医師が思い浮かべる「ニセ医学」が規制強化へ

2017/08/30 09:30
増谷 彩=日経メディカル
出典: 日経メディカルOnline,2017年8月28日 , (記事は執筆時の情報に基づいており,現在では異なる場合があります)

 以前、日経メディカル Onlineのアンケートで医師3322人に「『ニセ医学』と聞いて思い浮かぶもの」を聞いたところ、最も多かったのは「広告過剰なサプリ/健康食品」だった(「ニセ医学」と聞いて思い浮かぶのはアレ)。患者が持参したサプリメントや健康食品を外来で見た経験のある医師は少なくないだろう。

 健康食品を摂取することは個人の自由だ。しかし、患者をだますような広告を打って健康被害を与えたり、依存させて標準医療から離してしまうような製品は、「ニセ医学」の誹りを受けることになるだろう。

 国民生活センターは今年7月、「プエラリア・ミリフィカ」を含む健康食品について、安易な摂取を控えるよう注意喚起を行った。プエラリア・ミリフィカとは、ある植物の貯蔵根のこと。これを原材料とし、バストアップなどの美容効果をうたう健康食品が数種類発売されている。これを摂取した結果、消化器障害や皮膚障害といった他の健康食品でも起こる頻度が高い有害事象や、月経不順や不正出血といった女性特有の有害事象が起きたと考えられるケースがあり、今回の注意喚起につながった。同様に、健康食品による健康被害は、これまでにもたびたび起きている。

 最近、こうしたサプリメントや健康食品の「過剰な広告」をさらに規制する動きが出てきている。

125品目中97品目の健康食品が不適切な表示や広告

 食品に関する広告の表現は、以前から複数の法律で規制されている。例えば、健康増進法では健康の保持増進効果などに関する虚偽・誇大な表示の禁止が、医薬品医療機器等法(薬機法、旧・薬事法)では医薬品的効能効果などの標榜の禁止が規定されている。

 違反した場合の処分は法律によって様々だが、例えばある健康食品が健康増進法第26条第1項の規定に基づく特定保健用食品の許可の要件を満たしていないのに、まるで特定保健用食品かのように表現されていたと判断され、事業者に数千万円の課徴金納付命令が出されたこともある。とはいえ、規制の抜け穴を通るような表現がされていたり、時には全く不適切な表現を含んだ広告も存在している。筆者は、サプリメントの広告などを目にしたとき、「この表現はセーフなんだろうか……」と考えてしまうことも多い。

 実際には、全くセーフではない表現が多いようだ。東京都が2017年3月に公表した「平成28年度健康食品試買調査結果」の中で、健康食品の広告や表示における不適切な表現の具体例が挙げられている。それによれば、例えば「集中力・記憶力の低下を防ぐ効果があると言われている」という表現は健康増進法上、消費者に誤認を与える可能性があるという。また、「ついてしまった肥満成分を燃焼」「1日たった1粒でウエスト-○cm! 体重-◯kg!」という表現は景品表示法上、表示の裏付けとなる合理的根拠がなく、消費者に優良誤認させる恐れがあると指摘。「アトピーのかゆみ・あせもの治療」「生活習慣病予防」といった表示は薬機法上、疾病の治療や予防を目的とする効能効果に該当し、医薬品とみなす標榜だとした。

 こうした基準に沿って、東京都が実際に健康食品を購入して調査したところ、店舗で購入した製品では45品目中17品目に、インターネットなどの通信販売で購入した製品では80品目中67品目に不適正な表示や広告が見られた。東京都は、不適正な表示や広告を行った事業者に改善を指導しているという。

「※あくまで個人の感想です」は免罪符になるか?

 さらに、これまで明確にアウトとは言いづらかった表現にも厳しい視線が送られている。例えば、前述の「1日たった1粒でウエスト-○cm!体重-◯kg!」という表現。この文言の片隅に、小さく「※個人の感想であり、効果、効能を表すものではありません」といった但し書きがされていたら、どうだろうか。体験談などの広告上の表現が全ての人に当てはまらなかったり制約がある場合、こうした「打ち消し表示」と呼ばれる文言が多用される。

 この打ち消し表示に「待った」をかけたのが、今年7月に消費者庁が公表した「打消し表示に関する実態調査報告書」だ。調査では、様々なタイプのデモ広告を作成し、それを見た消費者がどのように認識するかを調べている。

 デモ広告の1つに、「毎日たった2錠飲むだけ。忙しくても続けられるから助かります」「『お腹周りがスッキリした』と最近、妻も満足げです」「カロリーを気にせず食べられる! ガマンしなくていいって幸せ!」「あきらめていた服が入った 鏡を見るのがたのしくなりました」といった4つの体験談に、「※個人の感想です。効果には個人差があります」という打ち消し表示が掲載された「体験談型」のものがあった。健康食品の広告にはよくあるタイプだ。

打ち消し表示ありでも効果への期待は変わらない

 調査の結果、体験談に気付いた443人のうち、53.0%が「『体験談と同じような効果』が得られる人がいる」、42.2%が「『大体の人』が効果を得られる」、39.3%が「『自分に効果がある』と思う」と回答した。加えて、体験談には気付いたが打ち消し表示に気が付かなかった369人に、再度打ち消し表示を提示したが、効果に対する認識が大きく変化することはなかった。つまり、実際に製品を摂取した人の体験談を見た一般消費者は、大体の人に効果がある製品だという認識を抱き、「個人の感想」「効果は保証しない」という打ち消し表示に気付いたとしても、「効果が得られる」という認識を大きく変える人はほとんどいないということだ。

 そのため報告書では、商品を使用しても効果・性能などを全く得られないケースが少なくないにもかかわらず、商品の効果・性能などがあったという体験談を表示した場合、打ち消し表示が明瞭に記載されていたとしても、一般消費者の多くが何らかの効果・性能を得られるという認識を抱くと考えられると指摘。その上で、「商品・サービスの内容について実際のもの等よりも著しく優良であると一般消費者に誤認されるときは、景品表示法上問題となるおそれがある」としている。

 さらに、体験談を表示することで一般消費者の誤認を招かないようにするためには、商品やサービスの効果・性能などに適切に対応した表現を用いることが必要とした。具体的には、商品の効果・性能に関して事業者が調査を行った上で、
(i)被験者の数およびその属性
(ii)そのうち体験談と同じような効果、性能等が得られた者が占める割合
(iii)体験談と同じような効果、性能等が得られなかった者が占める割合
といったことを明瞭に表示すべきと求めている。

 一方で医師に求められるのは、患者に摂取している健康食品について相談された際、頭ごなしに否定することなく医療者として適切な情報提供をし、患者が標準医療から離れないようなコミュニケーションを取ることだろう(「ニセ医学」にだまされても患者の自己責任?)。個々の健康食品には問題がなくても、用量以上の摂取をしたり、複数の健康食品を一度に摂取すると思わぬ健康被害が起こる可能性もある。患者の健康被害を防ぐために知っておきたいことや公的な情報提供サイトについては、日本医師会と厚生労働省、国立健康・栄養研究所が作成した手引きが参考になりそうだ。