欧米の有力企業が量子コンピュータのビジネス活用を本格的に検討し始めている。独Volkswagen(VW)や米Goldman Sachs(GS)、欧州Airbusなどがその代表だ。米シリコンバレーで2017年12月5、6日に開催された「Q2B Conference」に3社が登壇し、量子コンピュータへの期待をそれぞれ語った。

 シリコンバレーにある航空宇宙局(NASA)の「エイムズ研究センター」で開催されたQ2B Conferenceは、量子コンピュータ向けのソフトウエア開発を手がけるスタートアップの米QC WareとNASAが共同で開催した量子コンピュータのビジネス活用をテーマにしたカンファレンスだ。

 量子コンピュータに関する議論は従来、学会の形式で開催され、登壇者や来場者はその分野の研究者がほとんどだった。今回のQ2B Conferenceのようにビジネス色が強く、「ユーザー企業」による講演まで実施するような量子コンピュータのカンファレンスが開催されるのは珍しい。欧米では既に量子コンピュータが研究のフェーズから産業のフェーズに移行していることを印象づけた。欧米の有力企業が量子コンピュータにどのような期待を抱いているのか。レポートしよう。

世界初の「量子コンピュータ活用企業」を目指すVW

 Q2B Conferenceでも異彩を放っていたのは、欧州最大の自動車メーカーであるVWだ。同社から登壇したのは量子コンピュータの研究者ではなく、グループCIO(最高情報責任者)を務めるMartin Hofmann氏だった(写真1)。

写真1●独VolkswagenのMartin HofmannグループCIO
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 VWは現在2種類の量子コンピュータに関して、実機を使った検証やアルゴリズムの開発を進めている。一つはカナダD-Wave Systemsの量子アニーリング方式の量子コンピュータである「D-Wave 2000Q」で、VWは2017年3月にD-Wave 2000Qを使った検証結果などを発表している。もう一つは米Googleが開発を進める量子ゲート方式の量子コンピュータだ。VWとGoogleは2017年11月に量子コンピュータ用のアルゴリズム開発などを主な内容とする提携を発表している。

 D-Waveの量子アニーリング方式に関しては、Googleなどが「パソコンよりも1億倍高速に解ける問題があった」との検証結果を発表しているものの、従来のコンピュータでは絶対に到達できない計算能力が実現できるかどうかはまだ分かっていない。またGoogleが開発中の量子ゲート方式に関しても、Googleは2017年内に従来のコンピュータでは実現不可能な計算能力があることを示す「量子超越性(Quantum Supremacy)」を実証するとしているが、そのようなハードウエアは現時点ではまだできていない。

 現状の量子コンピュータが「海のものとも山のものともつかぬ」状況であるにもかかわらず、VWが検証を開始したのはなぜか。HofmannグループCIOは「量子コンピュータが商用化された時に、それを可能な限り早く業務で使用する存在になりたいからだ」と説明する。

都市交通サービスの最適化に量子コンピュータ

 HofmannグループCIOはD-Waveのマシンの適応領域に関して、都市交通サービスにおける移動ルートの最適化を挙げる。「VWはオンデマンドのモビリティサービス(タクシーのような自動車を使った都市交通サービス)を提供することを考えている。そのようなサービスにおける車両の移動ルートを、量子コンピュータによって高速に最適化できるのではないかと検証している」。HofmannグループCIOはそう語る。

 都市の移動ニーズを予測するアルゴリズムは、従来のコンピュータを使った機械学習によって開発する。移動ニーズに応じた供給を実現するために、車両にどのようなルートを、どれぐらいの速度で走らせるかという問題を、量子コンピュータを使って解く。「Quantum Enhanced Optimization(量子コンピュータによって改善された最適化)」を実現するのがVWの狙いだ(写真2)。

写真2●VWが明かす量子コンピュータの活用例
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