(写真:中山博敬)

伝統が尊ばれるワインと、最先端技術の結晶ともいうべき半導体。一見縁のなさそうな2つの事業を手掛けようとする企業が現れた。前代未聞の新規参入に秘められた思いと勝算に迫った。(敬称略)

 2017年4月、国産ブドウだけを原料とする「日本ワイン」発祥の地として知られ、多くのブドウ農家やワイナリーが軒を連ねる山梨県甲州市勝沼地区に、異色のワイナリーが誕生した。同地区を流れる日川のほとりに建つ「MGVs(マグヴィス)ワイナリー」である。

 洗練された外観や内装が目を引くが、一歩足を踏み入れればそこが普通の空間ではないことに気付く。醸造タンクが並ぶ醸造室は、ガラス張りのクリーンルームになっており、販売所から中の様子を一望できる。その販売所には、インテリアとして武骨な床材や配管がそこかしこに置かれている。MGVsは、半導体工場の建物や設備をほぼそのまま転用したワイナリーなのだ。

 オーナーの松坂浩志は、半導体ウエハーのダイシング加工(大きな円盤状のウエハーを切断してチップ化する工程)などを手掛ける塩山製作所の経営者でもある。同社は、甲州市内の塩山地区と勝沼地区の2カ所に工場を構えていたが、そのうち後者をワイナリーとして再生させたのだ。はやりの言葉でいえば「リノベーション」である。醸造などの専門家は外部から招聘しているが、運営や接客を担当するのは最近まで半導体工場で働いていた同社の従業員だ。

 MGVsで製造するのは、「甲州」を原料とする白ワインと、「マスカット・ベーリーA」を使った赤・ロゼワイン。いずれのブドウも日本固有の品種で、自社の畑を中心に山梨県で栽培・収穫されたものだけを用いている。そのコンセプトは「テロワール(terroir)」。フランス語で土壌や風土といった意味合いを持つ言葉である。

 元半導体工場のワイナリーというだけでも話題を呼びそうだが、クリーンルームなどの設備は単なる飾りではない。MGVsでは、これらの設備や半導体事業で培ってきた技術を実際のワイン作りにも役立てている。

 例えば、クリーンルームは半導体ウエハー加工時と同等のレベルで稼働させ、清浄度の高い衛生的な環境でワインを醸造している。加えて、ブドウを搾汁する工程では、空気中の酸素による果汁の酸化を防ぐために、窒素を充填できるように市販の装置を改造した。そこでも半導体ウエハー加工の技術が生きているという。


(写真:中山博敬)

松坂浩志(まつざか・ひろし)●大学卒業後、大手物流企業の情報部門・企画開発を経て、塩山製作所に入社。1998年、40歳で社長に就任。現在は半導体の加工事業を日本とベトナムで展開。2017年4月23日、勝沼地区の工場をワイナリーとしてオープン。

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