「リーフ」も「アウトランダー」も

──さすが、米国はセキュリティー技術の先進国というわけですね。ということは、注目すべきは米国の動向ということでしょうか。

杉山氏:今は欧州と米国で国際規格化の主導権を争っている最中です。日本もこれらの規格化の活動に参加し、日本の要望を伝えている段階です。全く知らないところで作られたISOに従いたくはない。機能安全規格である「ISO26262」の二の舞は避けたい。日本でも使いやすいようにしたい、というわけです。

 ただし、欧州と米国でいろいろと戦略を出しているものの、基本的な内容はそれほど変わりません。まだ規格にはなっておらず、少しずつ足りない部分があって、互いに補完できるような関係にあります。従って、いろいろと目配りしつつ、欧州と米国の主張の良いところを取り入れながら日本の指針が決まっていくと思います。

 日本の指針が固まったら、それらを自社の開発や製品に落とし込む活動を行うのが技術者です。ただし、日本でも欧米でも指針が「ふわっ」とした表記になっていることは変わりません。そのため、それをどのように具体化していくかが重要となります。

──では、自動車のセキュリティーの現状はどうなっているのでしょうか。

杉山氏:コネクテッドカーに対するハッキング事例が出てきました。日本車では、日産自動車の「リーフ」や三菱自動車の「アウトランダー」の事例があります。ドイツBMW社やVolkswagen社のクルマの事例も報告されました。これらは、外と通信するマルチメディア系システムのハッキング事例です。制御に関するハッキングは、2015年夏に起きた、米FCA US社(旧Chrysler社)の「ジープ・チェロキー(Jeepブランド Cherokee)」以外はまだ報告されていません。つまり、カーナビゲーションシステムがハッキングされ、「走る」「曲がる」「止まる」というクルマの基本機能を乗っ取られるところまではいかないものの、ボディー系と呼ばれるエアコンの制御やドアロック、パワーウインドーが乗っ取られる事例が出てきているのです。

 現在はマルチメディア系システムにセキュリティー対策を施してハッキングを防ぐことが一般的です。しかし、それだけでは足りないと、自動車メーカーは危機感を持っています。特に、現在注目を浴びている自動運転技術では外から情報をもらってクルマの制御を行うため、ハッキングされた結果がクルマの挙動に影響します。従って、「自動運転を実現するまでには、クルマの制御の中までしっかりとしたセキュリティー対策を施さないといけない」と、自動車メーカーは考えているのです。

 そう考えると、セキュリティー対策に着手すべきは今です。2020年の東京オリンピックの際に東京で自動運転車を走らせると安倍晋三総理が打ち出しました。これに呼応するかのように、各自動車メーカーが自動運転技術の開発を加速し始めました。よく知られている通り、自動車の開発スパンは4年周期です。従って、2020年に市場投入するクルマに新しい技術を入れるのであれば、もう始めていなければ間に合わないというタイミングなのです。