パルスオキシメータの2015年

発明者・青柳博士と振り返る

2015/12/28 10:30
久保田 博南=ケイ・アンド・ケイジャパン 代表取締役社長(医工連携推進機構 理事)

青柳博士(右)と筆者(左)。2015年12月、新宿にて

 2015年の暮れ、パルスオキシメータの発明者である青柳卓雄博士(現在、日本光電工業 青柳研究室 室長)に取材する機会があった。取材とは少し大げさな表現だが、同窓会と忘年会を兼ねたものと言ったほうが適当かもしれない。

発明の原点「青柳メモ」見つかる

 2015年10月2~4日に聖路加国際大学で開かれた国際シンポジウム“I am Pov”(Innovations and Applications of Monitoring Perfusion and Ventilation)のことは、本コラムでも紹介した(関連記事)。このシンポジウムでの主役である青柳博士には、2つの演題が用意されていた。

 第1の演題は、「パルスオキシメータの着想の経緯」。その講演で使われたパワーポイントの1枚が、当時北海道の医師だった中島進氏宛ての6ページにおよぶ手紙の一部だった。まさに「青柳メモ」と呼ぶのが適当な資料である。すごいと思ったのは最終ページにある「イヤオキシメータ」のブロック図。現在のパルスオキシメータの基本構成であり、これこそが「原点」といえるからだ。

「青柳メモ」(青柳博士の講演資料から)
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 注目したいのは、この青柳メモの日付。1973年3月27日とある。これは、パルスオキシメータの基本特許出願の1年前に当たる。その当時のことを思い出すと、博士とは日本光電工業の開発部時代、5つのグループの中でそれぞれ呼吸系機器と新生児・産科系機器のチーフという隣同士の立場だった。

 パルスオキシメータの発想は、ちょうどその当時のものだったことが分かり、お互いに新しい生体モニタを開発していたことが鮮明に蘇った。筆者のグループは胎児監視装置を開発中で、博士とは机を並べていたにも関わらず「お隣さん」のことは全く知らなかった。だが、「あの時に!」と思うと、その感激をほんの一部ながらも味わうことになった。

5波長理論への挑戦が続く

 第2の演題は、「パルスオキシメータの精度向上」に関わるもの。これが現在の博士の研究のメインテーマだ。

 端的に表現すれば、現在のパルスオキシメータのほとんどが2波長を使用しているに対し、この方式では5波長を使用している。理論上では、現在のパルスオキシメータの精度が±2~3%であるのに対して、±0.5%まで向上させられるという特徴がある。

 博士の話によれば、この理論に関わる正式論文の提出を準備中とのこと。ぜひ早い時期に提出できるようにとお勧めした。同時に、近未来において、高精度のパルスオキシメータの早期実現を強く期待したいという話もした。

真の「第2世代」

 2015年6月、青柳博士にIEEE(米国電気電子学会)から「IEEE Medal for Innovations in Healthcare Technology」のメダルが授与された。受賞理由は、“For pioneering contributions to pulse oximetry that have had a profound impact on healthcare.”となっており、「ヘルスケア分野へ顕著なインパクトを与えたパルスオキシメトリーによる先見的貢献」というものだった。

IEEEメダル
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 この受賞は「第1世代(2波長)」に対してのもので、「第2世代(5波長)」に対してのものではない。ところが、世間一般では、いくつかの会社から「第2世代」と銘打つ商品が販売されている。そこで博士は、前述の国際シンポでの5波長技術に関する講演で、あえてそれを‟REAL SECOUND GENERATION PULSE OXINETRY”と語ったようだ。すると、一瞬、会場にどよめきが起きたという。

 博士は、この5波長技術によって再びIEEE賞を獲得したいと意気込む。こう話す目は、少年のそれのようにすがすがしかった。

パルスオキシメータは極度の2極化へ

 最近の矢野経済研究所の統計(一部、同社の推定を含む)によれば、国内のパルスオキシメータの国内市場は、2014年が12万6000台であったのに対し、2015年は13万9000台に達するという。この中には、据え置き型が2014年では5500台、2015年では5700台含まれているが、その割合は全体の4%程度にすぎず、大方はハンディタイプというのが現状だ。

 この現状から見れば、一般的にいうパルスオキシメータは、ハンディタイプのものが独占しているという状況にあり、初期のクリティカルケア向けから、一般向けに風向きが変わったとも受け取れる。

 一方、2015年に発売されたApple Watchに初めて搭載された健康機能として、脈拍数カウントがある。もしかしてパルスオキシメトリーの導入があるのではないか、と予想していたのだが、時期尚早という判断で見送られた可能性がある。とはいえ、脈拍数の次はパルスオキシメトリーという予測はでき、この動向からは目が離せない。

 こう考えると、一般市場への参入傾向はますます顕著となることも予想される。パルスオキシメータの活躍の場は、病院向けから、健康志向向け、つまり未病、予防への展開も予想されてくる。

 前述の第2世代に向けた高性能化への試みと合わせて考えると、パルスオキシメータは2極化の傾向がさらに広がるだろうと予想される。