医学部を持たない大学の「医工連携」

2015/12/01 00:00
久保田 博南=ケイ・アンド・ケイジャパン 代表取締役社長(医工連携推進機構 理事)
シンポジウムのパンフレット
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 東京・調布市にある電気通信大学(福田喬学長)は、2015年11月26日、「ライフサポート分野における医療機器開発の実践」と題するシンポジウムを開催した。理工科系の大学でありながら、医療・福祉の発展を目指して設立した「脳科学ライフサポート研究センター(BLSC、Brain Science Inspired Life Support Research Center)」が、日本医工ものづくりコモンズ(北島政樹理事長)と共催したシンポジウムだ。その中から見えた、同センターの医工連携の取り組みについて紹介したい。

取り組みのユニークさが目を引く

 BLSCは2013年4月に発足した研究センターであり、比較的歴史が浅い。ところが、本シンポジウムを通して明らかになった取り組みには、ほかに見られない特徴を有していることが分かった。

 同大学の中心が理工学研究であることは、大学名からも明瞭だ。ところが、本研究センターは、脳科学という、いわゆるME(Medical Engineering、医用工学)の中心テーマを標榜しており、まさしく医学との境界領域を扱っている。興味を引かれるのは、同大学内には医学部が存在しないこと。なぜそういう位置付けの大学内に? というのが最初の疑問だ。

 ところが、その疑問への回答は、図らずもこのシンポジウムの中に隠されていた。

特別講演などにも注目すべき話題が

 午後一番に始まったシンポジウムは、同センターと共同研究の体制下にある大学や病院などの関係者からも、多彩な演題の発表があった。そのため、予定の時刻を過ぎても議論が続くなど、関係者の熱の入れ方が伝わってきた。時間不足は、それに続く懇親会へまで持ち込まれるというような状況だった。

 今回のシンポジウムの中でも、とりわけ注目すべき特別講演があった。共同開発団体として活動する上海交通大学の呂宝粮教授によるものだ。タイトルは“Emotion Recognition and Driving Fatigue Detection from EEG”。つまり脳波解析によりドライバーの情緒変化や疲れを評価しようとの試みである。

 最近の中国の交通事故による死者は年間7万5000人にも達し、その防止策が社会問題として浮上しているという背景がある。その対応策を検討して、長年にわたり脳波の解析を中心とした研究の成果が実になりつつある。

 注目したのは、これまでの脳波解析ではあまり使われていないγ波までその対象に入れているという事実。これまでは高い周波数帯にあるβ波が上限で、その上のγ波領域(おおむね26~70Hz)の解析は行われていなかった。ところが、この領域は高次精神活動と直結するといわれ、これまでの低域部分だけでない広範囲の脳波解析によって、情緒や疲れのレベルと結びつけられそう、という研究だ。

 現時点での結果によれば、検出率が70~80%程度まで高まっており、あと2年以内には実用機が市販できそうとの見通しも述べられた。

 本件は演題の一例だが、これ以外にも、東北大学大学院の出江紳一教授から「末梢神経磁気刺激装置」の製品化例や、興味ある最新技術の紹介など話題満載というシンポジウムだった。

「医工連携」の輪を広げるために

 シンポジウムの中で、もう一つ注目すべきテーマがあった。それは、横井浩史教授による同センターでの活動状況についての発表だった。それが筆者の疑問へのもう一つの回答になった。

 同センターが3本の柱と位置付けているのが、光計測技術、脳解析技術、運動機能福祉技術という近年のコア技術であり、それを通しての人材育成を主眼としている。

 例えば、学生の講義体系の中に「体験型講義」という方式を取り入れ、実験演習つきの教育システムを採用している。また、多様な専門セミナーを数多く開催するなど、独特な教育・研究方針を打ち出している。それには、共同団体としての多くの医療機関・大学・研究施設、医療機器メーカーなどが存在し、それを活動の基盤としているのだ。

 これは、医学部が存在しない電気通信大学が適切なパートナーを探すことから始めて、むしろ効果を生んでいることにつながる。よく考えれば、一つのメーカーが自社だけではできない部分を他社と協業するケースに似ている。もしかしたら、このほうが成功する確率が高まることもありうる。お互いに対等関係で、相互の要求を出しあったり、調整したりすることで、かえって能率のよい製品が完成することもあるからだ。

 実は、筆者の事務所も電気通信大学とは目と鼻の先に存在しながら、こうした研究センターの存在さえ知らなかった。ましてや「医工連携」の動きがあることなど想像することすらできなかった。

 今回は日本医工ものづくりコモンズの谷下一夫教授からのご指名で、このシンポジウムへの参加を勧められ、医工連携の一般論を披露することになった。その“副次的”以上の効果として、同大学が目指す「ユニークさを秘めた医工連携の取り組み」を知って、さらなる展開を待望した。また、医工連携を模索する多くの方々にも、こうした取り組みを参考例としてもらえればさらに効率的だ、と感じた次第である。