シャルリ・エブド襲撃犯も埋葬された

大石 去年(2014年)、パリで「シャルリ・エブド襲撃事件」が起きました。表向きの問題は、神を冒涜する言論がどこまで認められるかという、いわゆる「表現の自由」でした。一方で、死者の尊厳に関わる問題もあったのです。

 射殺された容疑者の兄弟のうち、1人はフランス北西部にある人口18万人ぐらいのランス在住、もう1人はパリ近くのジュヌビリエという人口5万人ぐらいの街に住んでいましたが、どちらも市長などが容疑者の遺体の埋葬を認めないと言ったのです。 埋葬することでそこがテロリストの“聖地”になることを恐れたからです。ところが、市長が嫌だと言った直後に、フランス政府から「法令上、自治体が埋葬する義務がある」とお叱りを受け、市長は態度を変えました。

山口 法律があることはすごく大事ですね。例えば、日本でも重罪人をどこに埋葬するか。日本の場合は法律でそういったことが定められていません。

大石 日本ではみんなお寺の問題だと思っていますが、フランスでは埋葬しなければ自治体が法令違反になりますから、市長はしぶしぶ従った。実際には誰にも知られないように名前などは表示せず、真夜中にそっと埋葬したようです。ぎりぎりの線で収めたということでしょうが、そうした事情は日本にはほとんど伝えられていません。

山口 ヨーロッパで法令化されたのはいつごろなのですか。

大石 パリだと、墓地そのものは1800年ぐらいが最初だと思います。ナポレオン民法の頃です。町が大きくなると同時に整備を進めていった。都市計画の一環でもあります。

山口 これは思想的にすごく意味がありますね。つまり根源にあるのは、「死者をきちんと弔うことも人間の尊厳の一つだ」という考え方です。

大石 もともと墓地は教会が管理していました。政教分離制度を採るフランスの場合、キリスト教も特定の宗派ですから、ある宗派に偏らないため市が墓地を持っておく必要があります。イタリアでも疫病がはやったとき、遺体をどこにでも放置されるのは困るので、そういう意味での公衆衛生的な管理は当然あります。

山口 今、日本では行政が面倒を見てくれません。だから、死んだときのことが不安で、まずはお寺と契約します。すると戒名を考えなくてはならない。檀家ではないお寺に入る場合、まずは檀家にならなくてはならない。自分が死んだ後のお墓のことを前もって考える必要がある。しかし、ヨーロッパでは行政が面倒を見てくれるから、死後も自分の尊厳が守られるという安心感がありますね。

大石 お寺との契約は、そのお寺の檀家かどうかが一番ですよね。でも、墓銘碑をどうするかは必ずしも一律に決まっていないと思います。フランスでは墓地を設けて提供するのは自治体の役目ですが、そこにどういう墓石を建て、どういう墓銘碑にするかは、家族なり個人なりの自由意思です。だから、墓所の形は決まっていて番号も付いていますが、その上にどういうものを飾るかはさまざまです。

山口 日本の場合は明治期以降でしょうか、「大石家の墓」「山口家の墓」と家の墓になりましたね。ヨーロッパは一部にそういう墓もありますが、個人の名前が書いてあるお墓が多いですよね。

大石 2種類あるようです。「○○家の墓」というのは古いタイプらしく、今は個人の名前が主流です。どういう時代に建てられたかで違うようです。