“スマートコンタクト”日本で承認も、デバイスラグのなぜ

2018/10/10 05:00
久保田 博南=ケイ・アンド・ケイジャパン 代表取締役社長(医工連携推進機構 理事)

 コンタクトレンズメーカーのシードが、眼球内の圧力変動測定が可能な「トリガーフィッシュ センサー」の国内における製造販売承認を、厚生労働省から2018年9月14日付で取得した。高度管理医療機器(クラスⅢ)としての承認取得である。

センサー装着イメージ(写真:シード)
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 コンタクトレンズ内に圧力センサーが埋め込まれており、眼圧を24時間連続モニタリングできる。センサーで取得したデータは、携行する装置「トリガーフィッシュ(テレメトリー式生体信号測定装置)」で受信・記録する。

既存技術の融合で生まれた最新医療機器

 実は今回の機器は、医療機器としてはクラスⅢと高度な分類であるものの、センサー自体は“ローテクノロジー”といえる。

 圧力センサーといえば、まず歪(ひずみ)ゲージが思い浮かぶ。「ホイートストンブリッジ回路」を用いて、センサーの電気抵抗の測定を行う方式だ。この回路は1833年に英国の科学者であるサミュエル・ハンター・クリスティにより発明され、その10年後の1843年にチャールズ・ホイートストンより広められたものである。今回のセンサーにもこの回路が応用されている。

 今から2世紀近く前に発見されたこの回路は、高校の物理学や電気工学を学んだ者にとっては「古典的な原理」である。抵抗体の機械的な変形に伴う電気抵抗の変化を測定して、被測定物(今回の機器の場合は眼球の曲率変動)のひずみ量に換算するものだ。

 抵抗値の変動は微小だが、基本的にはストレインアンプと呼ばれる電圧増幅器によってその微小変化を補完する。見渡せば、どこにでもあるような旧来からの技術であり、今ではローテクの部類のセンサーである。

 このローテクが、高度な医療機器につながった一つの背景が、昨今のMEMS(Micro Electro Mechanical Systems)製造技術の進歩である。微小なセンサーの製造が容易となり、前述の回路をコンタクトレンズの中に組み込めるようになったのだ。

 もう一つが、回路を組み込んだコンタクトレンズに外部からエネルギー(動力)を供給する仕組み。そこで使用されたのが「電波(空間電力伝送)」である。これらの組み合わせがローテクを“最新技術”へと変貌させたのである。いわば、既存技術を巧みに組み合わせた技術の複合品による最新医療機器なのだ。

医療機器としての有用性は…

 では、医療機器としての有用性はどうなのか。シードのプレスリリースによると、今回の機器の使用目的または効果として「眼圧の変化により誘発される角膜曲率の変動を測定し、眼圧変動におけるピークパターンを検出する」と説明されている。

 眼圧には個人差があり、高すぎると視神経の障害の原因となる場合がある。日内変動があると言われている眼圧だが、これまでは病院が開院している時しか眼圧を測定することができなかった。しかし、そのパターンが分かれば点眼薬などで眼圧を下げる対応が可能となる。

 これらは緑内障進行の速度に関わる要因とも考えられているが、まだ完全には解明されていないようだ。プレスリリースには「夜間も含め最長24時間連続で測定し、眼圧変動におけるピークパターンを検出する本機器は、医療現場における夜間の眼圧測定などの負担軽減を含む、眼科医療の臨床の場に貢献できるものと信じております」とのコメントがある。

FDAと比較すると…

 実は今回の機器は、スイスの医療機器メーカーであるSENSIMED社が開発したもの。シードは、同機器の日本国内での販売を担うという役割である。

 SENSIMED社は同機器に関して既に2010年に欧州でCEマーク認証を取得済み。医療機器としての取り扱いが可能になっていた。その後、2016年には米国のFDA承認を取得。筆者の追跡調査によれば、FDAは、いわゆる「De Novo」というシステムによる認可のようだ。すなわち、本来なら類似品がないためのクラスⅢ相当であるものの、クラスⅡにレベルダウンして認可を与えたというわけである。

 前回のコラムでは、「Apple Watch Series 4」のECG(心電図)アプリが同じくDe Novoによる認可を取得したことを報じた。FDAはこのシステムにより、新製品の導入を加速しようとする意図があることは明らかだ。

 ところが今回、ようやく日本では、クラスⅢの承認によって、導入へと至ったことになる。CEマークの取得から8年、日本導入にこれほどのデバイスラグがあるのは理解しがたい。さらに、今回のトリガーフィッシュ センサーの承認には一般的名称「角膜曲率変動測定計」が追加されているが、あえて「新規性」を前面に打ち出す審査体制なら、デバイスラグを生み出すことにもなる。

 医療機器は改良に改良を重ねて進化していくものであり、筆者の考えでは「まずは製品を出す」そして「改良に改良を加える」ことで、有益な医療機器が世の中に出ていく。その点では、輸入品とはいえ、国内初となるスマートコンタクトレンズ分野に、新しい市場が開かれたことの意義は非常に大きい。

 日本国内においては行政と民間で立場が違えば意見も異なる。だが、医療機器は数年で飛躍的に改良される。薬機法においても、改良の壁への対策にウエイトを置かない限り、日本発の新たな機器は成長しない。