日本発、光線力学的治療機器の国際標準規格が発行

医療機器輸出拡大の突破口となるか

2017/08/31 08:00
久保田 博南=ケイ・アンド・ケイジャパン 代表取締役社長(医工連携推進機構 理事)

 2017年8月15日、経済産業省は「先端医療機器(光線力学的治療機器)の安全性に関する国際規格発行」と題するニュースリリースを発行した。医療機器の承認審査の中では世界的にハードルが高いとされる光線力学的治療機器の安全性について、日本から提案した国際規格が発行されたという内容である。

 日本の医療機器産業界の現実は、心臓ペースメーカやコンタクトレンズをはじめとして、輸入超過/貿易赤字の状態が続いている。今回の日本発の国際標準規格の発行は、医療機器輸出拡大への起爆剤となるだろうか。

ネジから始まった国際標準規格化

 普段の生活環境のなかでは、IECやISOといった国際標準規格について身近に感じる機会が少ないかもしれない。だが、生活するにも仕事をするにもこれらの標準規格は必要不可欠だ。その一例として身近な問題を提示することから始めよう。

 古い話になるが、ネジ一つ取ってみても統一された規格がなかった。ネジは木工材の張り合わせや、機械器具の組み立てなど身の回りの製品のどこにでも使用されている便利な留め具だが、寸法やピッチなどまちまち、かつては日本でも多種類が出回っていた。

 初めて国際的に統一されたのが1965年、筆者が日本光電工業に入社した2年後のことだった。当時、「イソ(ISO)ネジ」に統一されるということで、社内でもその対応に大騒ぎをした記憶がある。最初は、ネジの天辺に小さな丸穴をあけ、それがイソネジの目印となっていた。その「共通で同一規格品を使用できる便利さ」ゆえに急速に普及したが、それ以前はネジの径やピッチなどが異なることで、自社製品間でさえ、共通して使用できないケースさえあった。

 イソネジはJISにも取り入れられ、世界規格から波及し日本国内にも共通化されていった経緯がある。これがそもそもISO国際規格の始まり。ただし、国際標準はISO(機械系)とIEC(電気電子系)に分かれている。医療機器の分野でいうと、麻酔器は当初は手動が主体、つまり機械が主体となっていたので、電気系が大幅に導入された現在でもISO規格側に残ったままとなっている。

 医療機器の世界でも標準化が進むことで、「バラツキ」の少ない医療機器が全世界に安全にかつ安定して提供されることになる。言語の分野で例えるなら、世界で共通して使用される「英語」のような役目もある。

今回の日本発・国際標準発行の意義

 このような意味合いを持つ国際規格の歴史や特質を踏まえ、医療機器の分野で、日本発の先端医療機器・光線力学的治療機器がIECとして登録された意義について、その重要性を記したい。本来、特定個別製品についてISOやIECとして標準化する場合、国際的な合意が必須であり、その決定には国際会議をはじめ、登録各国の投票など長い道のりを経て採択される。

 今回、国際標準となった「光線力学的治療機器」は、PDT(Photodynamic Therapy)と呼ばれ、日本が世界に先駆けて実用化した製品。悪性腫瘍の組織にレーザ光を照射することで光化学反応を引き起こし、腫瘍組織を変性・壊死させる治療法だ。現在、薬剤とレーザの照射を組み合わせた外科的治療の中でも“低侵襲ながん治療法”として注目されている。

光線力学的治療(PDT)のイメージ(提供:経済産業省)
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 この方法論を国際規格として制定されるように企画したのが、経済産業省の支援を受けた東京女子医科大学 先端生命医科学研究所や関連メーカーで、IECへの発案は2015年1月にスタートした。これらの諸団体の地道な努力により、約2年半で正式に国際規格発行に至った。

 世界各国で機器が利用されるためには、各国の法規制に基づき、医療機器としての安全性などの審査が必要となる。その審査基準の前提となる個別安全性の国際規格(IEC 60601-2-75)を日本が提案し発行させた、いわゆる日本発のIEC規格なのである。

 ちなみに、このIEC 60601-2-75の邦訳を試みるなら「光線力学的治療機器の基礎安全性および基本的性能に関する個別要求事項」となる。

国際規格化という“強力ツール”による商品化戦略

 今回の経済産業省の発表にある通り、個別規格・IEC 60601-2-75が制定されたことのメリットは大きい。特殊技術を含む製品を保有する企業や国にとっては、規格策定の当事者として活動できるため、原案作成の主体者となれる。したがって、当該医療機器の規格(ルール)をコントロールしやすく、舵取りもしやすい。しかも新規製品ゆえ、市場動向を見据えつつ製品化に向けての「商品戦略」を練ることが可能だ。

 これまで、日本で発明された医療機器は、パルスオキシメータやOCT(Optical Coherence Tomography:光干渉断層計)などあるが、先に海外にて製品化され、かつ国際規格化も外国からの発案で、日本に主導権がないまま決定されてしまった事例がある。

 こうなると、せっかく開発した国内独自技術が製品化の過程で、外国製品に遅れ劣る結果にもなり、世界市場を目指すケースなどでは圧倒的に不利ともなりえる。こうした事態を避けるうえでも、日本独自の開発品は、その特徴となる項目を含めた「国際基準化」をしておくことで、大きなメリットとして還元される。

 新製品開発の企画を行う上では特許戦略もあるが、それにも並行して国際規格化という戦略の意義を考慮しておくべきだろう。商品化が実現した暁には、国際競争力の高い製品として輸出促進にとっての追い風となるからだ。