明。

 現実的には日常診療の中で多くの外来担当医がプロブレムリストの記載ができていない現状に理解を示しつつも、「その実現のためには、診療する医師側に常に患者を統合的に把握し、主要な健康問題についてリストアップする姿勢が求められる」(同氏)と強調した。

電子お薬手帳と統合した簡易PHRに

 渡邉氏らは2015年7月以降、これらの実践に取り組み、診療情報提供シート作成が日常診療の場面で十分可能であることを確認した上で、共同研究者(神宮寺秀幸氏)の所属する調剤薬局グループ(アインファーマシーズ)の111人の薬局長にシートの例を呈示し、その意義・有用性についてアンケートを実施した。また、もう1人の共同研究者(河村綾子氏)が所属する大村東彼薬剤師会には地域医療連携ネットワーク(あじさいネット)における診療情報(カルテ記録)閲覧と比較したときの意義についても、52人のアンケート調査を行った。

薬局長111人へのアンケート調査結果
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 薬局長へのアンケート結果では、「服薬指導・薬事安全に役立つ」が95%、「プロブレムリストは役に立つ」が90%という回答結果を得た。一方、あじさいネットに参加している薬局薬剤師からは、98%が「プロブレムリストは役に立つ」と回答した。

 また、地域医療連携ネットワークで診療記録を閲覧できる環境と比較したとき、「紙媒体の方が直感的で素早く見られて便利」という回答が7割を超えたという。「カルテ記録をスクロールして必要な情報を探し出す作業が大変なため、1枚のシートで提供される方が、利便性が高いという評価だった」(渡邉氏)と述べた。

 同氏は地域医療連携ネットワークによる情報提供は中核病院の一部に留まっている現状から、伝達シートの提供は病院、診療所を問わず可能であることの優位性を強調。一方、「プロブレムリストの作成更新が困難であるなら、少なくとも診療病名を電子カルテ(の既定箇所)に入力し、医師の負担なく自動的に抽出・流し込む仕組みを開発していくべき」だと指摘した。

 また、診療情報提供シートはあくまで処方箋とともに患者に渡し、患者自身の健康情報管理に役立てることを視野に入れるべきだとも話す。「将来的に、処方箋発行のたびに更新されたコンサイスな情報を、紙媒体だけでなくデジタル化して患者に渡し、電子お薬手帳に統合して預託管理できる体制ができれば、患者さんの簡易PHRとして災害時などでも利用可能なアイテムになるだろう」と展望した。